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強い女

作者: 星野☆明美

結婚して、夫は「俺について来い」と言ったが、私はその言葉を首をひねって受け止めた。

夫婦2人とも社会的弱者だったが、夫は脆くてやっとこさ生きている人だった。

「僕は、死のうとしたことがあるんだ」

そう言って喫茶店で私に話す。

「睡眠薬をひと瓶飲んだ。救急車で運ばれて胃洗浄して不発に終わった」

夫が飛行機のパイロットになる夢を諦めきれないまま何十年も過ぎて、私は空港まで車で連れて行って旅客機の離発着を見たり、小型機の操縦クラブに入会するように背中を押したり、ダイキャストの飛行機をコレクションしたり、彼の喜ぶことをなんでもやれるだけやった。

夫は「死にたい」と言わなくなった。

鳥や魚を養って、世話を焼くついでに夫の面倒をみた。

夫は誰かに縋らないとやっていけないひとだった。

私は、他人にそんなに依存して、もし別れの時が来たらどうするの?耐えられるの?と思いながら見ていた。

それでも、ダンディな一面もあって、品の良い金持ちの匂いがした。

夫は義母が早くに亡くなって途方に暮れていた。年老いた姑は夫の病気を理解せず、親子間で確執があった。

背負うものがあると、きついだろうか?否。かえって底力が湧いてくる。

私は夫が生きていた間、最強の女だった。

男女逆の立場だったらよかったのに、と常に思っていた。

年下のユニークな青年に心奪われて、夫に別れを切り出した。夫はすんなり受け入れた。

どうもないわけがない。夫の誕生日に「どうして僕は僕の誕生日にこんなひどい目に遭ってなきゃならないの?」そう言って泣きじゃくったり、毎日電話がかかってきた。私は夫をなだめながら、離婚手続きが相当大変だったことを思った。苗字が変わるだけで何もかも変更につぐ変更。だけど、自由だ、と感じた。

会いたいと言われて会いに行ったら、洗濯していないヨレヨレの服で、白髪と髭が伸び放題だった。小さなハサミで髭を切ってやったが、あまり助けにならなかった。

「好きな人いるの?」と聞かれて、振られていた私は「いる訳ないじゃない」と言った。

「また、結婚しようか?」

「うん」

そんなやりとりをした数日後に彼は亡くなった。

私は弱くなった。

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