第1話
「はぁ、今日も死ねなかった」
今日は首吊りを試みてみた。
でも首を吊った瞬間自分の魔法が作動してロープが焼きちぎられた。
いつもそうだ。死のうとすると勝手に魔法が作動する。
私を死なせないように守ってくる。
自分の意思とは関係なく魔法がかかる。
「いつになったら死ねるの。ずっとこのままなんていや」
誰もいない屋敷に自分の声が響く。
叫んだって誰からも返事なんて来るはずないのに。
「どうして死にたいの?」
「え?誰?」
突然声が聞こえた。
後ろを振り向くとそこに居たのは若い男の人だった。
その服は薄汚れていてどうやら旅人のようだ。
「突然ごめん。僕は旅人だ。実は森で迷ってしまってここに辿り着いたんだ。一応屋敷に入る前に声をかけたんだけど...」
どうやら魔法が作動した時と重なってその声は聞こえなかったらしい。
でもおかしい。この屋敷には人が入れないように結界を張っているのに。
なんで入ってこれたんだろうこの人間は。
不思議なやつだ。
「町は屋敷の前の道を真っ直ぐ下りたところにある」
私は早く出ていってほしくて町の方を指さした。
「実は...今お金を持ってなくて宿には泊まれないんだ...だからここに泊めさせてくれないか?」
男はそう言った。
きっと何も知らないからそんなことが言えるんだ。
「ここは魔女の家だからやめた方がいい。あなたも魔女は怖いでしょ?」
「えっ!?」
男はひどく驚いた顔をした。
そして少し震えている。
やっぱり魔女だと知って怖がるのね。
「君が魔女ってこと...だよね?」
「そう。だからあなたは早く出」
「わー!!!やったー!」
「え?」
男は私の言葉を遮った。
なにを喜んでいるの?
「僕魔女に会ってみたかったんだ。僕人工の魔法も使えないからずっと憧れてたんだ...まさかこんなところで会えるとは」
「あなた私が怖くないの?」
こんな人間初めてだ。
魔女を憧れと言った。そんなのおかしい。
人間はみんな魔女を嫌う。人間の敵だって。
「怖いわけない。それに君はその、すごく綺麗だと思う。その真っ白な肌や髪が美しくて、魔女だなんて思いもしなかったよ」
本当にこの人間は不思議なことを言う。
綺麗だなんて初めて言われた。
「そうだ、君の名前を教えてくれないか?僕はルイって言うんだ」
「ユキ...」
つられて名前を言ってしまった。
それに人と話すのはいつぶりだろう。
「ユキ!君にぴったりの名前だね!こんなこと初対面の男に聞かれるのも失礼だが...ユキはどうして死にたいんだ?」
名前を褒められるのも初めてだった。
お母さんが唯一残してくれた宝物。
それをぴったりと言われるのは素直に嬉しかった。
なんだかこの人間になら話してもいいと感じた。
「私はひとりぼっちなの。生きる意味なんてないの。誰からも必要とされてない。もう私を愛してくれた家族も死んだ。みんな処刑されたの。私たちは人間に何もしてないのに。魔女っていう理由だけでね...だから死にたいの。もう幸せになれるわけもないんだから」
そうぽつりぽつりと話した。
でも男は何も言わない。じっと考えているだけ。
しばらくしてそっと口を開いた。
「じゃあ僕と友達になろう。僕は君を嫌ったりしない」