真鈴とはなちゃん仲直り…今後の予定と家族連れの悪鬼をどうするのか…
俺はやれやれと思いながら大声で回数を言いながらスクワットをした。
厳しくてきつい。
しかし、嫌々やらされているかと言えば全然そうではなかった。
あのブラック企業で社畜と呼ばれるころとは全然違った。
いったいこの気持ちは何なんだろうか?
ダイニングの開いたドア越しに真鈴がはなちゃんを抱いて何やら笑顔で話している。
四郎がそれを笑顔で見ながら朝食の配膳をしているのが見えた。
そうか、これなのかな?
と俺は思った。
俺達がしようとしている事は少し赤面する言葉で言うと『愛』と言う事だ。
人が理不尽に殺されたりすることを防ぐ、たとえ俺達に命の危険があったとしても、人を助ける。
無償の愛で人々の命を助ける。
このことに大きな意義を感じているけれど、それ以上に俺が一人の人間、それもかけがえのない大事なメンバーとして四郎や真鈴から認められているという実感。
その実感が厳しい訓練や恐ろしい体験にくじけそうな俺の心を支えてくれているのだろう。
俺達はたった3人、はなちゃんを入れれば4人と言う少人数だけどお互いを守り支える事を忘れなければ悪鬼との戦いも続けて行けるだろう。
「19~!」
「よし!彩斗!こっちに来て朝飯だ!」
ダイニングから四郎の声が聞こえてきた。
テーブルには丸く平たいパンのような物、肉と魚と野菜がたっぷり入ったスープ、サラダが並んでいた。
「いただきます!」
俺が元気よく言うと四郎と真鈴が笑顔で俺を見た。
「彩斗、元気が良いな。」
「彩斗、このパン美味しいよ!スープもサラダも!早く食べて見なよ!」
丸く平たいパンをちぎって口に入れると香ばしい香りが口の中に広がり、とナッツとチーズが練り込んでいて、上手く口では言えないが何とも豊かな味がした。
「うん!おいしい!」
「それは良かった。
オーブンの使い方がいまいちよく判らんのでフライパンで焼いたが旨く焼けたようだな。」
「これ、フォカッチャみたいね!凄く美味しいわ。」
「名前は良く知らんがイタリア系の移民から教わった作り方だ。
練ってから寝かせる時間を少し短縮できるのでパンよりも時間がかからないからな。
彩斗、スープも食べて見ろ、残り物の食材を入れたが味付けは旨く行ったようだ。」
俺は四郎に勧められてスープをスプーンで口に運んだ。
魚や肉と野菜がぎっしり入っているがハーブなどで臭みを消してあり、豊かな風味を感じて体に優しいスープだ。
「これも美味しい!」
考えてみたら四郎は俺達が寝ている間に朝の散歩のルートを作り、朝食の準備をしてくれている。
そして落ち込んでいる真鈴の為にはなちゃんと話をつけてくれた。
訓練は厳しいけれど四郎の教えは的確できちんと俺達を監督してくれている。
一番時間を使い頭を使ってくれているのは他でもない、四郎なんだ。
「それは良かった。
場合によっては今日いったんここを引き払うのだろう?
料理は全部平らげて行かないとな。」
「そうそう、彩斗、今日は月曜日だけどこれから予定をどうするか決めないとね。」
「そうだよね、まず今週はやる事が沢山あって今日中にはマンションに帰らないといけないかな?
もうジョスホールからダカット金貨のお金は振り込まれていると思うからあとで口座をチェックして、残りの金貨の正式な査定書類が届いていると思うから読んでサインをして送り返さなきゃいけないし、この屋敷の買い付けの手続きもしなきゃいけない。
オンラインで済ます事が出来ない用事が沢山あるんだよね。」
「そうかぁ、それよりもこれから、もっと長いスパンで予定を立てて行かないとね。
例えば私達の生活拠点をどっちにするか?というのも大事だと思うわよ。」
「うむ、訓練にしてもほぼ毎日しないとなかなか身に付かないぞ。
週末だけここに来て訓練をしたとすると君らがわれの満足する基準になる技術など身につけるのにはかなりの時間がかかるしな…」
確かに四郎が言う通りだ。
いくら訓練をすると言っても週のうちに何日かでは命懸けの戦いに備えるには不十分だ。
「俺は会社の登記を変更するか郵便物とかの届け先変更くらいでここに拠点を移しても
大丈夫だし、四郎だって問題は無いけどね。」
「私は通いになる訳?
それはきついなぁ~大学辞める訳にも行かないし、彩斗が近くの駅まで送り迎えしてくれれば電車で大学まで30分位なんだけどな~そうしてくれたら今住んでいるアパートから通うのとそう時間は変わらないけど。」
真鈴が媚びた目で俺を見たが今までの事があるので全然効果は無い。
「それは無理だ~」
俺が棒読みで答えると真鈴ががっくりとうなだれてはなちゃんに話しかけた。
「はなちゃん、彩斗ってケチケチなんだよ~」
「彩斗はシリノアナガチイサイゲボク。
わらわガ彩斗ノケツノアナをヒロゲテやろうか。ケケケ」
「…はなちゃん、そんな下品な言葉どこで覚えたのよ~?」
「わらわは真鈴ヨリ、ズット…トシウエ」
「うむ、はなちゃんはここにいる中で一番年長者だからな。
みんな敬うようにな。」
「四郎、サスガ、ホメテヤロウ。」
四郎がハハッと言いながら頭を下げた。
そうなのだ、四郎がはなちゃんは神として祀られてもおかしくない存在だと朝に言っていたのを思い出した。
ひょっとしたらはなちゃんは俺達の強力な守護神になってくれるかも、と調子のよい事を思いながら俺は朝食を食べた。
朝食を食べ終えて皿を片付けて洗い、俺達は食後のコーヒーを飲み、一服した。
「それにあの家族連れの悪鬼も何とかしないといけないわね~次の犠牲者が出る前に始末しないと…」
「うむ、われもそう思う。
個人的にあいつに興味もわいているがな。」
「興味?」
「うむ、あいつは見事に人間社会に溶け込んで家族まで持っている。
精神状態も普通の人間より安定しているし、いったいどうやってあの生活を成り立たせているのか?という所と…あとこれはわれの推測の一つに過ぎないが…いやいやこれはもう少し奴の身辺を調べないといけないが、奴の餌食になった人間はどういう存在だったかも非常に気になるのだ。」
「それ、どういう事かしら?」
「エジキニナッタモノガ、外道ダッタカモト言う事だ。」
「はなちゃん…」
「ヨコで話を聞イテオレバ四郎のカンガエもダイタイ判るじゃろう…」
「うむ、はなちゃんの言う通りそれも一つの可能性だな。
どちらにしろしばらくは彩斗のマンションに住み事になるかも知れんな。
奴の事が片付くまでは。」
「でも、奴が危ない奴で次の犠牲者が出るようだったら?
どうするの?
私達がもたもたしていて誰かが殺されるのは気分が悪いわよ。」
真鈴が尋ねると四郎はしばらく考えた後で答えた。
「しばらく奴を監視して、奴が新たな犠牲者を出そうとしたら、その時はわれが準備を整えて奴を仕留める、真鈴と彩斗はサポートをしてくれれば良い。
奴は手強そうだが、なに、われは悪鬼討伐を5年もしたプロだぞ。
地下の市蔵の時と違ってこちらは準備を整えて攻める側だから勝機は掴める。
狩り出して追い詰めて始末すると言うのにわれは慣れているからな。」
四郎はにやりとした。
どこかで悪鬼との戦闘を楽しむ武人のような所があるのかも知れない。
「さて、それでは今日はどうする?」
「そうだね、今日の夕方までには屋敷を出てマンションに夜には着きたいな。
もうジョスホールから書類が届いているかも知れないし。」
「よし、休憩後に午前のハイキングと弓の練習をしようか、彩斗、あの小銃の整備の仕方などパソコンで調べられないか?
多少ハイキングの出発を遅らせてもあの小銃やピストルが使えるかどうか調べたいのだが。」
「わかった。じゃあ休憩を1時間にしてくれたらシャワーを浴びて調べてみるよ。」
「うむ、判った、その間にわれは武器庫のどれほどのものがあるか調べておこう。
よし、休憩にするか。」
「1階のジャグジー俺が入りたい!俺俺俺!」
俺が勢い良く手を上げて宣言した。
四郎と真鈴が苦笑して俺を見た。
「まぁ、彩斗はまだ一度も入ってない物ね~」
「うむ、そうだな。
あぶくにまみれて疲れを取れ。
あれは気持ち良いぞ。」
じゃんけんと言い出されなくて俺はほっとした。
続く




