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七百八話

 俺はソラへと話を振った。

 封印と言えばソラ。ソラと言えば封印と言っても良いからな。


「封印は難しいかな……あの化身に見られているってことを考えるとね」


 それもそうだ。あのウォルに似た瞳で見られていると考えると下手な真似が出来ない。……と言うよりも出来ない。


 しかし、しかしだ。


 此処を封印するというのは、中のモノが外に出ない様にと言うよりも、外からの侵入が無い様にする為だ。そうである以上、やらない訳にはいかないのだけども。


「ダメだ。あの視線から目を逸らす事が出来ないな」

「くぅん……って感じで、どうする? って言われてるよ」

「〝お持ち帰りは?〟」


 いやいやサキさん。流石にお持ち帰りは不味いだろう。


 そもそもの話。何故ここへ〝玉〟を封印したかと言う事を考えて欲しい。

 〝玉〟は〝神格〟とか〝龍の力〟とか、そう言ったものを凝縮させているものだ。そして、それはそもそもウォルの中に有った物で、人が使いこなすことなど出来ない力だった。

 だからこそ、制御できる道具が無くなった為に分離させたんだ。


「あれは純粋な神の力と言っても良い物だ。である以上、人の近くに置いておくのは不味い。そう結論付けて此処へ封印したんだけどな」

「クォン」


 ウォルが「そうだ」と言う様に吠えた。

 俺の言葉とウォルの吠えを聞いて、美咲さんとサキさんががっかりしている。いや、分からなくも無いんだぞ? あれだけ可愛い姿をしているのなら、連れて帰りたいと思うのは当然だと思う。


 ただそれは、人に対してどのような影響を与えるのか分かった物じゃない。


 この〝玉〟の化身は、祈りを受けて社の中を大改造した。そう、既にあの〝玉〟は周囲へ影響を与えているんだ。

 そして今、何も問題が無いのは、〝玉〟の周りに生き物が居なかったからだろう。……もし生き物が居たらと思うとな。


「ちょっと強くなるとかその程度なら良いけどな。魔王の行動の所為で、世界中に魔力的な影響が出てモンスターが強くなっただろう? そう考えると、〝神の力〟とも言えるモノが自由に動ける状況になるとなぁ」

「流石に不味いよね。何か定期的に力を消費させることが出来たら良いけど」


 自由にさせるのも不味いけど、溜め込むのも不味いのでは? と言う案がソラの口から出た。

 その言葉を聞いて、俺はその考えに至っていなかった為に「あ、やばい」と思ってしまった。うん、溜め込む事は確かに不味いんだよ。

 少しずつでも良いから放出しないと、火山の爆発みたいになってしまう。


 でも一体どうしたら良いのだろうか? 純粋な祈りを浴びて力をつける〝玉〟だ。そして、祈りだけならば、結界などスルーして中へと入る事が出来る。

 それならその逆もまた出来るのではないだろうか? ただ、この〝玉〟がどういったものを外へ出すのかが問題でもあるが。


 うーん、此処は延々と悩んでいても仕方が無い物はある。ならばやる事は一つと言っても良いだろう。


「えっと〝玉の化身〟で良いのかな。この後どうしたい?」

「……グルァ!」


 わぉ……予想に反して、その鳴き声がドラゴンだった。もっとこう、ウォルに似ているから子犬ベースかと思ったのだが……。


 と、それは今は良いとして。


 叫んだ内容。ソレを聞き取る事が俺達には出来なかった。

 残念な事に、俺達には〝玉の化身〟が叫んだそのまま聞こえただけだ。これがウォルであれば、なんとなく言いたい事が分かったりするのだけど。

 そして、頼みの綱とも言えるウォルだが……。


「くぉん……」


 何とも悲しげに鳴きながら、ウォルはその首を横へと振った。


 あぁ、どうやら俺達には〝玉の化身〟の言葉を理解する事が出来ないらしい。そして〝玉の化身〟はモンスターでも無いので、双葉も通訳は難しいと思われる。

 さて、これは一体どうしたら良いだろうか。このままだと俺達には〝玉の化身〟との意思疎通が出来ず、なんの結論も出せずただただ封印せねばならないだろう。


「折角こうして目の当たりにする事が出来たのにな……出来れば何とかして方針を決めたい処だけど」

「拝んでいたら大丈夫とかそう言うのは無いかな?」

「……日本の神とはまた違うだろうからそれはなんとも」


 日本の神様は、基本的には神魔混合型と言うか、両属性の反転型とでも言えば良いか……とにかく「祟らないでください」とか「今年も平和に過ごせました、ありがとうございます」と言った感じで祀るもの。

 決してお願いをするような存在ではない。


 しかしこの〝玉の化身〟は、元が異世界の精霊である〝ウォル〟がベースで、そのウォルをその位置にまで強化したのは〝龍の魔石〟だ。

 そこに日本の〝に〟の字も関わって無いんだよな。……ってか、力のベースとなった〝龍の魔石〟も、元が何なのか実際は分かっていないし。


 しかし、そんな〝玉の化身〟相手に、皆何らかのお祈りをしているんだよなぁ。

 例えば〝精霊の加護が欲しい〟とか〝モンスターの脅威から救ってほしい〟とか。そして、その事に対して現状は何かのアクションが有ったかどうかは……謎である。

 いや、もし怒り狂って行動しているのだとしたら、ソラの作った結界は破壊されていただろうし、今もこうしてドンと構えて……いや、ちょこんとお座りなどしていないだろう。


「あぁ、此処は基本に戻るのがベストか。〝化身〟さん、肯定なら首を縦に、否定なら首を横に振って貰っても良いでしょうか?」

「グルァ」


 俺の言葉を聞いた〝化身〟は、吠えながらその首を縦に振った。

 おぉ! どうやら俺達の言葉自体は理解している様だ。であれば、多少の意思疎通が出来るだろう。


 さてと、そしたらまず聞くべきはなんだろうか? そうだなぁ……まずは此処をどうするべきかだろうな。


「まず、この社を再封印しても良いでしょうか?」

「……」


 あれ? 質問を間違えたのだろうか。それとも聞こえていなかったとか? 質問に対して〝化身〟は首を縦にも横にも振らなかったんだが。


「質問を間違えた?」

「いや……解りやすい質問だったとは思うけど」

「〝肯定でも否定でも無いって事とか?〟」

「あぁ! ソレは確かにありそうだよね」


 えぇぇ、何その中途半端な返事は。

 それって俺達の好きにして良いって事か? それとも俺達が何をやっても何の意味も無いとでも言っているのだろうか。

 ヤバイ……〝化身〟が何を言いたいのかまるで分らない。

 とは言え、会話を進めないというのは不味いだろう。と言う事で、此処は一旦この質問については保留と言う事にして。


「力を溜め込む状況と言うのは、俺達というかこの周辺にとって不味いでしょうか?」

「グァ」


 首が縦に振られた。

 どうやら小まめに放出せねばならないのだろう。そうなると、封印している状況で放出できるのかと言う事と、その力の放出方法を如何にするかが問題だろう。


「封印した状態だと、外へと力が放出される事はありますか?」

「グルァ」


 首が横に振られる。

 なるほど。祈りが社の中へと入る事はするが、外へと力が流れ出るなどと言った事は無いらしい。……まぁ、其れが出来るなら、社の内部が激変しているなんて事は無いか。


「なぁソラ。中の力が外へと出る結界って作れるか?」

「あー……まぁ出来なくもないけど、結界の強度と言うか質は下がるよ」


 なるほど。出来はするが心許ないといった感じなのか。

 しかしなぁ……確りと封印して、偶にその封印を解きに来るのは流石に手間が掛かる。いや、神事に手間をとか言っていたら駄目なのだけど、そもそも俺やソラは探索者だからな……この場に長期間居ないなんて事もある訳で。


「総合的に考えて、多少の質を下げた封印を行うのがベストかもしれないな」


 妥協案ではあるが、現状だとそうするべきではないだろうか。……正直、ベストな方法と言うモノがあるのであれば、誰かに教えて貰いたい処だな。

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