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教会と創世の書

神様は用があると言うので部屋を後にした。


「ヨシト、なにか思い出した」

「ううん、ごめん」

「かまわぬ」

 

 セルカとヒノワと一緒に廊下を歩く、この二人とも初対面とは思えないくらい打ち解けてると思う。

 着いた先は車輪のついた椅子が置いてある部屋だった。分厚い本が積み上げられて置いてある。


「我の部屋だ」

「これは車椅子かな」

「移動型の金庫」


 セルカが椅子の座席部分を開けると引き込まれそうな輝きを宿す金貨がいっぱいに詰め込まれていた。むこうのお金だと何億くらいだろうか。


「こ、これ、どうしたの……」

「プーリン、この国の皇女にもらった」

「……すごい大金だよね」

「普通」


 セルカは平然と言った。金銭感覚が違うみたいだ。

 僕の感覚だとこんな大金をくれた皇女は責めづらい。

 床に積み上げた本の一番上は『創世の書』というヒノワが持つと抱えるようになりそうなほど大きく、分厚い本だ。


「こっちの本はどうしたの」

「人について知るためギルドから借りた」


 僕の腕の中でヒノワが応える。


「ヒノワはよく本を読むの」

「初めてだ」

「いきなりこんな本読めるの?」

「昨夜一ページの半分読んだ。四千の夜を越える頃には終わる」

「気が長いね……」


 話しやすいようヒノワを金庫の上に座らせた。

 セルカが口を開く。


「取りあえず城に行ってプーリンを問いつめよ」

「セルカはなんで皇女様が脅迫したと思う。他に方法はなかったの」


 国の大事だと言うのに僕たち四人に押しつけるのはおかしいと思う。

 

「今回の件の黒幕、アルリス姫は情報が乏しい。彼女の住むゴウ=ソロフォ共和国は強い人がたくさんいるから敵に回したくない、慎重にしないといけない」

「うん」

「でも、慎重な人はこんな依頼受けない。私は共和国に濡れ衣を着せられて行方不明扱いだったから復讐のため受けると思われてた」

「濡れ衣ってどういこと」

「ロウナ帝国の北、ラン村の村民をみな殺しにした疑いがかかってる」


 セルカは淡々と話す。こんな小さな女の子が一つの村を滅ぼすというのは無理がある。

  

「そんなの誰も信じないでしょ」

「ううん、犯人は私のユニークスキルを模倣もほうしてた。それに城の人たちを狂わせたのと同じ方法を使ったかもしれない」

「それで奴隷にされたの」

「働いてないから正確には奴隷じゃないかもしれない。ヨシトが助けてくれるまで犯罪奴隷用の地下牢に二年間ずっと閉じ込められてた」

「……大変だったね」

「うん、手足は伸ばせないし光はない。声は少しだけ聞こえたけど……ヨシトに助けてもらえなかったら狂って死んでた」

 

 セルカが祈るように手を組んで僕を見つめる。

 二年間、そんな暮らしをしたら僕なら絶対狂う。


「……復讐はいいんだよね」

「うん、割に合わない」


 セルカはあっさり言った。


「つまり、セルカはSランク冒険者っていう強い人で言うことを聞かせたいから僕を人質にしてるってこと」

「うん」

「でも、スキルだけ封じてどうするの。セルカを敵に回したらまずいんじゃないの」

「プーリンは私には負けない。彼女のユニークスキルはスキルを無効化するから勝ち目がない」

「僕、そのスキルとかステータスとかよく分からないんだけど」

「ちょっと待って」


 セルカは『創世の書』を手に取るとパラパラめくりだした。

 そして最初から八分に一ほどのページで止めた。

 横からのぞき込むとやたら小さな文字で難解で大仰な言い回しが並んでいる。うわ、これは読めない。

 セルカはしばらく考えこむと口を開いた。


「この最初の方のページにはステータスができる前のことが書いてある。神に生み出された人々が繁栄していくつもの王国をつくる。やがて、人々は嘘をつくことと自分を本当よりよく見せることを憶える。嘘つきで見栄っ張りの王たちが世界を支配して暗黒の時代が訪れる」


 この世界の神話ということだろうか。

 

「良い心を持った人々は長い旅のすえに神にあって正しい王を選ぶための真実を願った。人は忍耐強くたくさんの子をなす王。エルフは賢く多くの魔法を使える王。牙を持つ獣人は力が強い王、鬼は武器で敵を殺すのが上手い王、精霊は死ににくい王、ドワーフは金物細工が得意な王、ひづめを持つ獣人は逃げ足が速い王を望んだ」

「獣人二回出るんだね」

「それで神様は生き物の基本的な情報とHP、MP、筋力、攻撃力、防御力、器用さ、素早さからなるステータス画面を全ての生き物に与えた。さらに皆が望んだ力に関係する特殊な能力をスキルとして明らかにした」

「そういうことなんだ」

「うん、その時あった職業と所持者が多くて天使が認定したものは職業スキル、それ以外はユニークスキルに分類される」

「セルカは教会の人なの」


 セルカの改造修道服を見る。


「今はわからないけど、昔は聖女だった」

「聖女って」

「教会の服を着てモンスターを倒したり、人助けをするとお金がもらえる。希望すると回復魔法とか読み書きも教えてくれる。他にも安くアイテムが買えたり、レベルアップの申請や教会の試験を受けて合格するとお金やアイテムが支給される。便利」

「服を着るだけでいいの」

「教会の人が来て聖女になりませんかって言われる。行ったことないけど、祭りとか教会の行事に出席するとお金がもらえたり色々ある」


 宣伝ってことだろうか、なんか俗っぽいな。


「話を戻す。プーリンはたぶん私たちに勝てると思ってる。でもヒノワがいる」

「ヒノワは強いの」

「あの姫には勝てよう」


 さっきまで話を真剣に聞いていたヒノワがうなずいた。


「プーリンは教会の名簿で強い人間は知ってる。でも、ヒノワは長い間地の底に封印されてたし、元竜だから絶対知らない。強さはたいしたことないと思ってるはず」

「言葉を重ねるより実践した方が早かろう」

「そうだね、ヨシトもいい?」

「あ、うん」

「じゃあ、神様も呼んで行こう」


 僕たちは城に向かうことになった。

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