ナイフ戦闘で四郎に翻弄される…なぜ歳が古りた悪鬼は強いのか納得…
屋根裏で四郎が作った紙の棒を持った俺と真鈴は少し重心を落とし、手を前に突き出した四郎に向かって紙の棒で攻撃する訓練を始めた。
「今日は少し相手の急所と言う物を考えに入れて攻撃して見ろ。
人間も悪鬼も基本的に急所の位置は同じだ。
主に体の中心線にある。
喉の動脈、心臓、深くさせるなら腹の肝臓がある部分、そこを狙って見ろ。
相手の戦闘力を落とす為に手足を狙うならば手首足首を切って大出血を起こさせるのも一つの方法だな。」
俺達が四郎に向けて紙の棒を突き出し切り払ったが四郎はひょいひょいと躱し、また昨日のような無様なダンスを踊らされた。
「いいか、ナイフで攻撃する時はバランスを崩さないように下半身をしっかり保つのだ。
一撃して体勢が崩れたらたとえ相手に傷を負わせても捕まってずたずたに引き裂かれるぞ!
攻撃を加える事と体勢を崩さずに引いて次の攻撃の準備をすることは非常に重要だぞ!
踏み込み、ステップに気を付けろ!
それと、彩斗も真鈴も視線が見え見えだ!
それだと相手にどこを攻撃する気か簡単に悟られる!
視線をぼやかせて相手の全体を見るのだ!」
俺と真鈴で数分づつ交代しながら四郎を攻撃する。
やがて足ががくがく痙攣しそうになってきた。
「ひい~、四郎全然当たらないよ~!」
遂に真鈴が膝をついた。
「もうおしまいか、やれやれ、初歩のナイフ戦闘の訓練だぞ、だらしないな。」
俺達と違って息一つ切らせていない四郎がぼやいた。
「何なら二人でかかって来るか?
コンビネーションの訓練も必要だからな。
ここで復習だが、ナイフ戦闘で重要な事は何だったかな?」
「自分や仲間を切らない事。」
俺が答え真鈴が頷いた。
「そう、その通りだ。
しかし、今既に彩斗は2回、真鈴は3回自分の体にナイフの刃を当てていたな。
持っているのが子猫ちゃんや小雀ちゃんナイフだったらかなり血が出たぞ。
紙の棒でも気を抜くな。」
「…」
「…」
「コンビネーションを組んで敵を攻撃する時は同士討ちに要注意だ。
一見有利に思えるが単独での戦闘の数倍注意が必要なのだ。
そこに気を付けて尚且つビビらずに襲って来い。」
俺と真鈴は紙の棒を手に四郎の前に立った。
そして、四郎の周りを回りながら四郎の前後を挟むような位置取りをした。
「ほう、君らの頭蓋骨の中には少しは脳みそと言う物があるらしいな。」
四郎が笑顔で俺達を挑発した。
四郎の後方にいた真鈴が攻撃を掛けた瞬間に合わせて俺も四郎に攻撃を掛けた。
四郎がひょいと動いた瞬間、四郎の体が視界から消え失せて直ぐ目の前に真鈴の体が広がった。
「あ…」
「え…」
俺の手には真鈴の胸に紙の棒が当たった感触がした。
次の瞬間四郎が真鈴のすぐ後ろに立っていた。
振り向きざまに四郎を攻撃する真鈴の紙の棒は俺の横面を引っぱたいた。
「残念だな~。
実戦だったら2人とも同士討ちだな。」
四郎がへらへらと笑った。
「集団で攻撃を掛けてくる時、経験を積んだ者は逆に相手を同士討ちさせる罠を仕掛ける物だ。
君らは見事に罠にかかったな。
さあ、もう一度、どちらかが少しでもその棒でわれの体に触れたら訓練終了だぞ。」
俺と真鈴は必死になって四郎を追いかけ攻撃を続けた、がついに一度も四郎の体に当てる事は出来なかった。
とうとう俺と真鈴は膝をついて息を荒くして動けなくなった。
「今日はこのあたりにしようか。
まぁ、まだまだであるな。
だが、訓練を続ければ悪鬼はともかく人間相手なら少しは戦えるようにはなるだろう。」
「四郎、俺達この訓練を続けても悪鬼を倒すことは無理なのかな?」
「彩斗、真鈴もそうだが、一対一で正面からの戦闘で悪鬼、特に歳が古りた悪鬼を仕留めるのは絶望的だと思った方が良いな。」
「え~!そうなの~?
でも、私達でも必死に訓練すれば…」
「うむ、そう考えたい気持ちは判るがな、一つ例えをしようか。
全然歳をとらず体も衰えない頭もはっきりしている存在が100年間訓練と実戦を続けたらどうなるかな?」
「それは…無敵の存在に…なると思うな…」
「そうだろうな、彩斗の言う通りだろう。
しかも、人間と違い、傷を負ってもすぐ復元する、動きの速さも、持久力も、力の強さも、動きの正確さも、姿を人間のままだとしてもわれのように普通の人間より数段上だ。
本来の姿になった時は更に強くなるぞ。
500年以上生きてきたポール様などは瞬間にその場から消え失せたと勘違いするほどの速さでポジションを変える事が出来た。
とてもわれでは太刀打ちできないな。
われらがどのくらい歳が古りた相手なのか気にする所はそれなのだよ。
生きた年月がそのまま経験と技術になるからな。
そして加齢による衰えは無い。
ただ強くなるだけだ。」
「じゃあ、歳が古りた悪鬼が変化したら絶対に勝てないと言う訳じゃないの。」
真鈴が深いため息をついた。
「まぁ、真鈴、慌てるな、一対一では無理だろうが市蔵は武装した6人で何とか人狼を退治したぞ、まぁ、5人は倒されたが、しかしそれもかなり歳が古りた奴を倒しているな。
市蔵が見つかった時大きな灰の山に半ば埋もれていたとはなちゃんが言っていただろう。
恐らく100年以上生きた奴だったに違いない。」
「そう言えばそうね。」
「確かに集団での攻撃だったら…」
「それに完全に変化した市蔵をわれらで倒したではないか。あの時彩斗が市蔵の腹に火掻き棒を刺し、真鈴がスタンガンで市蔵の顔を焼いた、止めを刺したのはわれであったが、君らでも不意を突けば充分に悪鬼に対抗できる可能性があると言う事だ。
それに、悪鬼共通の弱点と言うか…ポール様のような悪鬼は別として大抵の悪鬼は人間を見下している。
充分に武装して士気も高い大人数の集団が攻撃してくるのはともかくとして単独や少人数の人間など取るに足らない存在と思っている。
自分達より弱い者と見ているのでどこかに油断が生じるのだ。
今まで人間と言えば悪鬼が本性を現せば大抵悲鳴を上げて逃げるか動けなくなるか、攻撃してくると言っても恐怖があって及び腰になる人間と戦った位の経験を積んで来たからな。
そこでわれらの強みは人間である君達と、悪鬼でいながら他の100体の悪鬼を倒した悪鬼討伐のスペシャリストで頭も切れるし武器の扱いも慣れていて料理も上手く歌を歌えば女も惚れるエッチの回数など忘れるくらい致したと言うわれとの混成チームを組んでいると言う事なのだ。」
「…四郎…」
「…四郎…」
「あははは、冗談はさておきチームそれぞれに個性と言うか長所がある。
その長所を生かして戦えば大抵の悪鬼は退治できるぞ、そこは安心して訓練を続けて汗と血を流す事だな。
さて、風呂で汗を流して暖炉前に集合、コーヒーとお菓子で寛ぐことにしよう。」
「ああ!私、1階のジャグジーに入りたい!」
真鈴が手を上げて叫んだ。
「ええ!われは今日も入ろうと思ったのだが…」
「俺も入りたいなって…」
「じゃんけんよ!じゃんけんで勝った者が入れることにします!」
真鈴が高らかに宣言をした。
「じゃんけん…?」
四郎はじゃんけんを知らなかった。
「四郎がいた下総ではまだ伝わっていなかったかな?」
「四郎、アメリカでロックペーパーシザースっていうのを聞いた事無い?」
「うむ、聞いた覚えは…無いな」
俺と真鈴は四郎にじゃんけんのやり方を教えて3人でジャグジー使用者決定戦をした。
そして俺と真鈴がグー四郎がチョキを出した。
「ぬぉおおお!」
顔を手で押さえて悔しがる四郎を横目に俺と真鈴が勝負をした。
俺がチョキ真鈴がグーを出して勝負が決した。
そして風呂上り、俺達は暖炉の前でコーヒーとお菓子で寛いだ。
真鈴の隣にははなちゃんがちょこんと座っていた。
ジャグジーに浸かってすっかり体の疲れを癒した真鈴がはなちゃんを抱いて頭を撫でながら四郎に尋ねた。
「ところで四郎、ユキちゃんに返事をした?」
「おお…すっかり…忘れていたな。」
「ふざけんなよ!このぼけぇえええええ!」
真鈴がはなちゃんの足を掴んで思い切り四郎の顔に叩きつけた。
「イタイイタイイタイ!…マリン…アッキノショギョウ!…」
「ああ!ごめんねはなちゃん!」
真鈴は、はなちゃんに謝りながらもはなちゃんをソファに投げ捨てて四郎の胸ぐらを掴んで思い切りびんたを食らわせた。
「な、な、な、」
俺は真鈴の反応にドン引きして動けなくなり、四郎も真鈴の勢いに押されて恐怖の表情を浮かべて固まってしまった。
「おい!四郎!あのlineを見て判らねえのかよ!
ユキちゃんがどんな気持ちでメール送ったと思ってんだよ!
女子があんな、他人が読んだら顔を赤らめるようなメールを思い切って送ってるんだぞ!
それをお前は、それをお前は既読スルーを!ぐぅ、ぐうううう!
女子からの…既読…スルー…ぐうぅううう~!」
四郎の胸ぐらを掴んだまま真鈴は肩を震わせて嗚咽した。
「判った真鈴!
われが悪かった!
ユキちゃんには悪い事をした!
許してくれ!」
「そんならすぐに返事を打てぇええええ!」
真鈴は四郎を突き飛ばしソファに座りなおしてはなちゃんを抱きしめて小声で謝りながらはなちゃんの頭を撫でた。
きっと真鈴は過去に好きな人にlineを送って華麗に既読スルーされて思い切り振られたのではないかと思ったけど、それを口にすると無茶苦茶にぶん殴られて血まみれになってピクリとも動けなくなった俺を火が燃え盛る暖炉に放り込まれるのは確実なので黙っている事にした。
「な、彩斗、不意を突けば悪鬼とでも戦えるんだぞ。」
見る見る顔の赤いあざが消えつつある四郎が俺に言った。
「真鈴、われが悪かった。
遅ればせながらユキちゃんに返事を打とうと思う。
アドバイスをしてくれるかな?」
「判れば良いんだよ。
四郎、スマホを出しな。」
その後、真鈴は四郎のスマホを覗き込みああだこうだと言いながらなんとか返事を打って送信した。
四郎は脱力してソファに背を持たれた。
「ふう、彩斗と真鈴に訓練するより疲れてしまったぞ。」
「四郎、女子と付き合うのは非常な労力を使う物なのよ。
それが判らずに好き勝手言う男がモテない恋人が出来ないと愚痴るんだよ。」
真鈴の一言で俺の心臓が止まった…まぁ、すぐに動き出したけど。
「近頃はそういう物なのだな~」
四郎が答えた瞬間にスマホが鳴った。
スマホを見た四郎が真鈴を見た。
「ユキちゃんから…またlineが入っておるぞ…」
真鈴がコーヒーを飲みながらため息をつきビスケットを齧った。
「今日は日曜日でお店がお休みなんだね…ユキちゃんが気が済むまでお相手してあげな。」
「え~、これからポール様の日記を読んだりと色々と用事があるのだが…」
真鈴がきっと四郎を睨んだが頭を振ってため息をついた。
「やれやれ、しょうがないね。
ユキちゃんも大事だけど、四郎がポールさんの日記研究をするのも私達の命に係わる事だからね~ほらスマホをよこしなよ。
私が代わりにユキちゃんの相手をしてやるよ。」
「それは助かるな、すまんが頼むぞ。」
「その代わり四郎、私が返事している事は首を撥ねられてもユキちゃんに言っちゃ駄目だよ、そんな事を知ったらあの子自殺するかもよ。」
「うん、絶対に言わないぞ。」
「それと、四郎、私が相手を終わったらスマホのlineを読み返して会話の内容は全部暗記するんだよ。
実際にあった時にぼろを出したら許さないからね。
彩斗、コーヒーが無いよ。
お代り。」
「かしこまりました。」
俺はこのような状態の時すっかり下僕の返事をするようになってしまった事を嘆きながらキッチンにコーヒーを淹れに行った。
続く




