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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
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はなちゃん…そして朝の散歩はきつそうだ…

四郎は暖炉の薪を動かし、火掻き棒でつついて平らにして霧吹きで火を消すと赤い部分がなくなるまで見守った。


「どうやら煙突の中の老人は大丈夫そうだな。

 火をくべて咳き込みながら出てきたらどうしようかと思ったぞ。」


鎮火した灰を更にかき混ぜ消化を確認した四郎は金属のシャッターをひいて暖炉の前を閉じた。


「さて、われが真鈴を背負って行くので彩斗はポール様の日記を持ってきてくれるか?」

「うん、判った。

 後でワゴンも片付けておくよ。」

「それは助かる。」


四郎は軽々と真鈴を背負って、日記を持った俺を従えて階段を上がった。


「彩斗、明日は叩き起こすからすぐに戦闘服に着替えて玄関ホールに集合だからな。

 時間は教えないぞ。

 起こされたら直ぐに行動だぞ。」

「判ったよ四郎。」

「さて、真鈴の部屋…お?」


四郎が人形がいる部屋の前のドアで立ち止まった。


「どうしたの四郎?」

「見ろ。」


四郎が顎をしゃくった先には人形がいない椅子があった。


「…え…いったいどこに…」


その時、ドアの左側からよち、よち、とたどたどしく歩く人形が姿を現した。

呆気に取られて見ている俺と四郎の前を人形はよち、よち、と椅子の方へ歩いて行き椅子の足に掴まり、まるでお年寄りが息を整えるように体を前後に揺らしていた。

そして、椅子の座面を見上げ、やがて椅子の足にしがみついてゆっくりと登り始めた。

非常な苦労をして人形は椅子の座面に上り、背もたれに持たれて真鈴がかけてやったタオルを自分の体に掛けると体の力を抜いた。


「…ミタナ…」


俺と四郎は無言で頷いた。


「…アルケル…ヨウニ…マダ…キツイ…マリン…ネテ…イル…オコスナ…マダ…ナイショ…」

「うむ、判った。

 われは四郎、隣にいるのが彩斗だ。」

「シッテル…ワラワハ…ハナ………ハナチャン…ト…ヨバセテ…ヤッ…テモヨイゾ…マリンニハ…マダナイショ…クタビレタ…ネル…」


はなちゃんと名乗る人形は沈黙した。


「…乗り移ったね…」

「うむ、乗り移ったようだな。」

「はなちゃんか、可愛いね。」

「彩斗、見かけに騙されるな。

 はなちゃんは歳が古りた死霊だぞ。

 もしかしたらポール様より長く存在しているかも知れんな。

 彩斗、機嫌を損ねないように接しろよ。

 お前は時々やらかすからな。

 はなちゃんを怒らせると怖いと思うぞ。」

「…気を付けるよ。」

「さぁ、真鈴をベッドに放り込んでわれらも寝よう。」


その後真鈴をベッドに寝かせて俺と四郎はそれぞれの部屋に戻った。

俺は一人になると落ち着かなくなった。

何せ死霊があちこちにいる屋敷にいるのだから。

俺はベッドに寝転び、枕もとのスタンドの電灯を消すのが怖かった。

スタンドに照らされた室内を見回して

ちょっとした影の動きにもびくびくした。

時間は午後11時を回った頃だ。

やがて疲れがどっと押し寄せて目をつぶった…途端にガンガンと大きな音と共に四郎の怒号が耳元で鳴り響いた。


「起きろ!彩斗!起きろ!このへなちょこがぁ!」


びくっして跳ね起きた俺を見た四郎は部屋を出て行った。

その手には鍋とすりこぎ棒が握られていた。

やがて真鈴の部屋からもガンガンと鍋を叩く音と四郎の怒号が聞こえてきた。

俺は時計を見て唖然とした。

午前5時30分。

6時間も寝ていたのだ。

俺は慌てて戦闘服に着替え、ブーツを履いて1階の玄関ロビーに向かった。

戦闘服に身を固めた四郎が手を後ろに組んで待っていた。


「おはよう、四郎。」

「うむ!おはよう彩斗!

 次はもっと急いで来い!

 トイレは済ませたな!

 テーブルの上のコップの水を飲め、ゆっくりな。」


俺は四郎に言われた通りテーブルの上の大きなコップの水、ぬるめの水をゆっくりと飲んだ。

真鈴が階段を駆け下りてきた。


「おはよう!四郎!彩斗!」

「うむ!おはよう真鈴!

 次はもっと急いで来い!

 トイレは済ませたな!

 そこの水をゆっくり飲め!」

「はい!」


真鈴が俺の横で水を飲んだ。


「うあわ、ぬるい~!」

「ぬるい水の方が良いのだ!

 朝起きて直ぐは体が脱水気味だからな!

 早く吸収される!

 さてお坊ちゃんお嬢ちゃん!

 飲み終わったら玄関を出て裏の庭に来い!」


そう言い残して四郎は玄関を出て行った。


「なんか今日は雰囲気違うわね。」


 真鈴が俺に囁いた。


「昨日はまだ『お客さん』だったからかな?」


外から早くせんか!と四郎の怒声が聞こえて俺と真鈴は慌てて裏庭に向かった。


「遅いぞ!

 これから朝の散歩をするがまず筋肉を伸ばすぞ!

 足をつったりアキレス筋をぶった切ってもつまらんからな!」


俺と真鈴は四郎が指示する通りに体を動かした。


「なあ、真鈴、実は昨日の夜…」


俺は横で四郎が見本を見せた腕立て伏せに似た運動をしながら真鈴に小声で話しかけた、途端に四郎の怒号が飛んだ。


「そこの小僧!

 何をくっちゃべってる!」


俺は襟を掴まれて強制的に立たされて少し離れた欅の木の所まで四郎に連れて行かれた。

四郎は俺の耳に顔を寄せてドスの効いた小声で言った。


「彩斗、お前のその考えが浅いおっちょこちょいな所が女の子に嫌われると思うぞ。

 お前、はなちゃんの事を真鈴に言いそうになっただろう?」


四郎に睨まれて俺は白状した。


「う、うん、言いそうになった、ごめんなさい。」

「余分な口は閉じていろ!

 ストレッチを続けろ!」

「はい!」


俺達はストレッチを終わるとうっすらと汗をかいていた。

四郎が水筒を俺達に投げ渡した。


「これから朝の散歩だ。

 この水筒は喉が乾いたら飲んで良し!

 顔を洗ったり朝飯を食べたり歯を磨いたりお化粧する前に、ここにいる時は毎日朝の散歩をするからな。

 雨が降ろうが雪が降ろうが必ずやるからな!

 彩斗、真鈴、腕時計は外せ!」


四郎は俺達の腕時計を受け取りポケットに入れた。


「よし、君らはあの黄色いテープが見えるな?」

「はい!」

「はい!」


欅の木からビニールで幅が広いテープが草原の向こうへずっと伸びていた。


「君らの為にわれが散歩コースを作っておいたぞ。

 これからあの黄色いテープを常に右手に見ながら進むんだ。

 テープが途切れたらすぐ目の前に屋敷の玄関が見える。

 君らが屋敷に帰ってきたら朝食にしようじゃないか。

 そうそう、途中で小さな祠を見つけたが、必ずお参り。最低限手を合わせてお辞儀をして挨拶はしておけ。

 お散歩の最中は危険な事を知らせる以外はおしゃべり禁止だ!

 そして、25分で戻って来い。

 よし!行け!」


俺と真鈴はテープに沿って走り出した。

テープは延々と林の方向に延びていた。




続く



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