七百四話
「まだ仕事があるから」と告げたゆいと別れ、俺達は村の散策を続けた。
数日もあれば村の中はがらりとその顔を変える。と言うのも、「あれ? 昨日こんな所にこんなモノがあったっけ?」と思わずつぶやいてしまうような事が多々あるからだ。
そして、どうやら俺達が空の上や水の中へと行っている間に、そう感じてしまうモノが結構増えていたらしい。
「……狼と龍が共にいる絵馬?」
目に入ったのはちょっとした神社。ただそこに描かれていたのが、〝ウォル〟と思わしき狼が龍の気といった感じのものを纏っている絵馬。
なんでこんなものが? と思っていると、何やら奥から神主さんらしき人が此方へと向かって来た。
「こんにちは。神社が出来ていて不思議そうな顔をしているね」
「え、えぇ……ちょっとこちらの絵馬が気になって」
絵馬が気になったと告げると、神主さんは「あぁ!」と納得した表情を見せ、その絵馬についての話を語り出した。
まぁ、内容は単純だ。探索者や協会から話を聞いていたのだろうな。
俺の契約した精霊である〝ウォル〟が〝龍の魔石〟を喰らった事で、片足でも神の領域に踏み込んだと言事。
そして、その領域に踏み込めたからこそ魔王を討伐する事が出来、世界は救われました的な話……だがしかし、その力は余りにも強力で簡単には人に扱えないモノだった為に、今は神の力はとある場所に封じられており、其れがこの神社の本社なのだとか。
ただ、その本社に人は立ち寄れない為、こうして違う場所に人が参拝できる場所を作っているらしい。
あぁ、恐らくその本社って家の裏庭から少し行った場所に在る、〝ウォルの分体〟とも言える〝龍の力がこもった玉〟を封じてある場所の事だろうな。
俺はそんな事を考え、何とも言えない気分になる。いやはや、封印してある場所はその〝玉〟が盗まれない為に、人が入れない様にするのは当然なのだけど……まさかそれが、こうして違う場所に神社を作る結果になるとは。
「探索者の方々がよく参拝にくるのですよ。精霊と契約が出来る等の加護をあやかりたいのでしょうね」
「それはまた……」
確かに品川さんも言ってたもんなぁ。
「ウォルを拝んで加護がもらえないだろうか」って。まぁそれは、ショゴス等の対神話生物に対する精神保護的な意味合いだった訳だけど。
しかしなるほど……探索者は精霊の加護が欲しくて藁にも縋る思い出拝んでいるのか。
「ここには他の精霊達も祀っておりますし、あちらには熱田神宮の分社も……」
結構広い神社だなとは思ったが、なるほど、それだけ沢山の柱を祀っている訳か。
そして、探索者は各自契約したい精霊の社へ参拝に行く……っと、験担ぎを行っているという事か。
「よく見ると、狛犬がモンスターだよ」
「クェ!」
確かに……イオを思わせる猫型のモノや角の生えた兎と、どこかで見たような狛犬達。
さらに言うなら、神馬なんだけど、それがペガサスだったりする。なんだろう、キラキラと輝く白馬に翼が生えていて、実に神々しく見えるな。……ただ、神馬も元はモンスターなんだけどな。
なんだろう。正直、本来祀り上げるべきは〝神の模倣体〟と自らを語った彼等なんだけど、彼等はもはや居ないし、その存在を知っているのは数少ない。……実際に目にしたのはあの〝狭間の領域〟へ足を踏み込んだ俺達四人ぐらいだ。
そして、その目にしたのもたった一柱。他の柱達は既に……うん、これは言うべきではないだろう。
「それにしても、拝みたくなるほど探索者って切羽詰まっているんですかね」
「このような、命の危機が隣にあるような世界になりましたからね。それに、先を行く者ならまだしも、後追いする者達には……」
あぁ、色々な思いを抱えているという事か。
憧れ・切望・羨望・嫉妬、抱える思いは様々だけど、自らもと思う気持ちが根本に無い訳ではない。
精霊に認められて、ペガサスに認められて、自らもその力を振るい、大空を翔る。そりゃ、羨ましいと思うだろうさ。
そう考えると、俺や美咲さんは余りにも運が良すぎたのだろう。
たまたま、村の研究者のトップと仲が良かったために装備のテスターとして選ばれ、前へ前へと出る必要があった為に色々な出会いに恵まれた。……前へと出る必要性があったのは、人手不足だったというのが一番の理由だが。
「先を行く苦労と言うのは後に続く者には分かりません。ですが、やはりそれでも持たぬ者には羨ましいものですから」
神主さんの言葉が探索者の全てと言っても良いだろうな。
それ故に、神頼みでは無いが、拝める場所が有れば拝んでしまう……そんな状況が出来ているのだろう。
「それに実は……精霊の社で拝んだ結果、精霊と契約できた者もあらわれまして」
ありゃま。ただの象徴かと思いきや、マジで実益があったのか。それはまた、拝みに来る人も増える訳だ。
今こうして俺達が神主さんと話している間にも、装備は身に纏っていないものの、探索者だろうなと分かる気配を持った人が数人、神社の中へを進んで行った。
しかしそれなら、精霊の社が一番人気になりそうな気もするが……。
「守り神と精霊との契約は別なのですよ」
神主さんはそう言うと、俺の頭の上に居るウォルに向かってにっこりとほほ笑むのだった。
所変わって俺達は今、研究所の中へお邪魔している。
ただ、来た理由は研究所のお手伝いや装備についての話し合い等では無い。そもそも、今は休暇中だ。研究所に来て仕事など行いたくはない。
しかし、研究者から見れば俺達に話しをしたい事もある訳で、俺達を見る目に何か訴えるモノがある。ただまぁ、そんなのは全てスルーだ。
それに彼等も強行する事は出来ない。何故なら、ばあさまからとても太い釘を刺されている為に。
では何故、研究所へと来たのかと言うと……。
「なるほど。藤野さんもこちらのペンギンちゃんも、随分と落ち着いたようですね」
そう、美咲さんとペンギンのカウンセリングに来ている。
と言うか、これがある為に研究者達には俺達に群がらない様にと釘を刺された訳だ。
「うーん……自分では良く分からないのですけど」
「そう言うモノですよ。ですが、まだもう少し様子を見ましょうね。何が切っ掛けでぶり返すか分かりませんので、大丈夫だと考え探索へ出かけない様に!」
「あ、はい。わかりました」
妥当な話だな。
何かと俺や美咲さんって外へ出れば問題に遭遇する事が多々あるからな。実際、装備がほぼない状態で堅殻イカなどの〝太古の生物〟と戦闘になった訳だし。
当然このカウンセラーさんもその事を知っている。そしてそうである以上、許可が出るまで村の外に出るなと言うのは当たり前の話。
「貴方達のお陰で問題の早期発見が出来ているのは分かっているのよ? でも、それで貴方達が潰れてしまっては意味が無いのだから」
人手不足ではある。あるけど、それとこれは別だと言ってくれる人の多い事。
協会の人もだが、探索者の人達も口を揃えて「休んでいろ」って言ってくれているからなぁ。実にありがたい話である。
「あ、そうだ。桜井さんって今どんな状況です?」
美咲さんがふと思い出したかのように、桜井さんの状況について質問をした。
「あの患者さんね。今は娘さんが毎日来てくれているからか、随分と良くなっているそうよ」
「本当ですか! お見舞いに行きたいのですけど、親子の時間って邪魔をしたくないですし……」
「大丈夫じゃないかしら? あの子もずっと居る訳ではないしね」
ふむ、それならこの後少し様子を見に行くのも有りかもしれないな。
サキさんに配慮して俺達は少し足が遠のいていたし、ここらで一度顔を出し、桜井さんへ声を掛けてみるのも面白そうだ。
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