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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢のような一夜

作者: H∧rulu

薄暗い団地。

緊急車両があちらこちらに停まっており、警官が慌ただしく駆け回っている。赤色灯が臼闇を周期的に赤く染め、ものものしさと恐怖心を増幅させる。


私はおそらく家に帰ろうとしていたのだと思う。そんな様子を目にして「なにかあったのだろうか?」程度に思いながら、街灯に照らされても尚暗い夜道を一人で歩いていた。


後ろから低いエンジン音が聞こえ振り返る。すると、大量に停まっていた緊急車両の1台おぼしきものがゆっくりと近づいて横に並んだ。


「お兄さん、何してるの? これから帰り? さっき、このあたりでナイフを持った不審者が出てね……。危ないから早く家に帰りなさい」と並走しながら窓越しに警官が声を掛けてきたので、

「そうですか、分かりました」と返事をした。


その返事を聞いて、その車が私から離れていくのを後ろから目で追いながら「物騒な世の中になったもんだ」と心の中で愚痴をこぼし、気持ち早足にした。


先に見慣れた角が見えた。そこを曲がれば家につくので心の何処かで安心する。しかし、その角を曲がったところで体が先に進むことを拒否してしまった。その足元にあったのは真っ赤な血に染まった死体だったからである。


初めてそれを見たことで体はすっかり固まってしまい、声すら出なかった。ただ、眼前に死体が転がっていて、その事に対する驚きと恐怖で身動きがとれないという状況を体が動かない間、頭で理解しようとするしかなかった。そして、太い悲鳴が聞こえ呪縛から解放されたように体の硬直は解けて、惹き付けられるように声のした方へと向かった。


最初に目に入ったのは、運転席と助手席のドアが開けっぱなしになっているパトカーの姿だ。これがハリウッド映画ならさして不審に思いはしなかったろう。が、あまりにも不自然すぎた。駆け寄るとハンドルとドア、そしてボンネットの部分が所々鈍く光っている。瞬時にこれは血痕だと理解した。


1つ先の電柱の下からうめき声がきこえたので、恐る恐る近づいてみると先程の警官が地べたにうずくまっていた。「大丈夫ですか?」と声を掛けるとその警官は面をあげて「耳が……」と苦しそうに呟いた。耳がどうしたのかと街灯のもとへ連れていくとそこにあるはずのものが無かった。耳を削ぎ落とされれていたのだ。


呆然としていると深い闇の中でから不意に小さな笑い声が聞こえたように感じた。街灯に照らされた向こう側になにかいる。直感で最悪の状況にあることを悟った。地べたにうずくまる警官に目を落としたとき、私のすぐ真横でゴム底のスニーカーとアスファルトが擦れる音が聞こえた。顔をあげるとフードを被った男が両手に刃渡り30cmはある巨大な刃物を持って、こちらを顔に笑みを浮かべながら見下ろしていた。


咄嗟にその場を全力で離れる。自分の足音、呼吸音の裏側に男の断末魔と生々しい音が混じっているのが分かった。「殺される」という感覚をこのときほどはっきりと感じたことはない。込み上げてくる罪悪感と足を進めるごとに大きくなっていく恐怖心に耐えながら自分が何とか助かる方法を必死に考えた。


あいつが追いかけてこれない場所、誰かと連絡がとれる場所……。そして、気付いたときには団地のアパートの一室に備え付けられたインターホンを連打していた。

「はーい」という男性の声と共に鍵のかかったドアが開いた。間髪いれず、無理やりドアをこじ開けて部屋に転がり込む。男性は迷惑そうに「何するんですか?」と声をあらげた。当然と言えば当然の反応だ。



かくかくしかじかでと説明はしたものの混乱と焦りで上手く相手には伝わらなかった、少なくとも私にはそう見えた。しかし、ただ事ではないという空気は伝わったようですぐに警察に連絡してくれることになった。なんとか助かったと安堵し、携帯を耳に当ててコール音が途切れるのを待っている男性に「ありがとうございます」と伝える。


相手が電話にでたようで男性が話始めた瞬間、部屋が真っ暗になった。なんでこのタイミングでと疑問に思った刹那、窓ガラスが割れる音がし、見覚えのある影がこちらにどんどん近づいてくる。巨大な刃は月明かりを反射し、一層美しく輝く。あいつが私の上に馬乗りになって、それを頭上高く上げ、私は抵抗することもできず、運命を受け入れた。


激痛を虚構の世界で感じた次の瞬間、目が覚めた。心臓が胸から飛び出てしまいそうなくらい鼓動は早く、全身から汗が吹き出していた。不快さを洗い流したくてシャワーを浴びながら、部屋に戻ったら記録に残そうと決めた。それがこの話である。




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