表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

入学試験

 日が落ちかける中、白亜はくあの教会に入ると長イスが並ぶおく、本来なら神父しんぷとか牧師ぼくしとか言われるような人が説教せっきょうしたりするだろう台にとんがり帽子ぼうしの女性がいた。

 門番さんとはちがって全身真っ白で法衣ほうえたローブを着ており、きまじめそうな顔だ。


試験しけんを受ける方ですか」

「はい」

「ではこちらへどうぞ」


 かかえていたヒノワをイスに座らせる。

 教会魔女さんの方へ近づくと台の上においた紙束かみたばに書き込んでいた羽ペンを置いてこちらを見た。


「魔法を見せてください。攻撃魔法や準備がいる場合は中庭で試験を行います」

『ここでいい』

「ここで大丈夫です」


 セルカの指示にしたがって手を前につきだし呪文をとなえる。


「照らせ光球ホーリーライト


 僕の手から光の球がふわりと浮かび上がる。

 魔法を使ったのはセルカだがバレないだろうか……

 教会魔女さんは感心したようにうなずいた。


「発生が早いですね。では手を前に出してください」


 そういうと僕の手に小さな板のついた細いヒモを巻き付けた。

 ヒモにはむすび目がなく、板には四千二百と書いてある。

 エスティさんがつけてたのだ。


「これは?」

「あなたは四千二百人目の受験者です。合格していればヒモは千切ちぎれないので明日の十二時までにここに来てください」


 そう言うと教会魔女さんは台に戻って羽ペンで紙に書きんだ。

 

「次は我だ」


 長イスの上に足を伸ばすヒノワを見て教会魔女さんが歩みよった。


「魔法を見せてください。攻撃魔法や準備がいる場合は中庭で試験を行います」

「リン、あそこに行ってくれ」

「うん」


 ヒノワが部屋の角を指さす。僕が歩き終えるとヒノワが呪文をとなえた。


「〈召喚サモン・リン〉」


 浮遊ふゆう感とともに視界が真っ白になる。

 視界が切りわるとヒノワが目の前にいた。


召喚しょうかん魔法……! 初めて見ました」


 驚いたようにつぶやいた教会魔女さんがヒノワの手にもヒモを結んだ。

 紙に書きもうとしたペン先が小さな音をたててれる。

 一瞬いっしゅんかたまった教会魔女さんはペンナイフで羽ペンの先をととのえて書きみ僕たちの方を見た。


「試験は終わりましたよ」

「えっ、もう終わりですか」

「はい」


 教会魔女さんが紙束かみたばをしまって帰り支度じたくをしはじめたので僕たちも宿に帰ることにした。


『セルカ、なんかすぐ終わったけど』

『これでいいはず。前回の試験を担当した魔法使いに聞いておいた。まず、魔法を見て一定いってい以上のレベルなら他の試験しけんなしで合格』


 宿の部屋に帰ってセルカの姿を元に戻すと青い髪をほのかに光らせた浮世離うきよばなれした少女が姿をあらわした。


「神様、アルリスいた?」

「残念だけどいなかったよ。ぼくが聞いた名前や外見がかぶる子は何十人かいたけど、おそらくよくいる名前なんだろうね」

「試験の様子は?」


 試験の様子について神様が話し終えるとセルカが首を横にった。


「わからない」

特定とくていはできそうにないかい」

「神様の話通りならアルリスには学院に合格する実力がある。キーカに入学すると言ってるから合格はしてるはず」

「そのキーカにもっとくわしく聞けないのかい」

「キーカは知り合いじゃない。あいさつの手紙が来たってだけ」


 アルリス姫が僕と同じように姿や種族を変えられる場合、どうやって探せばいいんだろう。

 それに彼女の行動の理由がわからない。人助けのために旅をしていたならモンスターを倒して死ぬ人を減らす方が手っ取り早いし、不正ふせいをしていた領主りょうしゅなんかに関してもそれが個人こじんの問題なのか制度せいど領民りょうみんの問題もあるのかをあきらかにせずにばっするだけで解決かいけつするとは思えない。

 むしろ、モンスターという敵が存在する以上、支配者が不在ふざいになることでおこる軍の混乱こんらん犯罪はんざいの増加によるリスクの方が高いはずだ。


「うーん」

「……」


 セルカと神様も考え込んでいる。ヒノワは僕のひざに頭をいて寝転ねころび最初から考えるつもりがない。


「ヒノワはどう思う?」

「ちょっと高すぎる。くずしてくれ」


 ヒノワが正座した僕のあしにポンポンとれる。

 ヒノワのわきの下をつかんで座らせる。


「むっ、なにをする」

「なんでもいいから一緒に考えてよ」


 ヒノワがふわぁと可愛らしいあくびをする。


「世界をことにするものや人ならぬものが考えたところで分かるまい」

「そうなのかな……」


 セルカと神様も考えむのをやめた。

 仮の結論すら出さずに人に聞くのは気が引けるけど考えてる時間がもったいないか……


「とりあえず、ミーテさんたちに聞いてこようか」

「うん」

「そうだね、ぼくたちには難しそうだ」 

 

 セルカを使い魔に変え、神様が姿を消す。

 二人の部屋のドアをノックするとミーテさんが出てきた。


「ミーテさんたちに相談したいことがあります。少し時間をもらっていいですか」

「もちろんです。エスティにも最低限のことは伝えておきました」


 部屋の中でバタバタと音がする。少し待ってから入ることにした。


「リン皇女殿下、ヒノワ皇女殿下、お待たせしてしまい申し訳ありません」

「ううん、急に来てごめんね。楽にしてよ」


 固い表情のエスティさんに部屋に一つしかないイスをすすめられた。

 ヒノワを座らせて二人と向き合う。


「リン皇女殿下、相談とはいったいどのようなことですか」

「うん、実はね――――」


 アルリス姫が見つからないこと、行動の理由がわからないことや僕たちの考えをセルカに補足ほそくされながら話した。

 ミーテさんとエスティさんは困惑こんわくしたような顔になった。


「――――と言うことで二人の意見を聞かせてしいんだ」


 エスティさんがミーテさんに強い目線を送る。ミーテさんの眉間みけんにしわがよりしばらく見つめあう。

 両者の目線がぶつかり、あきらめたように離れる。この二人も竜使いみたいなスキルを持ってるのだろうか?

 ミーテさんが口を開いた。


「恐れながら考えすぎかと」

「どういうこと?」

「アルリスはおそらく十数才の少女です。リン皇女殿下のようにきん出て聡明そうめいな方もいらっしゃいますが一般的にはそこまで考えないかと……」

「えっ……じゃあどうしてだと思う?」

「悪いやつをらしめ困っている人を助けるのに理由はいりません」


 ミーテさんがはっきり断言だんげんした。


『人を助けたいなら魔法学院に入る理由がない。アルリスの実力なら『教会騎士団テンプルナイツ』や魔法学院の上位組織の『盾の魔女隊(ヘクセンシルト)』にも入隊にゅうたいできる。学院より高度な教育を受けられるし、年によるけどそっちの方が影響力がある人とり合える』


 セルカの言うとおり実戦じっせん通用つうようする力をそなえた子がわざわざ学校で学びなおすのもおかしな話だ。

 必ずなにか理由があるはず……そういえばヒノワも学院に行きたがっていたか。


『ヒノワはどうして学院に行きたいの』

『我は人の弱さが知りたい。学院には未熟みじゅくでなに不自由ふじゆうなく育った人の子が数多あまた集まるのであろう』   


 ヒノワの期待きたいつたわる。

 アルリス姫もヒノワとのろいを? 一応いちおう頭の片隅かたすみには置いておこう。


「実戦で通用する力があるのに学院に来るのはどうしてだと思う」

「エスティみたいな人なのでは」

「ちょっ……ミーテなに言ってんのよ!!!」


 エスティさんがあわてたようにミーテさんの名前を呼ぶ。

 ミーテさんはまずかったかな……といった顔で口に手をあてる。


「聞かせてください」

「あの、えっと……」

「ロウナ帝国のためにお願いします」


 ミーテさんとエスティさんの顔を見つめるとエスティさんが少し泣きそうな顔でうなずいた。


「ミーテ、皇女殿下に教えてさしあげて」

「エスティ……すいません」


 申し訳なさそうに言ったミーテさんが口を開く。


「エスティは伯爵令嬢はくしゃくれいじょうですがあまり他の貴族とつきあいがありません。むしろ農民や職人の子どもたちとよく一緒にいます」

庶民派しょみんはということですか」

「よく言えばそうですが、伯爵に買ってもらった都会の品を自慢じまんしたりちょっと習った程度ていどの魔法や剣術で素行そこうの悪い村人をいためつけたりといったことばかりに熱心で……いざりょうが危ないとなると急に学院に行きたいと言い出すありさま……」


 ミーテさんの口調くちょう日頃ひごろの不満をき出すようなものに変わる。

 顔を真っ赤にしたエスティさんがミーテさんの口をさえた。

 

「そこまで言わなくたっていいでしょ! 違います。リン皇女殿下、ミーテが言うほどひどいことはしてません」

「僕もミーテさんは優しい人だなって思うよ。でも他に手がかりがないんだ。教えてくれないかな?」


 ひと回り背の高い少女を見上げる。

 エスティさんは顔をくもらせたがミーテさんにうながされて話し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ