第10話 剣蟻の王となれ
僕たちは火蟻との戦いを終え、巣に戻って眠っていた。僕は眠れず、巣から出て夜の月を見ていた。
「綺麗だな」
「本当にそうだな」
急に話しかけてきたのは女王さんだ。
「女王さんも眠れないんですか?」
「いや。私は蟻村くんが地上に出るのが見えたから」
僕は蟻になって初めて誰かの幸せを感じられた。きっと女王さんはプレッシャーに耐えられなくなっていたんだろう。
(これからは僕が指揮官として頑張っていかないと)
「女王さん。もう大丈夫です。これからは私も共に考え、戦います。だから責任を一人で負う必要はありません」
女王さんは少し微笑んだ後、立ち上がり僕に向かってこう言った。
「蟻村くん。私は君と結婚したい。良い…かな?」
剣蟻の女王は一人だけ王を選び、その者と結婚するという話が存在する。そして王になった者は命を懸けて女王を護る。そして今、僕は剣蟻の王となる。
「いいでしょう。私があなたの唯一無二の王となりましょう」
僕は膝をつけ、女王の手にキスをした。誓いのキスを。そして僕は女王と共に剣蟻の巣に戻った。
「では明日、即位の儀式を行います」
「はい。とても楽しみです」
そう言った僕は自分の部屋に戻る。
(明日から王になるのか。楽しみだな)
僕は鼻唄を唄いながら、僕だけの部屋でコロコロと転がった。そしていつの間にかぐっすりと眠った。
そして朝を迎える。
「蟻村さん。もうすぐ式が始まりますよ」
女王の声が僕の部屋に響く。
「うっ。うーーん」
僕は眠たかったので、うなされているように答えた。
「蟻村さん。まだ寝てるんですか。もうみんな集まってるので急いでください。さもないと王の権利を剥奪しますよ」
僕は王の権利をとられたくなかったので、布団から飛び上がり、急いで女王のもとに行った。
「できるなら最初からやりなさい」
「はい」
僕は女王さんに叱られた。だが不思議と悲しくなかった。
「じゃあ急いでください。着替えたら式場にいきますよ」
僕は服がいっぱいある部屋に案内され、女王さんの選んだ服に着替えさせられた。その服は結婚式で着るような紳士のような服だった。
(じゃあ女王さんの服は…)
僕はゆっくりと後ろを見る。だが女王さんに気づかれた。
「着替えてるとこ見ないで」
女王さんに恥ずかしそうに言われた。僕はすぐに目をそらし、着替え終わるのを待つ。
「よし。着替え終わったから行こ」
僕は女王さんの服装を見る。
(やはり結婚式の服装だ。それにしてもウエディングドレスが似合ってるな。かわいい)
僕は女王さんと腕を組み、光沢のある木で創られた扉を開け、赤い布がひかれた道を歩いた。きっと山に捨てられた物だけでこんな場所を創ったんだ。剣蟻は凄いな。
この日、僕は剣蟻の王となった。




