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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
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お祝いだぁ!けれど、出かけるまでが大変です…

俺と真鈴は急に我に返り飛び跳ねるのをやめた。


「さ、さぁ四郎この前テーラーで買ったスーツで決めてよね。

 しかし、オーダーのスーツがまだ出来ていないのが残念だけど、まぁいいか。

 私もちょっと着替えてばっちり決めるから彩斗も上等な服に着替えなさいよ。」


真鈴がお祝い~と歌いながらゲストルームに行った。


「やれやれ、まぁ、そういう訳で今日はとりあえずお祝いと言う事で外で食事したりお酒飲んだりカラオケ行ったりしようと思うんだよ。

四郎も着替えてね。」

「カラオケ?」

「まぁ、行けば判るよ。」


四郎が寝室に行き、俺も自室に戻り一番上等なスーツに着替えた。


ダイニングではスーツに着替えた四郎が座っていた。

俺は四郎を見て改めて落ち着きと言うか風格と言うか、見た目の年齢は俺よりも年下であるにも関わらず重みがある存在感を感じてしまった。


「四郎はやっぱり共同経営者よりも俺の上司みたいに見えるよな…」

「彩斗、それは褒めてくれているのか?

 ありがとう。」


真鈴が姿を現した。

濃い目のネイビーのしゃれたスーツ姿だ。

くどくなく上品な感じのメイクをしていて、さっき手を取り合って飛び跳ねていた時とは全くの別人に見えた。

この二人といると俺は二人の下僕のような物だと感じてしまう。

四郎が持つ風格や存在感は四郎が生きて来た人生を考えれば納得するが、真鈴はどうなんだ?

法学部の女子大生、オカルトマニア、初めて会った時は自分は、しゃいで人見知りとか言っていたけど、おしゃべりと買い物大好きで子供みたいにはしゃぐ時も有れば肝が据わって強い覚悟を持っている…俺には真鈴が四郎並みに、いや、四郎以上に謎の女だ。


「おまたせ~四郎も彩斗も決まっているじゃない…あれ?

 四郎、ちょっと立って。」


真鈴は四郎を立たせて四郎の襟元に手を当てた。


「う~ん、このネクタイ…」

「お、このスーツに合わないか?」


四郎が言うと真鈴はかぶりを振った。


「いやいや、ネクタイの柄や素材はスーツにもシャツにも問題無く合っているわ…ただ…ネクタイの締め方、彩斗が教えたの?」

「ああ、そうだけど。

 いつも俺が締めているやり方を四郎に教えたよ。」


俺が言うと真鈴は顔をしかめた。


「あ~駄目よこれじゃ。

 彩斗、あんたひょっとしてフォアインハンドノットの締め方しか知らないの?」

「…え?ネクタイって皆そう締めるんじゃないの?」

「かぁああ~駄目ね~ネクタイだってTPOに合わせた締め方があるのよ。

 これはフォアインハンドノットとかプレーンノットと言って主にビジネス用、そこいら辺りのサラリーマンの締め方なのよ。

 今日は決めるって言ったじゃないの。

 だから今日はハーフウィンザーノット…でも四郎は今ワイドカラーのシャツを着ているからウィンザーノット、フルウィンザーとも言うけどそういう結び方の方が断然良いわよ。

 私が四郎のネクタイをウィンザーノットで結びなおしてあげるから彩斗も良く見て結び方覚えてね。」


そう言うと真鈴は四郎のネクタイを解くとするするとウィンザーノットと言う締め方で結び直した。


「ほら、この方が結び目が少し大きくなったけれど立体感が出て似合うでしょ。」


確かに四郎の襟元がすっきりとエレガントな感じになった。


「彩斗もワイドカラーのシャツなんだから結び直して。」


真鈴に言われて俺はネクタイを解いて結び直そうとしたが複雑な結び方で何度かやり直して結ぼうとするがなかなか上手く行かなかった。


「もう~、ま、1回じゃ覚えられないか。」


そう言うと真鈴は滑らかな手つきで俺のネクタイを見事に結んでくれた。


「さて、これで…彩斗、四郎の腕時計、他のにしない?」


真鈴は四郎がはめているSinnの103を指さした。


「これもデザイン良くてかっこ良いけど、今日のスーツだとちょっと…もう少し落ち着きがあるような…」


俺は自室に戻って腕時計が入った箱を持ってきた。


「あら、そこそこ買ってあるのね。

 まぁまぁ良いコレクションじゃないの。」


真鈴が箱の中を覗き込んでパテックフィリップの5235/50R-001を取り出した。


「うん、これがシックで良いわね。

 彩斗、時間と日付と曜日合わせてよ。」


俺は時計を受け取り時間と日付曜日を合わせながら心の中で舌を巻いた。

よりによって真鈴は俺が持っている中で一番高い時計を選んだのだ。

見た目が豪華でなく、素人目にはその価格は到底判らないが四郎のスーツに見事に合っている。

この女本当に何者なんだろう…時折見せる間の抜けた所は演技なのではなかろうか…俺はあらぬ疑惑にとりつかれそうになった。

ふと見ると真鈴がしている時計も派手な装飾などは無いが品良く感じるロレックスのレディースデイトジャストをはめている。

派手な装飾抜きだが上品で機能的、嫌味を感じさせない好印象な腕時計だ。


「真鈴も結構良い時計しているね。」

「あら、ありがとう。

 これ、実家から東京に来る時に実家でお祝いにもらったのよ。」

「へぇ~実家って大金持なの?」

「そんな事無いわ。

 実家が大金持ならあんなアパートに住んでる訳ないじゃない。

 四国の田舎、普通の家よ。」

「ふぅ~ん、確かにそうだよね。

 さて、時間とか合わせたよ。」

「これで良し、さあ、四郎時計はめて。」


確かにパテックフィリップは四郎の落ち着いた感じに凄く似合ってる。


「彩斗はスピードマスターか…まぁプロフェッショナルだからそれで良いと思うわ。

 それじゃ出かけましょうよ。」


俺はまたまた心の中で舌を巻いた。

オメガのスピードマスターは自動巻きの物と手巻きのプロフェッショナルとがあるが、近くに寄って見なければ一目で見分けられる物ではない。

真鈴の謎は静かに深まっていった。

お酒を飲むかも知れないからと俺達はマンションを歩いて出た。

玄関で靴を履く時も真鈴が横目で俺と四郎の靴をチェックしていたが、どうやら及第点をもらったようでほっとした。

駅までの道を歩きながら俺は駅の反対側に個人経営のイタリア料理店がある事を言った。

マンションの近くを質が悪い悪鬼がいないか偵察しておくのも悪くないと言う事でそのイタリア料理店に行く事になった。


「う~ん美味しいフォカッチャ食べたいな~そろそろ暖かいからカルパッチョ、アクアパッツァも良いわね~彩斗そこはワイン美味しいの置いてある?赤も白も美味しいのが飲みたいな~」

「さすが真鈴はピッツァとかパスタと言わないんだね。

 これから行く店のマスターの口癖がイタリア料理はパスタやピッツァだけじゃなくて魚介料理も肉料理も美味しい物が沢山あるんですって言う人なんだよ。

 当然店で焼いてるフォカッチャはマスターご自慢なんだよ。」

「う~楽しみ~。」


四郎は俺と真鈴の会話を微笑みながら見ていた。

夜の暖かでいて爽やかな空気の中、俺達は夜の住宅街を歩いた。

四郎がほんの時々急に立ち止まり、周りを見回す事があった。


「四郎、悪鬼?」


真鈴が警戒するような小声で尋ねると四郎はかぶりを振った。


「いや、悪鬼…では無いが…脅かすつもりは無いがこの先…」


四郎が俺達が進む先を指さした。


「この先は駅だよ。

 週末の夜だから人通りは有るけどね。」

「そうか…なるほど週末の夜か、やはり昼間とは随分違う物だな。」

「…何が?」


真鈴が不安そうに呟いた。


「どうやらこの時代は人間でも悪鬼並みの悪意と言うか、瘴気みたいな物を発しているのがいるようだな…やはりこれは持っていて正解だ。」


四郎が上着の前を少し広げるとベルトに昼間差していた小さなダガーナイフの柄が見えた。


「やっぱり危ない物持っているんだ…警察に見つからないように気を付けてよ。」


真鈴が呆れ気味に言ったが、死霊屋敷で狼人と遭遇した時以来、あまり強く文句を言わなくなった。


「もっとも私も持っているけどね。」

「真鈴、何を持っているの?」


俺が尋ねると真鈴はバッグをポンポンと叩いた。


「私の子猫ちゃん。

 えへへ。」

「…えへへじゃないよ、あの子猫ナイフ入れてるのか?」

「命は大事でしょ?

 彩斗は手ぶら?不用心ね~。」

「彩斗、昼間渡したあれは持ってるんだろ?」


四郎に訊かれて俺はパンツの尻のポケットに入れてある革袋に砂を詰めた小振りな棍棒を出して見せた。


「何これ、可愛い!」

「いや、刃物を持ち歩くとあれだと言うので彩斗にあげた物だ。

 素手でいるより数段破壊力があるからな…端を掴んで棍棒のようにしても良いし、咄嗟の場合は握ってそのまま相手を殴っても良いし、警察に持ち物を調べられても捕まる心配は無いしな。」

「う~、彩斗ずるいよ~なんでそういう事私に言わないのよ。」

「え…ごめん、真鈴も欲しいの?」

「欲しいに決まってるじゃないの!

 これ、簡単に外せるストラップをつけてバッグに付けてもお洒落だと思わない?」


真鈴が革製棍棒を手に取って見つめながら言った。


「予備がまだあるから帰ったら真鈴にも上げよう。」

「嬉しい!ありがとう!

 まあ、これで3人共最低限の武装はしているから一安心ね~。」


真鈴が能天気な声を出した。

この辺りは年相応の娘さんだ。

駅近くのロータリーが見えてくると四郎の歩みが少し遅くなった。


「四郎、どうしたの?」

「うむ、これが君達の日常か…この人間達の中にはすぐ爆発するわけじゃないが、長い導火線に火がついてじわじわと燃え続けて短くなっている人間がいるぞ。

 1人や2人じゃない、今見えているだけで何人もいるな、老若男女問わずだ。

 君らは今まで気が付かなかったようだがな。

 この恐ろしさは君らには判らんだろう…やれやれ。」


四郎は強がりは言うけど出まかせを言わない事を知っている。

俺と真鈴は一見平和な駅前の人ごみを見て黙ってしまった。







続く

 

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