第5話 人の世の雨と虫の世の雨
僕達は一旦兵を引かせ、作業を一時停止した。
「蟻村さん…」
(天気を考慮してなかった俺が悪い。だが天気はさっきまで晴れだった。確か驟雨の特徴と言えば…)
「そうだ!」
「蟻村さん。何か思い付いたのですね」
「ああ。この雨はすぐ止む」
「なぜ言いきれるんだ? 蟻村」
護衛はイライラしながら聞いてきた。焦っているのだろう。
「この雨はな、驟雨と言って、急に降って急に止む。そんな掴み所の無いそんな雨だ。だからこの雨はすぐに止む。だが…止まない雨もある」
ゴロゴロ
雷の音が激しくなる中、雨が激しく降りつける。
「止みそうに、ないな」
(詰んだ。ここに来て。ここまで来て。詰んだ)
「しばらく考え出せてくれ」
そう言って僕は一人で空を眺める。
(自分でも思っちまった。この雨は…止まない。これが敗北の味か。とても不味い。食えたもんじゃない)
「あのー、蟻村さん」
「なんだ。女王さんか。何のようだ?」
「諦め…ませんよね?」
(そうか。きっと女王は僕が諦めると思ったんだ。実際そうなんだが…。)
「蟻村さん?」
(またあの頃と同じく、全てを失って負けるのだろうか?きっとそうなのだろう。届きそうだったのに、どんどん勝利が遠くに離れて行く。どこにいくんだ?)
「蟻村さん」
女王は僕のほっぺを思いっきり叩いた。
「女王…さん!?」
「私らの命、あんたに預けたんだ。だったら…こんな雨なんか吹き飛ばして、とっとと敵を倒さんかい」
こんな時一番勇気をくれるのは、まっすぐに僕を見てくれる女王さんの言葉だ。
(本当に勇気づけられたよ)
「ねえ女王。もしこの戦いに勝てたら、俺と結婚してよ」
「全く。だったら勝ってみせろ。私らに見せてくれ。勝者の景色を」
(諦めるなんてしないさ。僕が君に勝利を見せるまでは。まだ負けられない)
「ねえ、女王さん。今から言う事、頼める?」
「ああ、もちろん」