表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/60

閑話

 リン皇女が帰るとエスティは気がけたように座りこんだ。


「エスティ、大丈夫ですか」

「ほんとにあんなお姫様って感じの人がいるのね」


 エスティに手をすとほおさえてへへっとわらった。


「あーあ、もったいない、緊張して上手く話せなかったわ」

「普段から貴族の方とせっしてないからですよ」

「いや、田舎いなか貴族とは別物よ。なんていうのかなさわったらこわれちゃいそうな感じ。ほんとに私たちとは別の生き物ね」


 別の生き物か……確かにリン皇女とヒノワ皇女はそんな感じがする。

 着替きがえを手伝って化粧けしょうとす。


「ミーテもホットワイン飲むでしょ」

「はい」


 エスティがを魔法でホットワインを温めるのをっていると伯爵領はくしゃくりょうに帰ったみたいだ。


「むこうにはないスパイスを使ったわ。甘くておいしいのよ」

「ありがとうございます」


 深い赤のワインから湯気ゆげが立ち上っている。口にふくむと温かなワインの酸味と一緒にほのかな甘みが感じられた。


「おいしい」

「でしょ。ミーテ、これで仕事は終わったの」

「はい、ひとまずは」

「そっか……あのさ、夕方は私ばっかり話しちゃったでしょ」

「そうですね」


 エスティのワドニカでの話を聞くのはけっこう楽しかった。手のかかるおじょう様でも半年会わないとなつかしいものだ。

 

「だから、今度はミーテの話を聞かせてよ」

「うーん、半年ですからね……なにが聞きたいですか」

「全部」

「長いですよ」

「いいわ、どうせ明日は帰るだけよ。まあ、ミーテが護衛ごえいなら私が死ぬことはないでしょ」


 エスティは強がるようなみをかべた。


「大丈夫です。領地のモンスターはほとんど撃退げきたいできました」

「そうなの……? 帝国全体が大変なんじゃないの」

「それもこれからお話します」


 この半年のことを話し始めた。Dランクの冒険者になるまでのこと、ジーグナイト殿を始めとした多くの冒険者と知り合ったこと、リン皇女たちとのことはセルカの指示でウソをつかないといけなかったがエスティは目をかがやかせて聞いている。

 ギルド長を誘拐ゆうかいして『神獣の峡谷』に向かった話を始めるとエスティの顔が心配そうにくもった。


「それってモンスターの羽がさったの……」

「刺さったというよりまれたという感じですね。羽といっても強力なモンスターですからカミソリの刃のようなものです」

「うわぁ、痛そう……」

「ここからが本番です!」


 三人と一緒にダンジョンをりていく話を始めた。部下の兵や伯爵、父上なら喜んで聞いてくれるのだろうが、エスティにはそこまで面白おもしろい話ではないみたいだ。

 少し落胆らくたんおぼえつつ、でも一番話したいことだったから熱心ねっしんに話した。

 エスティの表情はみるみる固くなりコップをにぎる手に力が入った。


「大丈夫ですか」

「ううん、ごめん。やっぱり、ミーテでも強いモンスター相手だとケガするんだ……」

「そうですね、正直、壁役かべやくつとめるので精一杯せいいっぱいでした。でも、この剣のおかげでなんとか役目をたせました」


 私は剣をいた。

 真銀ミスリル製の両刃もろはの大剣、本来なら帝都ていとの騎士でも持つのがむずかしい名剣めいけんだ。

 十四の誕生日に伯爵からいただいたこの剣にふさわしい戦いを初めてできた。

 わりに四年間、どれだけモンスターをってもきず一つつかなかったやいばけ、剣身けんしんにもモンスターのつめきばあとがついている。


「これ……岩でも簡単にれる剣でしょ……」

「はい、未熟みじゅくな私にこの剣をあたえてくださった伯爵には感謝してもしきれません」

「そんな…………じゃない」


 エスティのつぶやきは小さくて聞き取れなかった。


「エスティ?」

「ごめん、もうつかれちゃった。続きは明日あした聞かせて」


 二人分のコップを持って立とうとしたエスティの手をつかんだ。


「もう一つだけ聞いてください」

「……明日じゃダメなの」

「今、どうして話したいんです」


 もう少し秘密ひみつにしようかと思っていたがエスティのつかれた顔を見て気が変わった。

 たぶん、魔法学院にちるのが憂鬱ゆううつなのだろうくさえんおさななじみを少しでも元気づけたかった。


「なに……?」

「実は今回のことが評価ひょうかされてセス皇女の騎士に任命にんめいされたんです」

「えっ……」

「それに『教会騎士団テンプルナイツ』にもさそわれて、あと冒険者としてもAランクに昇格しょうかくして、あの、すごくないですか!」


 思わず声が弾(はず〉んでしまった。絶対ぜったいとどかないと思っていた夢のような話が同時に三つも来たのだ。

 正直、だれかに話たくてうずうずしていた。


「それ、どうするの……」

伯爵はくしゃくやお父様と相談そうだんする時間をいただけました。すごくなやむのですがどちらに行っても名誉めいよなことですし、伯爵領への支援もいただけます。エスティの婚約者こんやくしゃ探しにもいい影響があると思うんです」


 私が大きな成果を上げればそれは伯爵たちの成果になる。自分で言うのはずかしいが結果だけ見れば英雄えいゆうと言ってもいいくらいの成果だ。

 マーミガン伯爵の影響力は地方貴族の中では頭一つ抜けたものになり、縁談えんだんを断ってばかりだったエスティも満足できるような相手を見つけられるはずだ。


「……いつからなの」

「まだ伯爵たちには話してませんがエスティの護衛ごえいが終わったらです」

「そう」


 エスティは手首のヒモを見た。顔が普段より青白あおじろくて調子が悪そうだ。

 のろのろと立ち上がるとうようにベッドにかった。

 さすがに反応がうすすぎる。エスティにとってもうれしい話だと思ったのだけど。


「だからエスティ、もし魔法学園に落ちても……」

「うるさい……頭が痛いのしずかにして」

「そんな言い方はないでしょう。私は……」

「ごめん……」


 エスティの声ははなにかかってふるえていた。

 カーテンからけるかげでエスティが身体を丸めて手首のひもを見ているのがわかった。

 半年かかったことだ。口で言うより魔法学院のことを気にしているのかもしれない。

 少しモヤモヤしたけど、ロウソクの火をしてねむることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ