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???

                  ‐???‐


 目覚めると頭の中が空っぽだった。

 ここはどこ、今はいつ、どうして、なにしてた、そもそも僕は誰。

 ゆっくり現実を消化する。

 石作りの部屋、狭いけど敷物やインテリアは良い物だ。

 窓は人一人通れそうな穴が開いている。寒い、でも日は出てる。朝だ。

 細く白い腕、微かにふくらんだ胸。肌寒い……服ないな。


「ヨシト、朝食ができたそうです」


 少しハスキーな可愛い声、ドアの外に人がいる。

 ヨシトって僕のことか? わからない、毛布で身体をつつんでから話しかける。


「すいません、なにもわかりません」


 すごい勢いで扉が開いた。

 小柄な女の子。金と青灰の左右色の違う目が印象的な整った顔、短めの白髪から猫のような耳、動きやすくアレンジされた修道服から尻尾が生えてる。


「猫?」

「誰!?」


 少女の表情は薄いが代わりに尻尾がピンと立てられぼわっと毛が立つ。


「それがわからなくて」

「ヨシトはどこ」


 少女が心配そうに聞く。僕はヨシトさんではなかったようだ。男の名前っぽいもんな。

 

「ヨシトさんって誰ですか」

「……」


 少女が考え込む。


「……私はセルカ・ミストマフィン、冒険者です。知ってますか」

「いえ」


 なにもわからない。寝起きのあくびを手でおさえた。


「その指輪は!!!」

「ふわ……えっ、なにこれ」


 銀色の指輪が薬指にはまっていた。

 セルカという少女が僕の手をとり指輪を外そうとする。でもゆるそうに見える指輪が外れず、彼女は諦めた。


「ステータス画面を見せてもらえますか」

「はぁ……」


 なんで突然ゲームの話……一応部屋を見渡すがそれらしきものはない。


「なんのことですか」   

「ステータスオープンと念じてください」

「はい……」


 セルカちゃんは真面目に言っているようなので念じる。ステータスオープン! なんてね……


 

【吉宮善人(人間)】 レベル1


【職業】不可


【HP】 8

【MP】 1

【筋力】3

【攻撃力】3

【防御力】2

【器用さ】17 

【すばやさ】7

 

【スキル】不可 



 半透明のウィンドウが出た。


「うわっ、本当に出ました。どうするんですかこれ」

「力を込めて私にも見せてください」


 力を込める? どうやって? とりあえず指先から力を送るイメージで触ってみた。

 少し色が濃くなった。

 セルカちゃんの目が見開かれる。よく見ると瞳孔が縦割れ、ますます猫っぽい。


「あなたがヨシト……」

「そうなんですか」


 セルカちゃんが恐る恐る手を伸ばし、僕の顔に触れて不安そうに僕を見る。


「少し似てる。目元とか」

「はあ……」

「ちょっと我慢してください」

「えっ……なにを……」


 そう言うとセルカちゃんが身を乗り出して僕の手をなでる。身をよじって逃げるが頭や首、身体を順番に小さな手でなでられる。


「そこは……だめ」

「少しだから」


 すばやい動きでとらえられ、腹や背中、脚までまんべんなくなでられた。

 身体がぞわぞわする。さすがに止めないと……


「や、やめて……」

「わかった。あなたはたぶんこの辺りの人じゃない」

「なんでそんなことわかるんですか」

「骨格」


 本気で言ってるんだろうか。

 セルカちゃんは確かめるように手を見つめている。

 

「あなたがヨシトだと思います」

「また骨格ですか」

「うん、ヨシトも変わった骨格。少しだけど似てます」


 冒険者って骨の専門家とかなんだろうか。ゲームとかのイメージと違う。

 とりあえず、僕が吉宮善人さんのようだ。でも、ヨシトは男の名前だと思う


「鏡とかない」

「少し待ってください」


 セルカちゃんは棚の中から四角い鏡を出してくれた。

 ブサイクじゃないといいな。祈りながら鏡を見る。

 セルカちゃんと同じくらいの年の少女だ。

 さらさらで長いプラチナブロンドの髪、黄みを含んだ淡い赤、乙女色の瞳、透けるほどに白い肌の繊細な顔立ち。けっこう美人だ。


「ねえ、セルカちゃん」

「セルカと呼んでください」


 セルカちゃんの耳が悲しそうにうなだれる。


「じゃあ、敬語もなしで。年、同じくらいでしょ」

「わかりま……、わかった」

「よろしくセルカ」

「うん、ヨシトが思い出すようがんばる」

「僕も頑張るよ」


 決意を表明したもののなにをすればいいのか。


「えっと、僕ってどんな人」

「優しくて格好よかった」

「ありがとう、他には」

「見た目は二十ちょっとくらいの男の人、黒髪黒目で優しそうな顔」

「はっ……?」


 さすがに人違いだ。


「僕……そう見える」

「外見よりステータス画面を信じるべき」

「ええ、なんで」

「身体は親から、ステータス画面は神様からいただいたもの。迷ったときはステータスを信じなさいと教会の人が言ってた」


 セルカは思い出すように言った。

 教会と言われると下手に反論しづらい。


「性格とか話し方は」

「同じ」


 セルカはまったく疑ってないようだ。

 鏡には深窓の令嬢といった感じの顔を不安そうに曇らせた僕が映っている。

 本当にこの僕が二十過ぎのお兄さんだったのか……

 それに、なんで中学生くらいのセルカと二十過ぎの男の人が一緒に暮らしてるんだ。


「僕たちどんな関係だったの」

「ヨシトは私の命の恩人」

「命の恩人って……どういこと」

「奴隷商で死にかけていたときヨシトが助けてくれたの」


 僕の記憶はあいまいだが奴隷は違法な気がする。

 セルカが僕の手にそっと手を重ねた。手は普通の女の子だ、少しだけ混乱がやわらいだ。


「えっと、大丈夫……だった」

「二年くらいなにも食べられなくて大変だった。あと、怖がられて嫌だった」

「えっと、二年食べなくても大丈夫なの」

「動かなければ」

「セルカが怖がられたの、逆じゃなくて」

「うん」


 またわからなくなってきた。僕のお腹がくぅと鳴った。お腹減った。

 セルカの手が離れる。


「朝食、食べに行こ」

「うん、でも服が」

「ちょっととってくる」


 セルカが走って出て行った。

 記憶喪失というやつなのだろうか、鏡に映る少女ぼくとセルカの言う善人さんはちっとも重ならない。


「一応女用を持ってきました」

「うわっ……あ、ありがとう」

 

 気づいたらセルカが横にいた。

 絹のワンピース型の服とノースリーブで緑色の上着らしきものを渡された。セルカの改造修道服もそうだけど見覚えのない服だ。

 毛布の中に引き込んで急いで身に着け、立ち上がった。


「きれい」

「ええっと、男として喜んでいいのかな……」

「ヨシトは見た目は気にしないと言っていた」

「そうなんだ」


 セルカに連れられ歩く、大理石の床、アーチ状の天井、小さめの窓にはガラスの代わりに水晶らしきものがはめられている。

 お城みたいだ。


「セルカ、ここどこ」

「Sランク冒険者用の宿泊施設」


 セルカが冒険者って言ってた気がする。

 

「Sランク冒険者ってセルカのこと」

「うん、冒険者はA,B,C,D,E,Fで分けられてAが一番上、それより強い冒険者はみんなSランク。覚えてる?」

「ごめん覚えてない」

「この世界にはモンスターっていう危ない生き物がいて、それを倒すのが冒険者」

「セルカ強いんだね」

「うん」


 セルカの尻尾がピンと嬉しそうに立った。

 それにしてもモンスターか、いよいよゲームみたいな場所だ。


「僕も冒険者だったの」

「ううん、別の世界から来たって言ってた。仕事はしてなかった」


 ヒモだ……僕、ヒモだったのか。しかも別の世界から来たって怪しくないか。

 そうこう言っている内にセルカが扉の一つの前で立ち止まった。

 

「ここが食堂。色々聞かれると思うけど大丈夫?」


 僕は少しだけ考えてから頷いた。

誤字脱字や感想をいただけるとありがたいです。

今後面白い話があればブックマーク、評価もお願いします。

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