最終章第2話 ごめんねも言わずに
侍蟻が必死に護るお姫様正体。それは……
「幸華。やっぱお前がお姫様だったんだな。予想はしてたけど、まさか本当にお前だったとは……」
お姫様とは蟻村の妹であった。黒い長髪に懐かしの顔。
思っていた以上に世界は悲しく、その度に心は砕かれていく。
(ああ。生きるなんてこと、どうしようもなくくだらない。だってそうだろ。求めていたものは、手に入れてもすぐに遠のいていくのだから)
「貴様らは外の護衛をしておれ」
蟻村をさっきまで見張って侍蟻はすぐに外に出ていった。
そして二人きりの空間に。
「お兄ちゃん。久しぶりだね」
(ああ。こんな風には会いたくなかったよ)
「お兄ちゃんが死んでから、私はずっと寂しかったんだ。だからお兄ちゃんを追いかけて虫の世界まで来たんだ」
(どうせなら生まれ変わりたかった)
「お兄ちゃんをいじめてた学会の連中はね、侍蟻が皆殺しにしたから大丈夫」
(ああ。僕の研究結果を奪って、僕を学会から追い出した奴らか。もうどうでもよくなったけどな)
「お兄ちゃん。私ね、龍を殺したんだよ。私の指示で、龍を殺したの」
(分かっていた。お前だけが知っていたんだ。龍の居場所を。だからその時から気付いてた。お前がこの世界に来ていることくらい)
「お兄ちゃん。もうすぐこの世界から虫を一匹残らず消し去ることが出来る。だからそれまでここで待ってて」
幸華は優しく幸太郎に言う。でも幸太郎は決めていた。
「すまん。幸華。僕にはこの世界で殺したくない仲間が出来たんだ。それに創りたくなったんだよ。虫が争わず、平和に暮らせる世界を創るって。だから僕は、幸華に逆らうよ」
兄と妹はいつだって分かち合えるわけでは無い。だから幸太郎は自分の思いを伝えた。
だけど幸華にはそんなことは分からない。
いつも分かりあってると思っている。
「そうなんだ。妹に逆らうお兄ちゃんは、ここで大人しくしてて」
幸華は今まで兄に見せたことの無いような怖い顔をし、小さく手を叩いた。
その合図が鳴った時、幸太郎は背後から来た何者かに、首を刀の鞘で叩かれ、気絶した。
「幸……華。お前……」
幸太郎は気絶する瞬間まで、薄目で幸華を睨む。
「お兄ちゃんが悪いんだよ。私の言うことを聞いてくれないお兄ちゃんが」
幸華は既に誰にも止められなくなった。




