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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
20/23

真鈴とはなちゃん仲直り?…しかし、俺達はブラック企業よりもきつい事を…

俺が玄関ホールに行くと四郎が立っていて、昨日午前のハイキングで背負ったリュックがテーブルに置いてあり、嫌な予感がした。


「おはよう!四郎!」


俺はテーブルの上のリュックを横目で見ながら四郎に挨拶した。


「おはよう!彩斗!

 トイレは済ませたな!

 腕時計を預かるぞ!

 コップの水をゆっくり飲め!

 ちょっと真鈴を待つぞ!

 ん?これが気になるか?」


四郎がリュックを指差して邪悪な笑みを浮かべた。


「今日は少し暑くなりそうだから水を用意しておいたぞ!

 なに、お礼は要らんぞ!」

「はぁ…ところで四郎、さっきはなちゃんに思い切り壁まで吹き飛ばされなかった?

 死霊は力が弱いとか言っていたけど…」

「うむ、それなんだが、昔ポール様が死霊でも何か実体のあるものに乗り移ると日本で言う依りよりしろのような物だが、とにかく実体にとりついた時は物凄い念動力を発するものも中には存在すると言っていたな。

 その代償として死霊の時は物理的な影響は受けないが、依り代にいる時は物理的な攻撃で傷ついてしまうそうだ。

 われは今までそういう物は見た事は無いが、ポール様は先住民の死霊が依り代に憑依して山を崩して道を作るのを見たそうだ。

 最も物理的な力を使うと生命力を消費するとの事で、山を崩し道を作った死霊は強大な力を使いきってしまい、その存在が消えてしまったようだと言っていたが。

 はなちゃんは初めからオーラと言うか発する波動が只物ではない強さだったのは確かだ。

 もしかしたら物凄い力を持っているかも知れんな…われは簡単に壁に吹き飛ばされたぞ。

 それに、はなちゃんは、わらわとか言うだろう?

 かなり昔の言葉と思うし、数百年この地を見ているとも言っていたが、相当に歳を古りて物凄い霊力を持ってはいるはずだな。

 神として祀られてもおかしくない存在かも知れんぞ。

 彩斗、あの見かけに騙されるなよ。」


真鈴がうらぶれた表情で階段を下りてきた。


「お、おはよう、四郎…」

「お…おはよう!真鈴!

 トイレは済ませたな!

 腕時計を預かるぞ!

 コップの水をゆっくり飲め!

 今日は暑くなりそうだから水を入れたリュックを用意しておいたぞ!

 なに、お礼は要らん!」

「わぁ~四郎やさしい~」


棒読みで答える真鈴に四郎の顔が少し引きつった。


「さ、さぁ、リュックを持って裏庭でストレッチだ!

 行くぞ!」

「はい!」

「ふぁい…」


真鈴の返事は腑抜けていたが四郎は無視して元気よく玄関を出て行った。

俺も後に続き、真鈴ものろのろと後を追ってきた。

その後俺と真鈴はストレッチをして朝の散歩に出かける時に四郎が俺を手招きして耳打ちしたが、その間も真鈴は虚ろな目で景色を眺めていた。


「彩斗、真鈴があの調子だ。

 怪我をしないようにお前がきちんと見張っててやれ。

 あれ程落ち込んだ真鈴は見たこと無いからな。」

「四郎、今日は朝の散歩中止に…」

「彩斗、大怪我や重病ならば仕方ないかも知れん。

 しかし、仮に大怪我や重病の時でも悪鬼に襲撃されたら、今都合が悪いからと言えるのか?

 ましてや他の事で落ち込んでいるからと悪鬼に言えるのか?」

「…」

「いいか、これは遊びでも、ましてや仕事でもないのだ。

 生きるための命懸けの戦いなんだぞ。」

「…」

「大怪我や病気をしていているからと言っても闘わざるを得ない時も有るんだぞ。」

「判ったよ四郎。

 真鈴は俺が面倒見るよ。」

「頼むぞ彩斗。」


四郎は俺の肩を叩いた。

四郎の言う通りだ。

今までに社畜でこき使われ人間扱いされていなかった時を経験した俺だが、今俺達がやろうとしている事はブラック企業など裸足で逃げて行くような厳しい仕事を、いや、仕事以上の事をしようとしているのだ。

その厳しさを今しみじみと感じた。

だけど、その厳しさは当たり前だと思った。

しかし、辞めよう逃げ出そうと言う思いは今の俺には微塵も無かった。


あの地下にいたすっかり獣と化した市蔵が、俺の家族や友人、俺が大事だと思う人に襲い掛かったら、俺が全く知らない人でも襲い掛かったら…あれは警察では全く対処できない。

仮にあの市蔵のなれの果ての獣を倒したとしても警察にも夥しい被害者が出るだろう。

自衛隊が本気にならない限りあの怪物を倒す事は難しいと思う。

そしてこの国のほとんどすべての人はあの存在を知らずに生きている。

今、俺達は警察でも、自衛隊でも対処が難しい相手からこの国の人達を守ろうとしているんだ。


そして今の俺はかけがえが無い貴重なメンバーの真鈴を、何とか真鈴が怪我をしないで屋敷に戻ってくるように最善の事をやる。

それだけしか考えなかった。

実は今、俺は生まれて初めて『生きがい』と言う物を改めて感じたのかも知れない。


「真鈴、行くよ。」


真鈴に声をかけて歩き始めた。

四郎からのオーダーは今日も25分以内で屋敷に戻ってくる事。

昨日とは違うコースに黄色いテープが張られている。

真鈴はうつろな表情ながら、しっかりと歩いていた。

昨日とは違い俺は周りの景色の特徴を覚え、方角を頭に入れながら歩いて行った。

昨日の散歩の時と違って重いリュックを担いでいるが、それでも体が慣れてきたのか昨日ほどのきつさは感じなかった。

俺が前を歩いて少し後ろを真鈴が歩いている。

度々後ろを振り返り真鈴が付いて来ているか確認した。


「真鈴、大丈夫か?」

「…無駄なおしゃべりは禁止でしょ…」


真鈴はうつろな声で答えた。


「メンバーの安全確認は必要だよ。」


俺が言うと真鈴は黙って頷いた。


「今日は真鈴が怪我をしないように声をかけて行くよ。」

「…うん…」


俺達が黙々とコースを進んだ。

俺も真鈴も汗びっしょりになっていた。

少し真鈴の足がふらついている気がした。


「真鈴、水分補給をしようぜ。」


俺は立ち止り水筒の水を飲んだ。

真鈴が俺の隣で立ち止まり、ゆっくりと水筒を取り、水を飲んだ。

こういう時に何と言って真鈴を慰めて元気付ける事が出来るのか、俺にはさっぱり判らない。

四郎だったら何か気が利いた事を言えるのだろうが、俺にはなんて真鈴に声をかけてやれば良いのかさっぱり判らなかった。


「私…はなちゃんに酷いことしちゃった…暴れ女真鈴て言われちゃった…」

「…」

「…もう、仲良くなれなくなったかも…」


何を言えば良いのかさっぱり判らないけれど、ここは正直な俺の気持ちを言うしかないと思った。


「真鈴…真鈴は時々暴力を振るうけど…真鈴は俺や四郎よりもずっと優しい事を俺は知ってるよ。」

「…」

「真鈴が他の人、まったく知らない人でも理不尽に殺されることを何とか止めようとして俺達はこういう事を始めたんじゃないか。

 あの時の真鈴の言葉は…全部…覚えてないけど…真鈴は優しいんだよ。」

「…」

「…真鈴は優しいんだよ。」

「…」


何と言えば言葉が全然浮かばないけどここは黙ってしまうとまずいと思った。


「真鈴は実は優しいんだよ。」

「…」

「優しいんだよ…真鈴は優しい。」

「…」

「真鈴は実は…」

「彩斗、言葉がバグってるよ。

 なんか壊れちゃったロボットみたいだよ。

 ちょっとキモイね。」

「ごめん…」


真鈴がテープに沿って歩き出した。

やや速足になった様で歩きもしっかりしているようだ。

俺達はやっとテープの終わりに辿り着いた。

屋敷が見えてほっとした。


「彩斗。」

「え?」

「心配してくれてありがとう。」


そう言って真鈴は速足で屋敷に向かっていった。

暫く真鈴の後ろ姿を見ていた俺は慌てて真鈴の後を追った。


屋敷に辿り着くと真鈴が玄関ホールでスクワットをしていた。


「お帰り!彩斗!」


昨日のように四郎からどれくらいの時間で帰って来たか申告し地図に歩いてきたルートを書き込み、60回のスクワットを命じられた。

俺はスクワットをしながら横目で真鈴を窺った。

真鈴は回数を言いながらスクワットをこなしていた。


「よし!真鈴!スクワット終了!

 お客さんがいるぞ!」


玄関ホールの片隅にはなちゃんが立っていた。


「真鈴、四郎ト、ハナシタぞ、イマイチドわらわは真鈴ヲ許すコトにスル。

 わらわはイマデモ真鈴がダイスキだからな。」


真鈴はうわぁ~!と叫んではなちゃんに駆け寄り抱き上げると頬ずりをして抱きしめた。


「はなちゃん!ごめんね~!手足をひん曲げたり足を掴んで四郎の顔に思い切り叩きつけたりエルボーを腹にぶち込んだり頭にかかと落としを食らわせたりして、本当にごめんね~!これからははなちゃんを大事にするよ!ごめんね~!」


真鈴の涙と鼻水を擦り付けられてはなちゃんは嫌そうに手を上げて顔を庇おうとしているが真鈴はその手を掴んで後ろにひねって泣きながらはなちゃんに頬ずりをしていた。

気のせいかはなちゃんのつぶらなとび色の瞳が白目を剥いているように見えた。


「四郎、はなちゃんに話してくれたんだ。

 四郎は優しくて俺や真鈴の事も考えてフォローしてくれてるんだね、ありがとう」

「うむ、いや、メンバーの体調管理精神状態の管理もわれの務めだからな。

 なに…ゴホン!お礼は要らんぞ。」


四郎が少し恥ずかしそうに顔を赤くした。


「ところで彩斗。」

「なに?四郎?」

「お前、まだスクワットが19回残っているぞ。

 われと真鈴達はダイニングに行くから聞こえるように大声で回数を数えろ。」






続く



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