表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
12/23

訓練2日目、俺達は早く悪鬼退治のノウハウを詰め込まなくてならないようだ…

俺と真鈴は手早く顔を洗い歯を磨いて昨日のハイキングの装備をつけていた。

玄関ホールに向かう途中、真鈴は人形、はなちゃん人形がいる部屋の前に立ち中を覗き込んでいた。

俺は真鈴の横に立ってはなちゃん人形を見た。

椅子に座り脱力してタオルを掛けたはなちゃん人形は昨夜眠りについたままの姿勢でいた。


「お人形、あれから話さないね~もう一度大好き~って言われたいわ~」

「きっと疲れて寝てるんだよ。

 四郎も言ってたじゃないか。」

「それもそうね、寝かせてあげましょう。

 それじゃお人形さん、行ってくるね。」


真鈴がそっとはなちゃん人形の頭を撫でた。

俺は昨日の夜、人形が歩いてはなちゃんだと名乗った事を真鈴に言いたくて言いたくてしょうがなかったが必死に我慢した。

うむ、モテる男は口が堅いぞ、と俺の頭の中で四郎が言いそうな言葉が浮かんだ。


「さあ、真鈴行こうぜ。」


俺は真鈴を促して玄関ホールに向かった。

四郎も完全装備の姿で待っていた。


「よし、お坊ちゃんにお嬢ちゃん、時間通りだな。

 昨日は少々軽装備だったし君らも余裕がありそうだから今日はこれも持ってもらおうか。」


四郎がテーブルに置いたリュックと催涙スプレー、そして装飾が彫られた弓と矢を指差した。

日本の弓よりかなり小振りな、湾曲が強い物だった。


「こいつらも持って行ってもらおう。

 勿論屋敷に帰る時間が昼飯に間に合わなかった時の為の携帯食も用意してあるぞ。

 今日はナッツバーだけでなく幾つかの種類を用意してあるぞ。」

「うわあ~嬉しいわ四郎って優し~」


真鈴が死んだ目と棒読みのセットで声を上げた。


「うむ、なに、お礼は要らんぞ。

 今日は野外で催涙スプレーも試してみよう。

 ただ、君らの顔に吹き付けると救急車を呼ぶ騒ぎになるかも知れんからわれが実験台になるぞ。」


四郎が弓矢を手に取った。


「そして、ある程度の遠距離から攻撃する手段も必要だからな。

 こいつの使い方もある程度教えよう。

 なにせ時間が無くて君らに速成教育をしなければならん。

 今日は少し盛沢山になるからな。

 さあ、こいつらを全部持ってくぞ。」


俺はリュックを担いでその重さにびっくりした。

真鈴もリュック重さに目を見開いて固まった。


「あの、四郎、リュックが重すぎるんだけど、何が入っているの?」

「ん?あははは!

 リュックが軽すぎると物足りないと思ってな。

 水を入れた2リットルのボトルを4本づつ入れておいたぞ。

 なに、お礼は要らないぞ。」


俺と真鈴は重いリュックを背負い、催涙スプレーをベルトのポウチに入れ、弓と矢筒を肩にかけた。


「さて、出かけるとしよう。

 君らは運が非常に良いな。

 天気が良くて暑くなりそうだ。

 リュックの水は飲み放題だから遠慮するなよ。」


笑いながら玄関から出て行く四郎の後を重い荷物を担いだ俺達はついて言った。

四郎を先頭に戦闘服を着て色々な装備で体を膨らませた俺と真鈴は5月にしては強い日差しの元、荷物の重さに前かがみになりながら敷地の外れに向かって歩いて行った。

昨日の事も有って俺と真鈴は周りの風景に気を配り地形の特徴、目印となる岩や巨木等に注意しながら進んだ。

重いリュックや小振りだが頑丈な弓矢が肩にのしかかって悲鳴を上げている。


「うむ、昨日よりは周りに目を向けて歩いているな。

 今日はさらに太陽の位置から東西南北を頭の中に入れながら歩いてもらおうか。」


四郎は俺達と同じ荷物を持っているのに軽やかな足取りで、しかも速足で歩いて行く。


「とまれ。

 東はどっちか指差せ。」


俺と真鈴は東と思われる方向を指差した。

四郎は俺達の後ろに立って腕を掴み、指さす方向を修正した。

四郎はその後時々立ち止まり東西南北の方向、現在地の場所を俺と真鈴に質問した。

やがて森の中に入って行き、森の中の少し開けた所で四郎は立ち止った。


「ここで一旦休憩だ。

 荷物を下ろして良いぞ。

 水でも飲め。」


俺達はほっとしてリュックや弓矢を下ろして水を飲んだ。

四郎が弓矢を手に取った。


「これは複合弓と言う物だ。

 木材の他に動物の腱や角などを組み合わせて作られたものだ。

 ポール様がトルコ弓と言う物を、よりもっと素早く射る事が出来るように改良した物だ。

 君らが日本で見る和弓と呼ばれる物よりもコンパクトに出来ている。

 もともと馬に乗っている状態で使うものなのだ。

 大きさの割には遠くまで矢を飛ばせて速射もしやすく出来ている。

 威力も大きな弓で、弦を肘まで引いて放つと大きな弓で胸まで弦を引いて放つのと同じくらいの威力があるぞ。

 また、遠くまで飛ぶと言う事は放たれた矢のスピードが速い、つまり命中率も高いのだ。」

「四郎、どのくらいまで飛ばせるの?」

「われなら400ヤードまでならほぼ命中させる事が出来るが、長距離を飛ぶと当然矢の威力は落ちるから人間程度の物を即死させる部分に命中させるのは、まぁ350ヤードと言う所かな?」

「大体320メートルか…私達が練習したらどのくらい飛ばせるの?致命的な所に命中させて殺すことが出来るとしたら。」

「うむ、頑張って練習したら君らでも100ヤードか200ヤードで人間ほどの大きさの悪鬼は殺せるかも知れんな、ただし…」

「ただし?」

「相手が動かずにじっとしていたら、そして風などが無い状態ならばな。」

「でも、100ヤードか200ヤードと言ったら、まぁ90メートルから180メートルくらいの距離で戦えると言う事でしょ?」

「彩斗、君らでタフな悪鬼の致命的な部分に当てるなら、動く廻る悪鬼に対して戦っている時、君らの興奮状態を考えたら必中距離は50ヤードかせいぜい頑張っても75ヤードと言う所だろうな。

 練習を積んでもだ。」


四郎が俺達の前に握りこぶしを突き出した。


「このこぶしの大きさが心臓の大きさと考えて良い。」


次に四郎がこぶしを鼻の前に持って行った。


「頭でもこのこぶしに隠れる、脳の深い部分に当てなければならない。

 悪鬼を一撃で始末するなら心臓深くか頭の中の脳の深い中心部に矢を当てなければならないのだ。

 動き回る悪鬼のな。

 この弓の場合は最初の矢を外してもすぐ次の矢を放てる速射が効くと言う物だと考えた方が良いな。

 多少距離があれば最初の矢を外しても素早く次の矢を放てる2の矢3の矢を悪鬼に当てる確率が上がる。

 即死させることが出来なくとも動きを鈍らせる事が出来たら上出来だと考えておけ。

 そこで初歩の初歩だな。」


四郎はハンティングナイフを持ち、少し離れた木まで行き、ナイフで太い木の皮を剝いだ。

そしてポケットからマジックを出して皮を剥いた木の幹に十字線をその交差点に丸く円を描いた。


「この木は今君らが立っている所からおよそ25ヤード、およそ23メートルだ。

 とりあえずこの的に当てる事から始めよう。

 最低でも動かない的で心臓、脳の深い部分に矢を当てる位は出来るようにして欲しい。」


四郎は俺と真鈴に弓を構えさせて弦の弾き方、狙いの付け方を教わった。

日本の弓道とは違い、引手で弦を肘くらいまで引いて矢を放ち、すぐに次の矢を放てる動作を繰り返しやらされた。


「よし、実際に矢を射ってみるか。

 真鈴の矢には青、彩斗の矢には黄色いテープを貼ってあるぞ。

 実戦で使う矢はこの通り…」


四郎が自分のリュックから一本の矢を取り出して俺達に鏃を見せた。

鋼鉄の尖った鏃の少し後ろに鏃の反対の方向にやはり鋼鉄の棘が突き出ている。


「一度刺さると容易に抜けないように返しが付いているのだ。

 人間と違い悪鬼なら刺さった矢を抜けばすぐ再生するからな。

 それが出来ないように返しが付いている。

 致命部に当たらなくても矢が刺さったままなら多少は動きが鈍くなるだろう。

 …多少はな。」


俺は地下室の狼人との戦いを思い出した。

狼人は刺さった火掻き棒を必死に抜こうとしていた。

刺さった状態の傷からは大量に出血していたが、あの時火掻き棒を抜かれてしまうとすぐに傷口が塞がって出血は収まってしまっただろう。


「…悪鬼と戦うって…大変なのね…」


真鈴も同じ事を考えていたようで鏃を見つめながらぶるっと身震いをした。


「ふむ、人間を殺すよりもかなり大変な相手だと言う事だ。

 人間を殺す事でも大層な事だが、悪鬼を退治するのは数倍難しいぞ。」


四郎が俺達の顔を見て俺達の思いを察したのか、じっと俺達を見つめた。


「…怖気付いたか?」

「いえ、全然!

 私、やるわ!」

「俺もだ!

 もう絶対逃げないと決めたんだ!」


俺と真鈴は四郎の顔を見つめ返して答えた。









続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ