七百六話
穏やかな日を満喫する。やはりこう云った事は、非日常が日常となってしまった者にとって重要な事なのだろう。
ただ休息を行えば良いという訳ではない。安全な場所で行われる人の営みを見る事が、どれだけ自分達の精神へ影響を与えるだろうか。
ニコニコと笑みを見せながらペンギンを抱えつつ隣を歩く美咲さんを見ると、文字通りの〝休む〟では意味が無いのだという事が良く分かる。
協会に居た探索者の人達が言っていた〝休め〟と言うのは、身体的なものだけではなく、こういったモノを見て精神を落ち着かせて来いという意味合いがあったという訳だ。
そんな有意義と言える休日を過ごした俺達は、現在家に戻り、まったりと縁側にてお茶を啜っている。
「色々あったねー」
「だなぁ……まさかシュークリームをペンギンが食い尽くすとは……」
「クェ!」
「ずるいの! 双葉も食べたかったの!!」
「そう言うと思って、お土産は買って来てあるぞ」
「わーい! 直ぐに食べるの!!」
喜びながら、自分の体の半分ほどあるシュークリームに飛びつく双葉。そして、勢いよく齧りついていくのを見ると、恐らくこのデカいシュークリームを一個丸々と食い尽くす事が出来るだろう。
ペンギンの時も思ったが、一体どこにこれだけのサイズのシュークリームを食べる事が出来るスペースがあるのだろうか。
どう考えても、体の大きさを考えると不思議でならない。別腹とかそういう次元の問題じゃないぞこれは。
「はぐぅ! ふぉぉぉ! これは、生クリームとカスタードの割合がパーフェクトなの……かぶりつくとクリームが溢れて……はぐはぐ!」
幸せいっぱいと言った感じでシュークリームを食べる双葉だが……その顔は実に残念な事になっていた。
「ふ、双葉ちゃん……顔がクリームだらけに……」
「あーあれだな。パイをぶつけられた人みたいになってる」
顔をシュークリームに突っ込みながら食べるモノだから、顔中がべとべとになってしまっている。余程美味しかったのだろうというのは分かるのだが……これはマナー的にダメ過ぎるだろう。
そしてそんな双葉を見て、同じシュークリームを食べたペンギンが、「やれやれだ……」と言わんばかりに肩をすくめている。
「なぁペンギンよ。お前もあんな感じだったからな」
「クェ!?」
驚愕と言った表情をするペンギン。鳴き声がまるで「まじで!?」と言っているように聞こえて来た。いや、実際そう言った感じで言っているのだろう。
でも本当の事なんだよなぁ。
しかもペンギンの場合は、俺達と一緒に食べ歩きをしていた時の話だ。なので当然だが、その姿は外で行われていたという事になる。なので……。
「道行く人がお前の事を微笑ましく見てたぞ」
「ク、クエェェェ!!」
両手を顔の前にもっていき、いやんいやんと恥ずかしがるペンギン。
そもそも食べ終わった後に、美咲さんがお前の顔を丁寧に拭いてくれていただろうに……なんで忘れているんだよ。
これは口に出来ない話だが、外で顔をクリームだらけにしたのがペンギンでよかったと思う。これが人だったり双葉だったりしたら、可愛いというよりも、汚い食べ方をと言った感じで見られる可能性があったからな。
そう言った意味では、双葉を外に連れ出していなくて正解だった。
因みに、双葉を連れて行かなかった理由は、双葉が「今日は庭の木や植物達と遊ぶの!」と言っていたからだ。……大丈夫だとは思うが、庭にある植物達ってモンスター化してないよな? と少し不安になる。
「ふむぅ……幸せなのぉ」
双葉がシュークリームと言う幸せをかみしめていると、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。
「ただいまー……って、双葉ちゃん! それ、一人で食べてるの!?」
「これは双葉のなの! お土産はますたーが持っているはずなの!」
「いやいや、双葉ちゃんのを取るつもりはないけど……良く一人でソレを食べつくせるね」
「美味しいから大丈夫なの!」
帰宅して来たのはゆり。
ゆりもまた、双葉とシュークリームの対決を見て、何処にそれだけの量が入るんだろうと疑問に思ったのだろう。
なのでゆりは双葉へ質問をした。したのだけど、返ってきた答えは全く見当はずれのもの。ゆりの気持ちを代弁するなら、まさか美味しいからという回答が来るとはと言った感じだろうな。その証拠に、ゆりの表情は驚いたままだ。
「ゆり諦めろ。これはもう、胃がブラックホールとでも考えた方が良い」
「どこのフードファイターよ……で、兄さん私の分は?」
「あるぞ。今出すか?」
「うんにゃ、後で良いかな。ゆいが帰って来た時に一個だけお願い。私達だと半分にして丁度良いから」
「あいよ」
軽く会話をすると、ゆりはパタパタと自室へと向かっていった。
仕事から帰宅して来たばかりだからな、荷物やら着替えが有るから当然と言えば当然の行動だ。
それにしてもデカいサイズだよなぁ。
恐らく父さんや母さんも分けて食べる感じになるだろうな。爺様だと「胸やけが……」とか言うのではないだろうか、まぁその時は俺が爺様と分ければ良いけど。
「うーん……人数分買って来たから余ってしまうな」
「だから言ったじゃん。大きいから少なくても大丈夫だって」
「まぁそうなんだけど、もしかしたらってのがあるしな。それに、残ったら明日か明後日にでも食べればいいだろ」
因みに、丸っと一個食べたのは双葉とペンギンのみだ。俺と美咲さんもまた、二つに分けて食べたんだよな。
俺なら一つを食べる事が出来たけど、美咲さんは違ったみたいだったからな。……そして、ペンギンは一つを食い尽くしたいという目で見ていたという。
そうなったらもう、俺が美咲さんと分けるしかないだろう? だから別に、よくある分けっこをしたかったという訳ではない。
「そう言えば……神社なんてモノが出来ていたけど、ウォルに何か影響があったりするのか?」
「わふ?」
「ありゃ……特に何も無さそうな気配だな」
「メインで祈っている相手ってウォルちゃんみたいだったしね……そうなると、魔力がある訳だしお祈りの念とかで影響が有りそうなんだけど」
ウォルを見る限りだと、全くもって何かが有るといった感じがしない。今ものほほーんと俺の頭の上に乗って、尻尾をふりふりと揺らしている。
うーむ、そうなると一体神社で拝まれた事で出来た念は何処へ行ったのだろうか。ウォルを対象に祈られているのは間違いないはずなんだが……。
「もしかして大本とはいっても、もう一つの方に行っているんじゃない?」
「もう一つって……あぁ、この庭から少し行ったところにある〝玉〟の所か」
言われて見れば確かにと思う。
神社で祀っているのは〝龍の魔石〟を取り込んだことで〝半神格化〟したウォルだ。
そして、その〝神格〟は〝玉〟としてウォルから分けられ、この庭から行ける社に祀られている。
「神社が何時できたか知らんが、前行ったのが大樹へと向かう前だったと思うから……」
「あー、何だか変化していそうだよねぇ」
人々の祈り。それによって狭間の世界では〝神の模倣体〟と自称していた柱達が存在した。
であれば、同じように祈りを捧げられた〝神格ウォル〟は一体どうなっているのだろうか? ただ、〝模倣体〟の方々と違い、祈られている人の数が違うので、流石にとんでもない状況になっているとは思わないのだが……。
「それでもなぁ、魔力が籠った祈りだし、その対象と言うか偶像と言うか……」
思いの行く先である依り代と言えるモノが存在している訳で。
そう考えると、何かしらの奇跡が起きていても、おかしくないと思えてしまう。
これはまた……要調査しないといけないだろうなぁ。
何だろう。休んだはずなのに、少しだけ気分が重くなった気がするな。
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