最終章第7話 ひれ伏せ
私とフィンブルは激しい戦いを木の陰から見終え、仲間がいる場所に戻る。
「フィンブル。ああいうことはよくあるのか?」
「そうですね。つらら様は戦闘はしないので、特に考える必要はないと思われますが?」
「でもな、そういうことを知っておいた方が、知略の足しにもなるだろ」
フィンブルはハッという顔をし、質問に答えてくれた。
「戦いというのは日常茶飯事です。この世界の誰もが領土拡大、世界統一、世界最強、などなど、多くのことを求めて戦っています。ですが、未だに世界を統一する者が現れません。ですがもうすぐ現れるのです。きっと現れます」
フィンブルは私を見てそう言う。
フィンブルは私が世界を統一してくれるという期待を表情に存分に表している。
私は多くの者の期待を背負っているのだと感じ、初めてプレッシャーというものを真摯に感じる。
「フィンブル。絶対にさ、一緒に世界を変えようぜ」
「はい。つらら様」
フィンブルは声が張り上がりながらもそう言った。やはりフィンブルは私に世界を変えてほしいのだろう。
この戦いの世を、私に終わらせてほしいのだろう、
私は決めた。
世界から戦いをなくし、私が世界を治めると。
私は仲間たちのもとへ戻り、静かに休息をとる。
私が起きたのは、丁度太陽が真上にあるときだ。私は横に倒していた体を起こし、立ち上がる。
「つらら様。大変です」
フィンブルは焦った表情で私に状況を説明する。
「実は……火蟻の大群が……この剣山一帯を包囲しています」
私はふもとがある方向を見ると、煙があつらこちらと上がっている。どうやら火蟻に囲まれているのは本当らしい。
だが標的が私たちなわけがない。私たちはここに来たばかりなのだから。
「フィンブル。彼らは何を狙っている?」
「この剣山にいる……全種族」
「は!?」
私はフィンブルの言葉が理解できなかった。いや、理解しようにも脳が追い付かない。
「フィンブル。本当にあいつらの狙いは……この剣山にいる者全てなのか?」
私は再度確認する。
だがフィンブルはうなずくだけ。
「つらら様。速く頂上に向かいましょう。頂上に行けば……世界をかえられるほどの聖剣が……ありますから……」
だがそんな話をしている間にも、火蟻はこの場所に攻めてきた。
「殺せ。一匹たりとも逃がすな」
「クレイモア王の期待に応えるのだ」
二匹の火蟻が、拳に炎をまとって背を向けているフィンブルに殴りかかろうとする。
「邪魔だ」
フィンブルが腕を横に振っただけで、二匹の火蟻は凍りつく。
フィンブルだけじゃない。この戦場全体で火と氷がぶつかり合っている。
「つらら様。行ってください」
フィンブルは私に強くそう言った。
でも……約束したじゃんか。一緒に世界を変えるって。なのに……ここでお別れなんて嫌だよ。
私は涙を流れる目を両手で押さえる。
泣くな、私。私は世界の革命者になるのだから、こんなところで死んでいられるか。
だから立て。そして走れ。頂上に。
「つらら様。あなたが世界を変えることを、心から望んでいます」
フィンブルは微笑んだ。
私は走った。
頂上まで、誰よりも速く、走る、走る、走る、走る。
でも、
私を囲むように、火蟻が周囲に現れる。
今度こそ終わった。フィンブルの死を無駄にしてしまう私では、主人公のような革命者になることなんて出来やしない。
せっかく良い友ができたのに。
ーーねえ、私は弱者なの?
「嫌だ」
そう叫ぶと、巨大な氷塊が私の頭上に現れた。その巨大な氷塊を私は避けず、ただ死を選んだ。
周囲の火蟻も走ってはいるが、この距離からでは逃れられないだろう。
私は死という恐怖を刻一刻と味わおうとしている。
手が震え、心臓に稲妻のような鼓動が流れる。
ーー主人公って……想像以上に辛いんだね。




