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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
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二日酔いで昨日の醜態を知らされて凹んだけど訓練に出発する

俺は叫びながら空しく棺の蓋を叩き続けた。

蓋はびくともしなかった。

力を入れて何とか棺の蓋を動かそうとしても頑として動かなかった。

俺は二日酔いで軽く頭痛がする頭を抱えてしまった。

このままここで朽ち果てるのだろうか?いったい何でこんな事に…

いくら記憶を取り戻そうとしても昨日の夜に四郎に抱き着いてマブダチ!マブダチ!と叫んだ辺りからすっかり記憶が消えていた。

俺は棺の中でさめざめと泣き始めた。


その時棺のどこかでスマホの着信音が鳴った。

俺は携帯の在りかを探し、上着のポケットの中にあったスマホを取り出した。

真鈴からの着信だった。

俺はスマホの画面を見て改めて涙が出てきて電話に出た。


「もしもし、もしもし!」

「彩斗、起きてるの?」


真鈴のけだるそうな声が聞こえて来た。


「真鈴!助けてくれ!今棺の中なんだよ!

 きっと誰かに拉致されて埋められているんだよぉ!

 このままじゃ死ぬよ!死んでしまうよ~!」

「…ああ、判った判った…四郎、ねぇ四郎~彩斗が起きたって~」


通話がぶつりと切れた。

俺はスマホを握りしめて放心状態になった。

その時、棺の蓋が開いた。

片手で歯を磨きながらもう片手で軽々と棺の蓋を支えている悪鬼の顔の四郎が俺を見ておはようと言った。

四郎はそのまま片手で棺の蓋をずらし、歯を磨きながらバスルームへ歩いて行った。

状況が掴めずに体を起こすとそこは四郎の寝室だった。

軽く頭痛がする頭を振って棺からでてダイニングに向かうとバスローブを着た真鈴がけだるそうにコーヒーを飲んでトーストを齧っていた。


「起きた~?この酔っ払い。」


真鈴は俺の顔を見て呆れた顔で声を掛けた。


「真鈴…俺はいったい…」

「ええ!覚えてないの~?

 昨日は大変だったんだよ~!」

「…え…俺何かした?」

「もう、説明はあとあと!

 その皺だらけの服を着替えてシャワー浴びて着替えて顔洗ってひげ剃って歯を磨いてすっきりしなさいよ。

 あたしと四郎はシャワー済ませたから。

 彩斗の昨日の事は…まぁ、ゲロを吐かなかった事だけが唯一の救いだわ。」


真鈴はそう言うとまたトーストを齧った。

歯磨きを終えた四郎がダイニングにやって来ると俺の顔を見てにやりとした。


「どうだ彩斗、棺の寝心地は良かったか?」

「え!じゃあ、棺に俺を入れたのは…」


真鈴が呆れた声を上げた。


「彩斗、あんたが今日は棺で寝る!とか言って自分で棺の中に入って四郎に蓋を閉じさせたの覚えてないの?」

「…」

「あ~話はあとあと!

 さっさとシャワー浴びてきなよ!」


俺はのろのろと寝室に行き皺だらけになった服を脱いで着替えを持ち、バスルームに行った。

昨日、俺は何をしたんだろうかと不安を感じながらシャワーを浴びた。

その時右のこめかみがズキンと痛かったので見てみると小さなこぶが出来ていた。

洗面台で改めて顔を洗い、髭を剃って歯を磨いたら幾分すっきりとしたが昨日の記憶は戻らなかった。


ダイニングに戻って時計を見ると午前9時を回っていた。

真鈴が俺の為にトーストとベーコンエッグ、サラダとオレンジジュース、コーヒーを用意してくれていた。

俺は席に着いたがあまり食欲は無く、もそもそとした動作で食べ始めた。

四郎と真鈴が食後のコーヒーを飲みながら俺の顔を見てニヤニヤしていた。


「ねえ、彩斗、397人と半分この女の人って何の事?」


俺はぎくりとして動作が止まった。

確か昨日、『みーちゃん』で思考暴走の発作を起こした記憶は残っているがまさか口に出して言っていたのか?


「ななな、なにそれ?

 俺、そんな事『みーちゃん』で言ってた?」

「ううん、本当に覚えていないの?

 昨日は『みーちゃん』で歩けなくなって四郎が彩斗をおぶってくれて帰って来たんだよ。

 大変だったんだから。

 会計する時だって…あんた、あんなに現金持ち歩かない方が良いよ。

 財布開いてカウンターにドン!て置いて釣りは要らねえ!とか言っちゃってその時財布の中のお札がドバ!て出ちゃって私と四郎で拾い集めたんだから。

 みんなびっくりしてたわよ。

 全部拾ったと思うけど支払い済ませて残りのお金71万円くらいかな?財布に入れといたわよ。

 ママさんなんて彩斗が色々あって疲れてるのかしら?こんなに酔っぱらったの初めて見たって心配していたわよ。」

「…で…その397人の…」

「ああ、四郎におんぶされてマンションに帰る時に俺はせめて397人と半分こした女の人がいればぁあああ!とか叫んでいたわよ。

 道行く人がくすくす笑いながら見ていて恥ずかしかったわよ。」

「まぁまぁ、真鈴だって途中で力尽きて歩けないよ、とか言うから、われが彩斗をおんぶして真鈴を肩に担いでマンションまで帰って来たんだぞ、われもこれは少々目立つなと思ったぞ。」


四郎が言うと真鈴は慌てた声を上げた。


「ままま、まぁ、私も相当飲んだけどね。」

「オートロックと言う物のナンバーを彩斗からなんとか聞いてマンションに入れたから良いが、なかなか大変であったぞ。」

「…ごめんなさい。」


俺は首をうなだれて謝った。


「それから部屋に帰ってから彩斗が俺は…プッ、リア充王ってなに?」

「うぁあああ!そんな事言ってた?」


次から次へと暴露される俺の醜態に耐え切れず俺は目の前の空間をねこじゃねこじゃのように掻き毟った。

もう止めてほしいが最後まで俺の行動は知りたい。


「…それで?」

「それで彩斗はトイレに入って、んがぁあああ!とか雄叫び上げてトイレを済ますと、ズボンを半分下ろしたままで、俺はリア充王になる!みんなで集団自殺は嫌だ!リア充王になって397人と半分この女の人を!とか叫びながら四郎の棺に入って頼むから蓋をしてくれ!と言って出て来なくなったのよ。」

「………」

「ああ、頭のこぶは棺に入ろうとして半分下ろしたままのズボンが足に引っかかってこけて棺の角にぶつけた時のよ。

私達が殴ったりしたんじゃないからね。」

「………」

「それで四郎が棺の中の彩斗のズボンを上げてベルトを締めてあげて棺の蓋をしてあげたのよ。」

「……俺は……俺は…」

「まぁまぁ良いじゃないか、あのママさんも彩斗がこんなに酔っぱらったのは初めて見たと言っていたから、普段はそう酔っぱらわないのだろう?」


俺はこくりと頷いた。


「まぁ、ここ数日色々あったし忙しかったみたいだからね~でも、彩斗はこれから1人で飲みに行くのは控えた方が良いよ。

 あんな時に悪鬼に出くわしたら大変だもの。」

「…そうだね。」

「でも羨ましいな。

 われは吸血鬼になってから全然酔っぱらわなくなったからな。

 不老不死の代償と言えばしょうがないと言えなくも無いがな。」

「あら、四郎は酔っぱらわないの?

 昨日はずいぶん上機嫌で少し酔っていたように見えたけど。」

「酒を飲んで暫くは酔うぞ。

 だが、どんな強い酒を飲んでも長くて数分、早ければ数十秒で素面になってしまうのだ。

 だからそこそこ雰囲気を楽しむ事は出来るが、昨日の彩斗ほどには、いや、真鈴ほどにも酔わないな。」

「なるほどそれは少し寂しいわね。

 さて、今日は死霊屋敷に行くんでしょ?

 彩斗、早く食べちゃいなさいよ。」

「うん…」


俺は食欲が消えうせたが無理にでも食べる事にした。


「われらも出掛ける準備をするか。

 出かける時は普通の服装で良いが、この前買った紺色の戦闘服やブーツ手袋バラクラバなど装備一式は持って行くからな。」

「はぁい。」


真鈴が返事をしてゲストルームに行った。


もそもそと食事を続ける俺に四郎が顔を近づけた。


「二日酔いか…安心しろ彩斗、われがしごいてやれば二日酔いなどあっという間に吹き飛ぶぞ。

 血反吐を吐きまくるかも知れないがな。」


四郎がニヤリと笑って寝室に行った。

俺は急いで食事を終わらせようと頑張った。


「彩斗、キャンプするかも知れないからキャンプ用具玄関に出しておいてよ~!」


と真鈴の声が聞こえてきた。


食事を済ませて皿を洗った俺は自室に戻ってなるべく動きやすい服に着替えた。

そしてクローゼットからキャンプ用具一式を取り出し玄関に置き、四郎と真鈴と俺とで死霊屋敷に持って行く荷物を玄関に置いた。

セキュリティショップで買った装備一式の他に四郎は武器のうちのいくつかを入れた黒い大きなバッグと分厚い本を何冊か、真鈴は着替えの入った大きなバッグ、そして、最低限の食器がいると言いだして段ボール箱に人数分の皿や、鍋フライパン包丁まな板などを詰め込んだ。

玄関に積みあがった荷物の山に俺達はため息をついたが何往復かして荷物を運び、何とかランドクルーザーに乗せた。


「ふう、何とか荷室に収まったね。」


後部ドアを閉めながら俺は言った。

もう時計は10時30分を廻っていた。


「彩斗、二日酔い酷いんじゃないの?

 私が運転してあげようか?

 うん、そうしよう!」


真鈴が俺からキーを取り上げた。


「ちょっと真鈴、これ運転できるの?」

「大丈夫!任せなさいよ!」


自信満々に言う真鈴に俺は口答えできなかった。

しかし、用心の為に俺は後席に乗り、四郎も何か危険を感じ取ったのか後席に乗った。


「ちょっとあんたら、失礼じゃないの?」


ランドクルーザーの運転席に乗り込んだ真鈴はそう言いながらもミラーと座席とハンドル位置を調整してシートベルトを閉めてからランドクルーザーを発進させた。


「彩斗、これ、カーナビの案内通りの道で良いのよね?」


思いのほかスムーズに車を走らせる真鈴が言った。

ランドクルーザーは比較的大きな車だが、とても若い女性が運転するとは思えない堅実でいて、もたつかない落ち着いた運転ぶりに俺は感心した。


「真鈴、運転上手いね~、どこで覚えたの?」

「ああ、実家にランドローバーのディフェンダーって言ったっけ?

 その車が作業用に置いてあって良く運転させられたのよ。」

「ええ!ディフェンダー?

 その車、俺はもう注文してあって代金も払ってるんだけど納車に1年位掛かると言われてディフェンダーが来るまで今この車に乗っているんだよ。」

「あはは、四郎が言ってるのは新型でしょ?

 うちのは10年位前からあったから旧型よ。

 この車に比べてもハンドル重いしギアも重くて最初は運転に苦労したけどね、凄く頑丈な車だったけど、新型は運転しやすいみたいね。

 でも、旧型のディフェンダーで林道走ったりガチンコのオフロード走ったり高知の町まで買い物に行ったりしたから全然平気よ。」

「へぇ~凄いね。」

「ところで真鈴、途中で買い物があると言わなかったか?」


四郎の言葉に真鈴がハッとして答えた。


「ああ、そうそう忘れるところだったわ。

 彩斗、四郎、途中で薬局寄るわよ。

 トイレットペーパーとか四郎が言った衛生用品、消毒薬とかも買わないとね。

 あと、スーパーに寄って何日分かの食材も買おうよ。」

「そうだね。」


暫く走って街道沿いに大きな薬局を見つけ、真鈴は駐車場にランドクルーザーを置いた。

車庫入れも真鈴は簡単にこなしたことに俺はまた感心した。


薬局に入り、まずトイレットペーパーとキッチンペーパーなど台所に必要そうな物を買い、買い物カートを押しながら俺達は消毒薬などのコーナーに入った。


「君らは新品の靴を履いて駆け回る事になりそうだから靴擦れやマメの治療に必要な物を沢山買い込んでおいたほうが良いぞ。

 小さいすり傷や切り傷の為の物も必要だな。」


四郎の助言で俺達はクスリやガーゼ、その他必要を思われる物を大量に買い込んだ。

買い物を終えてランドクルーザーに荷物を載せると荷室はほぼ満杯になった。

俺は助手席に乗り込むと真鈴が笑顔を浮かべた。


「あら、彩斗、助手席で大丈夫?」

「真鈴は俺より運転上手いかもな。

 それに、カーナビ見ながら1人で運転は面倒だろ?」

「うふふ、そうね。」

「あ、ところでね。」


俺は財布から10万円づつを出して真鈴と四郎に渡した。


「これは真鈴達が買い物した時に使ってね。

 必要経費で落ちるかも知れないから領収書やレシートは取っておくように。」

「うん、判ったよ、彩斗太っ腹~!」

「あとで監査はするよ。

 まぁ、給料の前渡しと言う事で。」

「がっちりしてるわね~あとは食材か…」


真鈴がランドクルーザーのエンジンをを掛けて薬局から出た。

青空の所々に白い雲が浮かび、絶好のキャンプ日和だった。

俺の二日酔いもだいぶ収まって来た。


「あ~いい天気ね~!

 気分が良いわぁ~!」

「本当にそうだね~!

 楽しくなりそうだな~!」


はしゃぐ俺達を後部席から見ていた四郎はにやつきながら言った。


「君ら、これから楽しいキャンプやハイキングに行くと思っているだろうが…まぁ、着いたら判るな。」


四郎の不気味な笑顔の謎は死霊屋敷に着いてから解けた。





続く


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