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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
13/23

四郎から弓矢の打ち方を習う、そして四郎のピストルは凄すぎて俺達には無理…

四郎は微笑みを浮かべた。


「うむ、お坊ちゃんお嬢ちゃんは覚悟が固まってきたようだな。

 よし、返しが付いていないこの練習用の矢であの的を撃ってみるか。

 あの十字線の真ん中の丸の大きさがちょうどこぶし大、心臓や脳の致命部分と同じ大きさで、あの木の幹は正面を向いた胴体と同じ太さだ。

 今日は少なくとも2本に1本はあの丸を貫く事が出来るように、そして射った矢が全部あの木に当たるよう出来るのが目標だ。

 そして、ナイフ戦術の時に言った事だが大事なのは自分と仲間を絶対に射ない事だぞ。

 矢の方向は銃口の方向だと同じと考えろ。

 …もう少しわかりやすく説明するか…」


四郎はそう言いながら自分のリュックからパーカッション式のリボルバーを取り出した。


「え、四郎、そんな物まで持ってきたの?」

「うむ、弓矢に比べたらこれはより精密な機械のようなものだからきちんと作動するか試しておこうと思ってな。

 今、火薬、弾丸、発火させるパーカッションキャップも付けている。

 ハンマーを起こしてトリガーを引くと発射できる状態だ。」


そう言うと四郎はリボルバーのハンマーを親指で起こして無造作に的にしている木の根元近くにある、人間の頭位の大きさの石に向けて撃った。

物凄い音と共に白煙が盛大に上がり森にいた鳥が一斉に飛び立ち、石が砕け散った。


俺と真鈴は思わず両手で耳を塞いで悲鳴を上げた。


「うわ!」

「きゃああ!」

「はは、驚かせたかな?」

「そ、それは驚くわよ~!」

「凄い音と煙だね~!

 威力も凄いね!

 あの石、粉々に砕けたよ!」

「だろう?

 われの時代に人間が使う通常のピストルの口径、これは弾丸の直径と思ってくれれば良いが、100分の44インチ、君らの言い方で44口径と言うが、これは悪鬼の頭や心臓を吹き飛ばすためにポール様が特注で作らせたピストルで口径は100分の58インチつまり58口径にして、更に多くの火薬を入れられるように頑丈になっている。」

「なんか良く判らないけど凄いわね…」

「四郎、そのピストルの使い方を教えてくれた方が良いんじゃないの?」

「はは、彩斗、それは無理な相談だな。

 このピストルは普通の人間には撃てない。

 このピストルが完成して農園に届けられた後、噂を聞き付けたかなり有名なガンマンがどうしても撃たせてほしいとやって来たが…撃った反動を押さえきれずにピストルがその手を飛び出してガンマンの顔に直撃して鼻とあごの骨を砕いてしまったからな。

 歯もかなり吹き飛んでしまいその後ガンマンは顔に酷い傷跡が残って話すことも不自由になってしまった。」


俺と真鈴は口を押えて四郎が持っているピストルを見た。


「それにこの手のピストルは弓矢より使いにくい所があるのだよ。」


そう言うと四郎は30メートルほど先にある、人間の大人くらいの岩に向けてピストルを5発、続けざまに撃ちこんだ。

物凄い轟音と盛大な白煙、そして撃つ度に四郎の腕がかなり跳ね上がった。

なるほど、反動が強いのだろうな、と昔見たダーティーハリーという映画でハリーが44マグナムを撃って腕が派手に跳ね上がるシーンを思い出した。

このピストルは普通よりも火薬の量が多く入れられると言っていたから、まぁ、四郎の時代の58マグナムピストルと言った感じだろう。

大人くらいの岩の上半分が粉々に砕け散った。

これが人間の体だと上半身がばらばらに千切れ飛んだような事だろう。

俺はその威力に身震いした。


「まぁ、このように威力は申し分ないが弾を打ち尽くすとまた撃てるようにするにはとんでもなく手間と時間がかかるのだ。

 戦いの最中にそんな事をしている時間は無い。

 つまりこのピストルは6発撃つとただの棍棒になってしまうと言う訳さ。

 だから、ポール様と手強い悪鬼の団体の討伐に行く時はポール様とわれ、それぞれ3丁のピストルを身につけて行ったくらいだ。

 勿論槍やサーベルと共にな。

 われにとっても凄く重かったな。」


四郎はそう言って俺と真鈴にピストルを持たせた。

こわごわと受け取った俺達はずしりと重いピストルに驚いた。

リュックに入っている2リットルの水が入ったボトルより重かったはずだ。

四郎はピストルを手に取った。

あんな重いピストルを軽々と扱う四郎の腕の強さを改めて感じた。


「それにあの大きな音と煙だ。

 狭い所で撃つと煙で周りが見えなくなるし、大きな音で耳がしばらく聞こえなくなるんだ。」

「確かに街中でそれを撃ったら大変な騒ぎになるわね~!」

「使えるのはこの敷地内かよっぽど近くに誰もいない所ってことになるね~!」

「そういう事だ。

 だから君らにはこれを扱えない、弓矢の使い方を教えるしかないな。

 さて、脱線してしまったが、弓を人に向けると言う事は…こういう事だ。」


そう言うと四郎はハンマーを起こしたピストルの引き金に指を掛けて俺と真鈴に向けた。


「うわ!四郎!ちょちょちょ!」

「きゃああ!やめてやめて~!」


四郎が笑いながらピストルを下に向けた。

弾を撃ち尽くして空になったピストルなのに凄く恐ろしい。


「な?矢を向ける事とピストルの銃口を向けると言う事は非常に危険で恐ろしい事なのだ。

 肝に銘じたかな?」

「うん、凄く判ったよ。凄く危ない事なんだね。」

「うん、私も、弓の取り扱いは絶対に慎重にね。」

「よし、絶対に鏃を仲間に向けるな。

 矢をつがえたらその方向を絶対に仲間に向けるなよ。

 それに一度弦を引いたら矢を射るまでは絶対に手の力を緩めるなよ。

 もし弦を戻さずに手の力を緩めたら矢が飛び出す、ピストルで言えば暴発のような事になるからな。」

「はい!」

「はい!」


四郎は満足した笑顔になり、ピストルをリュックに戻した。


「よし!

 あとこれはおバカな連中がよくやらかすミスだが、銃口や鏃が仲間の方向に向いてしまい慌てて下に下げた時に自分の足を撃ったり矢を刺してしまうトンマがいる。

 矢をつがえた時は特に自分の足を撃ち抜かないように気をつけろ。

 それと、弓矢は自分の前方の少し下の方向に向ける癖をつけろ。

 銃を使う時も同じだが、矢を構えた時に上を向けていると悪鬼に狙いをつける時に下がる弓矢自体が一瞬悪鬼を隠してしまう。

 コンマ何秒の世界で相手が一瞬視界から消える、それは致命的な失敗になる事も有るのだ。

 常に矢は自分の前方の下に向けておけ。

 狙いを定める時は下から持ち上げる事を体に叩き込め。」

「はい!」

「はい!」

「よし!まず真鈴からだ!

 1本射ってみろ。」

「はい!」


真鈴が弓を引き絞り、矢を放った。

矢は木の幹の右側をすれすれでかすめて後ろの藪に飛んで行った。


「うむ、3インチくらい…センチで言うと…」

「7・5センチくらいかしら?」

「うむ、そうだな、どうもわれは日本のセンチとかメートルで言うのにまだ慣れていないな。

 今のは3インチほど高く、10インチは右にずれていたぞ…彩斗、真鈴、時計を見ろ。」


そう言うと四郎は自分の腕時計の文字盤を的に向けた。


「こうして見ると時計の時間表示が12時だと真上、6時だと真下、3時だと真右、9時だと真左と言う事が判るだろう?」

「うん、判る。」

「判るわ。」


俺と真鈴も四郎のように的に時計を向けて言った。


「これからはどちらに矢がずれたかこの時計表示の時間で言うぞ。

 その方が言いやすいからな。

 またこの時計表示の言い方だが、自分の真上に時計の文字盤を載せたと想像してみろ。

 そうすると12時の方向は真ん前、6時の方向は真後ろと言う感じで色々と応用できる。

 これは覚えておけ。

 これからは方向を言う時にもこの方法にするぞ。」

「はい。」

「はい。」

「よしよし、そこで真鈴が射った矢はおおよそ2時の方向にずれたと言う事だ。

 そして3インチ高く10インチ横だな。

 それを頭に入れて狙いを修正しながら射って見ろ。」


真鈴の2度目の矢は的の5時の方向に当たったが、木の幹には刺さった。


「よし、5時の方向に4インチずれた。

 その調子で修正しながらあと3本射ろ。

 真鈴が終わったら矢を回収して彩斗も5本、これを繰り返すぞ。」

「はい!」

「はい!」


その後、真鈴は3本中2本は木の幹に当たったが中心部の丸には当たらなかった。

真鈴が射った矢を回収して、俺が的に矢を向けた。

5本中4本は木の幹に命中したが中心部の的には当たらなかった。


「狙いを定める時間が延びると弓を支える手が震えてくるぞ、それに悠長に狙っていると悪鬼はどんどん近づいて来る。

 もう少し素早く射るんだ。」


四郎は腕を組んでじっと俺達を見ながら様々な指示を出した。

俺達は黙々と弓を射った。

どれほど射っただろう、指がつりそうになった時、中心の丸に矢を命中させて俺は小さくガッツポーズをした。


「やったわね、彩斗。」

「よし、少しは上達…かな?」


続いて真鈴も中心の丸に他を命中させた。

2人とも木の幹から矢は外れなくなった。


そして5本のうち2本は中心の丸に当たるようになった。


「うむ、初日にしては上出来かな?

 だが一日中これをやる訳にも行かないな、矢を回収しろ。

 明日もやるぞ。

 5本のうち4本は当てる事が出来る様にならないとな。

 次は催涙スプレーがどれほど悪鬼に効くか試してみよう。」


俺達は弓矢を片付けて催涙スプレーをポウチから取り出した。


「うむ、まずどれくらい効くのか、われが実験台になろう。

 彩斗、そこからわれの顔に噴射してみろ。」


俺は3メートルほどの距離から四郎の顔に向けてスプレーを噴射した。

霧と言うより液体の飛沫が飛んでゆくような感触で四郎の顔に当たった。

四郎の顔が苦痛に歪み、見る見る吸血鬼の凶悪な表情に変わった。


「うぐぅ!ぐわぁああ!」


四郎が顔を押さえて体を屈めた。

びっくりした俺と真鈴はリュックの中の水が入ったボトルを手に四郎に駆け寄るとその顔に水を掛けた。

辺りには何とも言えない刺激臭が漂い俺達まで目がちかちかした。


「う~!

 これは効くかもな。

 われや悪鬼は君らよりの鼻が利くから余計に辛い。

 目を開けられなくなるし、これはかなり有効だと思うぞ。

 人間の姿でいてもこの刺激で変化してしまう。」

「これ、スタンガンと同じで人か悪鬼か見分けるにも良いかもね。」

「狭い所でやらなきゃね。

 俺まで目がちかちかするよ。」

「あたしも、鼻水まで出てきた~。」


四郎が水で顔を洗い、人間の顔に戻って一息ついた。


「ふ~やれやれ。

 この前地下で狼人に使えば恐らく寄せ付ける事をさせなかったかも知れんな。

 だが、われらも液体の洗礼を受けるか…どうなんだろうか?」

「殺す事は出来ないけど充分混乱はするかもね。」

「有効に使える状況や方法を考えようよ。」

「そうだな。

 彩斗、真鈴、スプレーをしまえ。

 出発しよう。」


その後俺達は森を抜けて緩やかに山に登る草原に出た。

錆びついた鉄の棒が並び朽ちそうなロープが張られていた。


「これは隣の親族の土地との境界線だよ。

 この土地も売りに出ているんだ。」

「どれくらいの広さなの?」

「この先2万坪くらいかな目の前の小山一帯と言う感じ。

 セットで買わないかと言われているんだ。」

「買えるなら買う方が良いな。

 このロープに沿って進んでみよう。

 今のところ緩い傾斜があってその先が上がっている向こうから何かが来た時に良い防衛線を築けるな。

 今出てきた森の所に監視する場所を作れば向こう一帯を見渡せるぞ。」


四郎が言う通り、この傾斜地に何か障害物を置くだけで非常に邪魔になる気がする。

しかし、同時にこの広大な土地を俺達3人で守ると言うのは少し頼りなく思えた。

俺達は境界線に沿って進み平坦な所でまたまた、ナッツバーなどの携帯食で昼食をとった。





続く


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