旅する少女の人助け
ひたすらモンスターを倒し続け、集中が続かなくなったころ、いくら待っても次のモンスターが来なくなった。
「この辺りのモンスターはいなくなったみたい」
「さすがに疲れたよ。二人は大丈夫?」
「我にとってはたいした時間ではない」
「私もちょっと疲れた。ステータスを確認しよ」
レベル上げは作業だった。ヒノワが気絶か戦意を失わせて、動けないようにして仕留める。
ひたすらその繰り返しだ。
数字のケタが大きくて見ずらいからステータス画面に強く意識を送ったら表記を変えられた。
【リン(人間)】 レベル1500
【職業】SE、究武者
【HP】 2000
【MP】 なし
【筋力】600万
【攻撃力】600万
【防御力】30万
【器用さ】529万
【すばやさ】800万
【スキル】全武器術
表記を変えるとMPがなしになった。
切り捨てられたのか、1以下は全部1になる仕様だったのかわからないがこれでは魔法学院に入れない。
新しく増えたウェポンマスターは名前が強そうだ。
二人にも見えるよう可視化する。
確認したセルカが嬉しそうに尻尾を振る。
「すごい! ウェポンマスター」
「強い職業なの」
「うん、前衛の攻撃役が一番欲しい職業。ステータス以上の攻撃力が出るようになる」
ウェポンマスターって職業なのか、資格ならなんとかマスターみたいなのもあるかもしれないけど……
「この職業って冒険者とか宿泊施設の管理者みたいな職業とは違うの」
「えっと……職業は職業で職業は職業、全然別のもの」
セルカが少し困ったように言う。意味がわからない。
「君の世界にはないものなんじゃないかな。強引に翻訳したから意味が通じないのだと思うよ」
そっか、一応外国人? 外界人? だもんな。
「そういえば神様、アルリス姫のこと。なにか分かりました?」
「うん、バリアみたいなものがあってゴウ=ソロフォ共和国には入れなかったんだけど他の国でそれらしい話が聞けたよ」
「それらしい?」
「ああ、セルカ君の話や城の人達の様子と似た現象だね」
まさか、他の国でもあんなことを……
僕たちの間に張りつめた空気が流れる。
神様は緊張をほぐすように柔らかくほほ笑んだ。
「そう心配しなくてもいいよ。最初に見つけたのは共和国の南のアプラス聖王国。ガンコで通ったドワーフの鍛冶屋が後を継いで欲しいとケンカ中だった息子に頼んで、同じくらいガンコな息子も意地になっていたと謝って解決したんだ」
「普通に考え直しただけだと思う」
セルカが言うと神様はうなずいた。
「これだけだとそうだね。でも、二人ともなんで急に和解する気になったか分からないと言っていて、旅人の女の子に会ったと言っていたよ」
「その人がアルリス?」
「たぶんね。アプラス聖王国以外でも同じようなことがたくさん起きてて、親の代に不正にため込んだ財産を隠していた領主が住民に打ち明けたり、身分差に悩んでいた騎士と平民の女性が駆け落ちしたり起こる可能性が低いことが明確なきっかけなく連続して起きてる。それに全員が冒険者ではない一人旅の少女に会ったと言っていたよ」
モンスターがいるこの世界で旅行が趣味の人間はほぼいない。少女の一人で冒険者でないというのはかなり珍しいはずだ。
「外見は?」
「それが聞く人によって違うんだ。名前を聞いた人も何人かいるんだけどこれもバラバラ」
「別人じゃないんですか」
「泊まった宿の記録や前の少女の目撃情報がなくなることからして同一人物だと思うよ。アルリス姫以外の精神に干渉するスキルの持ち主はいないそうだしね」
もしかして、アルリス姫も僕みたいに外見を変えられるんだろうか……
「なにか共通点はありませんか」
「そうだね。かなり正義感が強い子みたいだよ。モンスターを退治したり私腹を肥やす領主を懲らしめたり、あとは兄弟喧嘩の仲裁をしてくれたというのもよく聞いたね」
「なんかいい子みたいですね」
「うん、ぼくもそう思ったよ」
話しあえそうな相手で良かった。
セルカとヒノワは結論を出しかねているのかアイコンタクトを交わしている。
なんか可愛いなと思って見ているとセルカが気づいてこっちを見た。
「二人は目線で話せるくらい仲がいいんだね」
「これは竜使いのスキルで話してる」
「目で話すとはどういうことだ。人間はそんなことができるのか」
ヒノワの真紅の瞳がじっと僕を見てくる。
ほほ笑むとヒノワの顔がパッと明るくなった。
「なるほどこういうことか」
「そろそろ移動してモンスターを倒しに行こう」
「うん。外に出たら大変だよね」
僕たちが移動しようとした時、今までとは比べものにならない巨大なモンスターが現れた。
三つの頭に六本の手、獣の阿修羅とでも言うべき姿。全身を群青色の毛に覆われた二足歩行の巨体。三つの顔は虎の凶暴性だけを抜き出したような敵意に溢れ、僕たちを見下ろす。
「少し耳を塞げ」
ヒノワが咆吼すると獣の阿修羅は膝をついた。だが、戦意を失うことはなくうなり声を上げて立ち上がった。
「無理そう?」
「そのようだ」
セルカとヒノワがのんきに言葉を交わす。
「こっちに来るよ!」
「もう少し後ならよかったのに……もったいない」
セルカがそう言うと獣の阿修羅はベチャと潰れた。
あまりにもみじめな群青色のいびつな毛玉、平べったく床に広がった顔は自分の死に気づいていないように威嚇の表情で固まっている。
その横に巨大な骨の阿修羅が立っている。ピチャピチャと血を滴らせながらも床に食い込んだ爪が体勢を保つ。
「これ……セルカがやったの?」
「うん、安全のために私が一撃で倒せる相手しかいないところに来た」
「セルカってもしかして魔王より強い?」
「会ったことないけど魔王の方が強いと思う。私は『骨抜き』頼りだから粘体系や蟲系のモンスターには勝てない。相性の問題。それにリスクが大きいけど『骨抜き』は防ぐ方法があるから当てにできない」
「そうなんだ……」
このセルカより強いなら今のままでは勝つどころか戦うことすら現実的じゃない。なにかもっと早く強くなれないだろうか……
セルカが倒したモンスターが目に入った。
「このモンスターになったらもっと効率よくレベルを上げれないかな」
「リンは大丈夫だと思う?」
「うん、獣人やエルフになった時も感覚は変わったけど、僕自身は変わらなかったから」
記憶が消えた原因かもしれないスキルだが危険なものではないと思う。
「リンがそう思うなら……」
「案ずるな我も人に身を窶してしばらく立つが竜であることは変わらない」
「リンのスキルで姿が変わってもステータスは変わらないみたいだから気をつけて」
「うん、わかった」
【リン(獣面の阿修羅)】
みるみる身体が大きくなり、全身に力がみなぎる。
ステータスは変わってないけどこの世界にも一応物理法則はある。
同じくらいの攻撃力でもミーテさんみたいに体格のいい人の一撃の方が威力があるし、何十メートルも上から振り下ろせばすさまじい破壊力になる。
セルカたちを鋭い爪の生えた手の平の上にのせ、次のレベル上げに向かった。




