第68話 この唄
私は今、何者であるのだろうか?
私は今、誰を思い出して心を温めているのだろうか?
私は…これから裏切り者になるというのに…彼は優しくしてくれる。彼は私を信じてくれている。
だから期待に答えたい。だけど…
ああ。なぜ私はこの道を進まなければならないのだろうか?私には…もっと別の道があるのだろうと思っていたのに。
もし私たちを引き裂くのがあの月なら…私はあの月を壊したい。だけどあの月が壊れれば、私は…私という偽物は…ただの塵となってしまう。
もしやり直せるなら…私は…剣蟻になりたい。
だけど…世界は私を見捨てて先へ進もうとしてる。
ああ。きっと彼は更なる渦に巻き込まれていくだろう。この先に来る変えられない運命に抗い続けるだろう。
私が惚れた彼は…きっと…きっと……かっこいい姿で、私を倒してくれるに違いない。
だって彼は…私の……
ああ。もうその言葉も出てこない。何でだろうな。所詮私はあの方に操られるだけの存在だから。
蟻村幸太郎。君は…私を憎むことになるだろう。
だけど…あなたは自分を信じて良い。
だから…私の命をあなたにあげる。
もう…誰も私を止められないのだから…。
ごめんね。私の愛しき蟻村幸太郎。
ーー椿の花は枯れ、やがて彼のもとには一枚の葉っぱだけが届いたという。




