第二章 Part7
辺りを見ても何もないし、誰もいない、ここにはアスタはいないのかと思っていたその時。ユキの視線の先に、剣を握り、仰向けで倒れているアスタの姿があった。
「!アスタ!」
ユキはアスタを見つけることができ、とても嬉しい気持ちになりアスタの元へと駆け寄った。
「アスタ!アスタ!」
「…」
ユキが必死に呼びかけるも、アスタは意識を失ってるせいなのか、ずっと黙ったままだった。
「アスタ…」
そんなアスタは見て、ユキは一人悲しくなる。
「お姉ちゃん!」
「ユキちゃん!」
「…ミユキ、サオリちゃん」
「お姉ちゃん、大丈っ!アスタさん!」
「…この人が、アスタさん」
「アスタさん!」
「…」
「アスタさん……」
ミユキはアスタに何も反応が無い事にも驚いたが、それより、アスタを見た後のユキの様子が明らかに違うことに、ミユキは気づいた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん……いや、ごめん、ちょっと、辛いな」
「お姉ちゃん…」
「…ユキちゃん」
「アスタ…」
「…ユキちゃん、辛いけど、ひとまず今は、アスタさんをここより安全な所まで運ぼう。こんな状態だけど、アスタさんには会えた。ひとまずそれを喜びましょう」
「サオリちゃん…うん、そうだね」
サオリに励まされ、ユキはアスタを背負い、三人はアスタが住んでいた第一階層の宿に、ひとまず向かうことにした。
「懐かしいな、この場所」
「そうだね、アスタさんの部屋、空いてるかな?」
「とりあえず入ってみましょ」
三人は宿の中へと入り、アスタが住んでいた二〇二号室が空いているか、宿の店員に聞いた。
「いらっしゃいませー」
元気いっぱいの女性店員さんが、対応してくれた。
「あの、二〇二号室は空いていますか?」
「あー、すいません、その部屋は現在貸し出し中なんですよー」
「…そうですか」
「どうする?お姉ちゃん」
「う~ん、そうだね、しょうがないから、ボクらの誰かの家に…」
そう話していると、後ろから袋を落とした音が聞こえた。
「ユ、ユキ」
「ん?」
ユキは名前を呼ばれ、後ろを振り返る。振り返るとそこには、ユキ達が会ったことのある少女がいた。
「!ヒナちゃん!」
そう、ユキの名前を呼んだのはヒナだった。
「どうしてここに、 それにミユキも、一体何で」
「それは…ちょっと色々あって」
「…そうなのか」
「あの~お知り合いですか?」
「あぁ、知り合いというか、友達だ」
「!そうでしたか!」
「あぁそうだ、こんな所で話すのもなんだし、私の部屋に来てくれ」
「え!良いの?」
「あぁ、別に構わない」
「じゃあ、お邪魔するね!」
「あぁ」
「私もお邪魔しますね、ヒナちゃん」
「あぁ、?、!アナタは!」
「お久しぶりですね、ヒナちゃん」
「あぁアナタもいたとは」
「私もユキちゃん達と同じで、色々事情がありまして」
「そうだったのか」
「はい」
「…ひとまず、私の部屋に来てくれ」
ヒナはユキ達が来たことに、驚きを隠せなかったが、それと同じく、先程からアスタが何も話さないことにも驚いていた。ちょくちょくアスタを見ていたが、アスタはずっと気を失っていた。そんなアスタが気にはなったが、ひとまずヒナは、自分の部屋まで、ユキ達を案内した。
「二〇二号室、 ひょっとして、ヒナちゃんがここの部屋を?」
「あぁ、この部屋は、私の、思い出の部屋だからな」
そう言ってヒナはドアを開け、部屋に入り、ベットが二つあったので、アスタは椅子に座らせ、四人はベットに座り、寛いだ。
「それで、ちょっといいか?」
「うん、どうしたの?」
「さっきから気になっていたんだが、アスタはどうしたんだ?先程からずっと喋らないし、それに、ユキ達は、何故またこの世界に?」
「アスタの事は、ボク達もよく分からないんだ。アスタを見つけた時も、ずっとこんな感じだった」
「…そうか」
「うん、それでねヒナちゃん、ボク達がここに来た理由だけど」
「あぁ」
ユキは、菊池の存在や、この世界の支配権、この世界に来るに至るまでの出来事を話した。
「…なるほど、そんな事が」
「はい、菊池という男が、ユキちゃんに、それにアスタさんも」
「菊池、この世界の支配権か、しかも、それをアスタに」
「アスタさんは、何かを知っている。菊池はそう言っていました」
「…」
「ん?どうしたの?ヒナちゃん」
「アスタが何故こうなったのか、分かると思ってな」
「?」
ヒナは、ユキ達が知らない、他人の記憶や存在を読み取る方法、自分と相手のひたいを合わせる方法を、アスタにやった。そして、そうした事で、アスタの記憶を一部分だけ読み取ることに成功した。
ゲータを倒し、皆を逃がすことに成功したアスタは、次に自分がこの世界から出ようとしていた。
だがその時、アスタが触っていたコンソールから超強力な電撃をくらってしまう。普段のアスタなら、危険を察知し、くらわないことができたが、その時のアスタの精神状態は、ゲータを倒したのは良いものの、フェイやイナイに続き、ユウマも失い、体も精神も限界に達していた為に、ゲータの罠であろう電撃をくらってしまい、今のアスタは、意識不明の状態となっていた。
「ヒナちゃん、何か、分かったの?」
「簡潔に言えば、今のアスタは、意識不明の状態だ」
「…そっか」
「あぁ、ゲータと戦い、かなりアスタは消耗していたし、記憶を見て分かったが、アスタは、どうやら仲間を失ったみたいなんだ。それで精神共に限界が近かった」
「仲間?誰かいたの?」
「あぁ、ユウマと言う男だ」
「!?」
「ユウマが!?」
「あぁ」
「…」
三人はユウマの名前を聞いて、驚いた。なぜそこに居たと言う疑問はあるが、最強であるユウマでさえ、死んでしまったことに、ヒナも含め、驚いていた。
「ユウマ」
「ユウマさん」
ユキもサオリも、元はランキングにいた者、ランキング第一位のユウマが亡くなったことに、ショックを受けていた。
「でも、きっとユウマはアスタを助けてくれたんだよね」
「…ユキちゃん」
「悲しいけど、きっとユウマは、最強の剣士として、立派な最期だったと思う」
「…そうね、私も悲しいけど、ユウマさんは、きっと立派に戦っていたと思う」
「うん、アスタとユウマ、二人のおかげで今のボク達がいるんだね」
「そうね、託されたこの命、大事にしなきゃ」
「うん」
「アスタもユウマと言う男も、二人には感謝しかないな。二人は英雄だ。…それで、アスタの事なんだが」
「うん」
「アスタを治す方法は、残念ながら私には分からない。でも、きっとアスタは、帰ってくる。私はそう思っている」
「そうですね、アスタさんなら、きっと帰ってきます。だよね、お姉ちゃん」
「うん、そうだね」
「…」
「ボクちょっと散歩してくるね。ちょっと気分転換に」
「あ、私も行く」
「分かった、行こうミユキ」
「うん!」
「二人共、気をつけてね」
「うん!」
「行ってきまーす」
「…」
「行かなくて良かったのか?」
「ええ、私は、ヒナちゃんとお話がしたかったから」
「そうか」
散歩に行った、ユキとミユキ。そして部屋に残ったサオリとヒナ。最初は暗い雰囲気ではあったが、アスタが帰ってくると信じた四人には、穏やかな空気があった。
だが、第二十階層のある森の中では、そんな空気とは真逆の少女がいた。
「ハァ、ハァ」
「おい、見つけたか」
「いや、見失った」
「急いで見つけるぞ、あの女は貴重な奴隷なんだからな」
「あぁ、分かってるさ」
「ハァ、ハァ、誰か、剣士様、助けて」




