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三章 黒

 それから絵描きは妖精の影をひたすら描きました。日が登っても、日が沈んでも、食事もとらずに描き続けました。けれどもやはり、どうしても納得のいく絵は描けないのでした。

「ああ!だめだ!」

絵描きはそう言うと、描いていた絵にナイフを突き立てました。どんなに試行錯誤を重ねても、目の前の影には敵わないのです。こうして、何日も過ぎ去っていきました。妖精は早く自由に飛び回りたかったのですが、絵描きがあまりにかわいそうなので、何も言わずにじっと我慢してろうそくのそばにいました。


 何日が過ぎたのでしょうか。ろうそくもだいぶ短くなったある日、絵描きはようやく納得できる影の絵を描き上げました。目の前のキャンバスを数歩離れて眺め、絵描きは数回頷きました。

「あとは、ここに黒をくわえれば、素晴らしい絵になる」

そう言いながら絵描きは黒い絵の具を探しました。けれども黒い絵の具は、ちょうどなくなっていました。何度も絵を描いたので、ついに黒の絵の具が底をついてしまったのです。絵描きは空になったチューブを床に叩きつけて、外へ飛び出しました。丘の下の街の文具店に、絵の具を買いに走ったのです。


 夕暮れ時に絵描きは文具店につきました。そこでは店主がそろそろ店を閉めようかと戸締りをしていました。

「頼む!黒い絵の具をくれ!」

突然背中越しにそう言われて店主はとても驚きましたが、その店主はとても優しかったので文句ひとつ言わずに絵描きを店の中に入れてくれました。そして黒い絵の具を絵描きに売ってやったのです。絵描きはそれをとても大事そうに握りしめて、再び丘の上の自分の家へと向かいました。けれども帰り道でふと顔を上げた時、絵描きはその手に持っていた絵の具を落としてしまいました。


 丘のてっぺんが、赤々と燃えているのです。絵描きは息をするのも忘れて駆けだしました。絵は?絵は?私の描いた絵は?あの影は?私が描いたあの影の絵は?絵描きは頭の中で何度もそう不安になりながら、走りました。ようやく家にたどり着いた絵描きでしたが、もはや中に入れる状態ではありませんでした。絵描きがその場で立ち尽くしていると、丘の下から消防隊がやって来ました。絵描きの家が燃えていると知った街の誰かが、消防隊を呼んでくれたのです。


 明け方、ようやく火が消し止められました。けれどももうそこに家はありませんでした。家どころではありません。絵を描くための道具も、父と母、祖父や祖母、ご先祖様が描いてきた絵も、すべて燃えてしまったのです。絵描きは震える足を何とか動かしながら瓦礫の中を進みました。そして一枚のキャンバスが、瓦礫の中に埋もれているのを見つけました。影の絵です。絵描きはそれを持ち上げましたが、もはや絵は焼け焦げ、すすだらけで、キャンバス一面が真っ黒になっていました。絵描きはそれを見て思いました。ああ、あの時素直にろうそくの火を消していれば。いや。どうだろうか。


 人だかりの中で誰かが言います。

「どうして、ろうそくの火を消さずに出かけたのかしらね。ああ、かわいそうに」


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