セルカの過去・後編
スキルを手に入れてからしばらくあと、私の身体に異変が起きていた。
「お腹いたい……」
朝から二回吐いてるのに痛みがおさまらない。
今日はあんまり寒くないから死にはしないけど、動くと痛みと冷や汗が止まらない。
頼れるのは神様しかいない。
「神様、お腹いたい」
地面に向かって話しても反応はない。
「神様、助けて」
地面が盛り上がり大人の腕ほどのハサミが生えた顔が出てきた。
「なんだ」
「お腹いたい」
「ゴブリンばかり食べるからだ」
「助けて」
「毒はそう強くない。水をたくさん飲んでゴブリンを食うのをやめれば治る」
そう言うと神様は地面に戻った。
私は近くの川で水をたくさん飲んで寝た。
目が覚めると少しだけ痛みが治まっていた。
ゴブリン以外、あんまりいない。コボルトなんかは他の人が積極的に倒す。モンスター以外の食べ物は大人しか持ってない。
残るのは人しかない。でも、教会の人が人は食べちゃダメって言ってた。
悩んでいると私より少し大きい少女が木の近くまでやってきた。
「おーい、あんたスキル持ちだろう」
木を少し降りて話せる位置に行った。
「なに?」
「ヒヒッ、やせっぱちだな」
「なに?」
もう一度聞くと少女は地面につばを吐いた。
「ペッ、あたしはシート、あたしの言うことを聞いたらメシ食わせてやるよ」
「ゴブリン以外?」
「ゴブリンなんか食えねえだろバカ、モンスターじゃねえ普通のメシだよ」
「なにすればいい」
「あたしについてこい」
つばを吐いて歩き出したシートの後をつける。木でできたガタガタの家みたいなものが並ぶ場所まで歩くとシートはその中の一つを指さした。
「あの家の中のひげ面男をこらしめてこい」
「なんで?」
「あいつがクズだからに決まってんだろ。依頼人を強姦してそいつの男を殺したらしい。殺さなくていいからケガさせてこい」
「わかった」
食べ物が手に入るならいいか。
スキルの使い方はわかってる。死体相手なら触れば、生き物相手なら相手が私に怒ってるときに触れば触った場所の骨が抜ける。
家の中に忍び込むと男はいびきを立てて眠っていた。
どこがいいか悩んだけど追いかけられないように足の指にした。
靴を脱がすと爪が真っ黒でくさい。
「起きて」
「あっ、なんだガキ。勝手に入ってんじゃねえぞ」
「ばか」
「なんだと!!! テメ……い、痛……痛い」
足の小さい骨を抜くと痛みで男はうずくまった。
走って逃げた。
シートがいる場所まで戻って血まみれの骨を渡した。
「ケガさせてきた」
「よし、よくやった。ほら食え」
そういうとシートは巾着からパンと干し肉を出した。
教会で食べてたような普通の食べ物だ。
「また頼むからな」
「うん」
つばを吐いたシートと別れて神様のいる木の近くまで戻った。
そういえば神様に助けてもらった。
少し迷ったけど干し肉を少しちぎって神様のいる地面の上においた。
地面が盛り上がって神様が出てきた。
「なんだこれは」
「貢ぎもの。助けてもらった」
「いらない。お前が上で寝てると食べ物がよってくる」
「わかった」
神様がハサミで弾いた干し肉を拾ってパンと一緒に食べた。
それからしばらくはシートに言われて悪い人間をこらしめていた。
もっと欲しいと言ったらたくさん食べ物をもらえるようになったからゴブリンは食べなくてよくなった。
人間は弱いから簡単だった。
ある日、違う人間がやってきた。
「おはようございますボス。シート様の代わり来ました」
「誰?」
私より大きいけどシートよりは小さい少女が二人。しゃべった方は顔がソバカスまみれだ。
「私はシート様からカス、こっちは歯抜けと呼ばれています」
「おうも」
もう片方は歯がほとんどなかった。残った歯もガタガタだ。
「シートの代わりって?」
「『報いの聖女』であるシート様はいそがしいので私たちが代わりに任務をお伝えします」
「わかった」
その日はかなり城壁に近い場所で身なりのいい男を襲った。
いつもより干し肉をたくさんもらえた。
神様にお供えした。
「いらん」
「たくさんもらったから」
「ならあの人間たちにやれ」
「神様へのお供え」
「神ではない」
神様はハサミのような牙を不機嫌そうに鳴らした。
「これでも竜だ」
「竜ってモンスター?」
「モンスターではない」
「じゃあなに?」
「竜は竜だ」
そう言うと地面に潜った。
神様にあげる分の干し肉はカスと歯抜けにあげた。
「いいんですか!」
「神様があげろって」
「おうも」
二人は喜んで食べていた。歯抜けは水でふやかして食べるからおいしいかどうかは知らない。二人は仕事がない日でも私のところに来た。
食べ物がもらえると思ってるらしい。
「ボス、何かありませんか」
「ない」
「そこをなんとか」
「じゃあ、一匹でいるコボルトかオークを探して」
「わかりました!」
シートからの伝言がない日はモンスターを探した。
カスと歯抜けどっちがすごいのかわからないけど食べられるモンスターをすぐ見つけてきた。
カスはよくしゃべって、聞いてもないのに将来はモンスターに会わなくていい娼婦になりたいと言っていた。歯抜けはほとんどしゃべらないけど、食べるときだけニコニコ笑う。
孤児院を追い出されて三年ほど経った頃、新しい人間がやってきた。
銀色の鎧をまとった騎士と小綺麗な金と茶の髪の少女だ。
騎士は私のいる木をけり倒した。
「えっ、えっ、わあっ!!!」
ずっと寝床になっていた大木がミシミシと音を立てて倒れる。
あわてて着地した所を騎士に蹴り上げられた。
「ぉあ……うぇ……」
お腹の中身が千切れたみたいに痛い。口の中が酸っぱい味がする。
「ほお、まだ動けるか」
逃げないと殺される。
吐き気をこらえて神様の方に逃げた。助けて。
私を追う騎士が神様の上を通った。
大きなハサミが騎士を真っ二つにする……はずだった。
「ワームか」
両手で鋭利なハサミを捕らえた騎士はそれををへし折る。
緑の体液がまき散らされ神様がキシャアァと叫び、身をよじらせた。
一閃、手甲をはめた腕が振られ、神様の顔が地に落ちた。
それでも動く顔を騎士は地面に叩きつけ、踏みにじる。
神様は死んでしまった。
「あ……」
「姫様、捕獲しました」
呆然とする私はすぐに縄で縛られた。小綺麗な少女が私を見る。
「『骨抜き』がわらわと変わらぬ年とはな」
『骨抜き』、襲った相手が何度か言っていた。また別に人影が入ってきた。
教会の修道服、でも手袋をはめてベールが何重にもなっていて中が見えない。
青ざめた顔のシートを引っ立てている。しばらく見ない内に立派な服を着てきらきらした宝石をたくさん身に着けている。
「彼女が主犯のようです。聖女を騙った通り魔。通称『骨抜き様』、ロウナ帝国にはそれ相応の対応をしていただきます」
「コミカ様、申し訳ありません。これはどうしますか」
あたらしく現れた、たぶん女性に騎士が頭をたれる。
「違う!!! そいつよ。そいつがあたしたちに聖女を名乗れって言ったのよ」
シートが私を指さし、甲高い声で叫ぶ。
修道服、コミカは顔の前で指を一本立てた。
「静かに」
「黙ってたらあたしのせいにするでしょ! あたしは悪い奴を……」
コミカはシートが口に指を入れ、舌を千切った。
シートは声にならない悲鳴を上げて口から血を流す。
コミカは舌を服の中にしまい、私の方を向く。
「このスラムで育って下級とは言え貴族を倒すとは素晴らしいです。ステータスを見せてもらえますか」
「えっ……」
「強く念じてステータスオープンと言ってくださればいいです」
「う、うん……ステータスオープン」
白い半透明なものが現れた。黒いなにかがたくさん並んでる。
「素晴らしい。この年でこれほどとは」
「危険ですね。殺しますか」
「フフフ、とんでもない。彼女には多くの人々を救う資質があります。彼女を殺すのは自ら街の外壁を壊すよりずっと恐ろしい罪ですよ」
「ですが、聖女を侮辱し、教会に泥を塗ったのですよ」
騎士に言われ、コミカは考え込んだ。そして布きれを取り出すと私の顔をふいた。
髪の毛も頭が回るくらいゴシゴシふき取られた。
「なかなか愛らしい少女です。この子を聖女にしましょう」
「正気ですか!?」
「元は教会が面倒を見ていた孤児です。正しい信仰を取り戻せば問題ありません」
姫様と呼ばれた少女が私に近づいた。
「気が変わった。お前は強いわらわの友となれ」
「うん」
意味がわからないけど死にたくないから取りあえずうなずいた。
「ということだ面倒はわらわが見る」
「それは素敵ですね。では私は残りを捕まえてきます。スラムは潰すことになるでしょうから皇帝陛下に言っておいてください」
「かしこまりました。姫様、一人でも大丈夫ですか?」
「無理を言ってついてきたのはわらわだ。足は引っ張れん」
「そう言っていただけるとありがたいです」
コミカは神様の死体から何枚か鱗をむしると騎士を連れて森から出ていった。
姫様は不機嫌そうな顔をしていた。
「私、どうすればいいの」
「この恥知らずが!」
思いっきり頬を叩かれた。
「いたい!」
「さっき人の言いなりになって死にかけた所だろうが、自分で考えろ」
「なにを考えたらいいの」
また、叩かれた。
「お前のようなスキルだけの愚か者を見るとイライラする。なぜあのような怪しい女の言葉に従った」
「ご飯くれるって言うから……」
「そのレベルか……やつの言葉は理にかなっていなかった。そのようなものに従った先にあるのは破滅だけだ」
そもそもシートの話なんか聞いてない。
「リってなに」
「これから教える。一応はわらわの友になるのだ。まともな知性を与えてやる。代わりにわらわにスキルの取り方を教えろ」
「うん……」
知らないけど取りあえずうなずいといた。
私にまともなものの考え方を教えてくれたのはこの姫、プーリンだった。
私が襲っていたのは金貸しや素行の悪い貴族でシートは最初、復讐屋のようなことをしていたらしい。なぜ自分のことを聖女と呼びだしたかはわからない。
シートのことを嫌っていたカスと歯抜け、それにコミカが事実以上に私に有利な証言をしてくれたからおとがめなしで済んだ。
――……
――――――
――――――――
あいまいになっていく夢は崩れ、薄暗い部屋で目覚めた。
久しぶりに夢を見た。リンはまだ眠っている。
今のプーリンの言動は全く理にかなっていない。
一年に一度しか使えない『笛』はとっておくべきだろう。
リンに『笛』を使わせたところで千レベルほどの人間が一人できるだけだ。
リンのスキルはすごいけどステータスは戦闘向きではない。
実戦経験はないし、性格も優しすぎる。多少武器が使えても戦力にはならない。
対して城の全員を戦闘不能にしたアルリスは最低でも皇帝、人間のレベル六千や副騎士団長、狼獣人のレベル三千は超えていると考えるべきだ。
それに共和国には他にも強者がいることを考えれば戦闘はリスクが高すぎる。
『第一コミカ書』のワームのページを開く。昔、神様と呼んでいた竜の鱗が貼ってある。
「…………」
ムダ死にだった。
やはり、リンを戦わしてはいけない。でも、レベルは高い方が生き残る確率が上がる。
レベルだけもらって戦わない。学院にも入らない方がいいだろう。
プーリンの穴だらけの契約のすきをつく方法はすぐに思いついた。
「ルーフィア頼みがある」
「はいセルカ、なんでしょうか」
……リンとヒノワは私を軽蔑するだろうか。
生きてさえいれば許しを請うことはできる。それに許してもらえないとしてもリンが死ぬよりはいい。




