五百九十九話
サーと雨が降るような、昔のテレビにある砂嵐の画像時の様な音が流れる。
ポカポカとした心地好い空気に場が変わる。
心地好い場へと変化した為に眠気に襲われて行き……其処でふと気が付いた。あ、これ色々と鎮める空間だと。
「昂った気分や高めた魔力まで鎮静化されているのか」
「そう言う陣だからね。仲間認定した相手なら大丈夫だけど、気を緩めて眠気に身を任せるとそのまま永眠かな」
良い笑顔で恐ろしい事を言うソラ君。ただ、これは長い事準備をするだけは有ると言える術と言える。
その証拠と言う訳では無いが、血により強化された影モンスター達の動きがかなり鈍いっている。
「あー……形も随分と曖昧になってるな」
「そっか! あのモンスターって基本は魔力の塊みたいなものだから!」
陣の中に居ると、魔力の活動はその効果で鎮静化される。
当然、敵認定されている魔王が創造したモンスターだ。当然モンスター達も同様の判定を受ける。結果、魔力だけで作られたモンスター達にとって、この場は猛毒とも言える空間へと早変わり。
肉体など無いからな……そりゃどんどんその姿も維持が不可能になって行く。
と、そこで気が付いた。ウォルは大丈夫なのだろうか?
ウォルは敵認定されていないと言っても、精霊なのだから同じように魔力の塊と言っても良い存在だ。味方に対して毒にならないとは言え多少影響があるにはある訳で……何せ、眠気を感じたり音が聞こえていたりするからな。
「ウォル大丈夫か?」
『ワフ』
脳内に響く大丈夫だというウォルの意思。
少し詳しく聞いてみると、どうやら〝精霊憑依〟を使って居る為か肉体が有るのと変わらない状況らしい。なので、陣による影響は俺と同レベルのモノという事だそうで。……少しポカポカとして眠くなる程度らしい。
とは言え、味方でもそれだけの効果を受けると言う事は、敵ともなれば実に恐ろしいモノだろう。
そう考え魔王の様子を見てみると……実に忌々しいと言わんばかりの表情で陣を作り出したソラ君を睨みつけている。
「これはチャンス到来か」
「だと良いけどね」
少しだけ思う処が有るのか、ソラ君の声が暗い。
とは言えこれ以上のチャンスは他に無いのではないだろうか。気になる点がありそうで引っ掛かる部分はあるのなら、接近戦は避けて一気に畳みかけるのが良いかもしれない。
「弾幕で押しつぶす方向が良いと思う」
「何かやらないとどのみち先には進めないしね」
「それもそうだよね……なら、少し陣での攻撃方法も見せようか」
そう言う訳で全員で集中砲火をする事に。
陣の影響下の為に魔王は動けないのだろうと判断し、魔法鞄からアンチモンスターライフルを取り出してから射撃体勢。
美咲さんも特弓、サキさんは魔法弓で行くらしいので、タイミングを合わせて魔王に向かって撃ち込む。
更にその後、アンチモンスターライフルを手放し魔法銃二丁撃ちをしつつ散弾系の魔法を連射。
イオ達モンスターズからは、双葉の蔦やら射撃に風と雪ウサギの合体魔法。
そしてソラ君はというと、陣を形成している核と言える光の柱。其処から魔王に向かって光の文字を伸ばしていき……魔王を文字が縛り上げる。
「……あの文字のチェーンみたいなものは?」
「陣の触手なの?」
「いや触手じゃないからね。アレは陣の効果を直接送り込む為の鎖みたいなものかな」
という事は、アレに囚われでもしたら味方でも永遠の眠りについてしまうのでは? と少し恐怖すら覚える。が、縛り上げられているのは魔王だ。
このままダメージと陣の効果で魔王が動かなくなると良いのだけど……まぁそんな訳にはいかないよな。
「ふん」
魔王が力を込めると、飛び交う弾丸と魔法が魔王の前で静止し、文字の鎖はピキリと罅が入ったように見えたかと思うと、次の瞬間には粉々に砕け散った。
「魔物達には影響が有った様だが所詮この程度か。とは言え我が血を使って作り出した魔物だからな、実に面白くない術だ」
グパグパと手を開いては握ってを繰り返しながら、陣の影響を確かめるそぶりを見せた魔王。
多少影響はあるのだろう。とは言えソレはヤツにとって誤差の範囲内なのだろうな。
「やっぱり多少体が重くなる程度の効果しか出て無いのか……」
ソラ君がその様な事を口にした。どうやら陣を完成した時に彼が気になっていたのは、思った以上に魔王への影響がないという事に気が付いていたのだろうな。
とは言え、無いよりはマシのハズでもある。あの文字の鎖を破るにしても、一瞬とは言え力を籠める動作をみせたのだから。
「魔力も肉体も魂も静まっているはずなんだけど、それ以上にヤツのスペックが高いって事か。うん、完全に僕の見立てが外れたって感じだね」
陣を発動させるまでは大丈夫だと踏んでいたんだろうな。でなければ、あれだけ時間を掛けて用意する訳が無い。
となると、俺達と魔王の基礎能力には随分と差があり過ぎると言う訳で。
「こりゃ、四の五の言ってられないか……ウォル出力を上げて行くぞ」
『クゥン?』
「大丈夫かどうかはやってみないと分からないからな。それよりもこのままの方が不味い」
魔王の表情から見るに、今までの様に遊びだと言って此方の行動を許すような事はしないと思われる。
今はまだ、体を動かしながら色々と試しているみたいなので、多少の時間は有ると言った感じなんだけど……それも直ぐに終わるだろう。
「だから出力は最大で」
『ワフ!?』
「あぁ、あっちは使わずにだけどね」
流石にドラゴンの魔石から手に入れた力を使う訳にはいかない。アレは諸刃の刃なんて程度の話ではない力だ。
もはや動く時限爆弾。なので使わないに越した事はない。とは言え、ソレも視野に入れる必要が有ると思われる。
だけど、現状は〝精霊憑依〟での最大出力で行くべきだろう。
『アォン?』
「ま、やるしかないでしょ。このままだと犬死だろうしな」
余り乗り気では無さそうなウォルだけど、俺の言っている事も理解している為。最終的には出力を最大まで解放。
ぎちぎちと肉が千切れそうな、骨が砕けそうな軋みを多少感じつつも、何とか制御出来ている状況にほっと一安心。……ただまぁ、コレで何とかなっても間違いなく数日は寝込むだろうな。
そんな俺の事を見た美咲さんは、しょうがないなぁと言った表情をしていた。ただ、その目は思いっきりヤレと言わんばかり。と言うよりも、自分も続くよと言った感じ。
「……まだユウ達は切り札を残してたんだね」
「この後が不安になるけどな」
切り札は共に残して居る事は知っている。ソラ君もこの陣だけのはずが無いと思うんだけど……とりあえず先にカードを切ってくれたのだから、此処は俺が行くべきだって話。
最大出力状態での精霊憑依で魔王に対して攻撃を仕掛ける。
ここ一番の驚きといった表情を見せた魔王。どうやらこのスピードは予想して居なかったらしい。何せショートワープクラスのスピードだからな。
そして、ほぼ零距離から散弾魔法をぶち込んだ後に、左手に持つ時空間魔法を付与したマナブレードを振り下ろした。
ザシュと切裂く音が響き、その後ごとりと何かが落ちる音がした。
「ふむ、実に驚いたでは無いか。まさかここまで我に接近するとはな……お陰で傷がついてしまった」
そう告げる魔王にあるのは……頬に何か掠った程度の傷。
では何が落ちたのかと言うと。
「ゆ……結弥君? ソレって……」
本当、何で此処まで差があるのかと思う。
「攻撃を仕掛けた俺の方がやられるかぁ……」
地面に落ちているのは、二の腕辺りから切り落とされた俺の腕。
グッと右手で左腕を抑えつつ、流血を止める為に回復魔法を掛ける。
そうしながら俺が考えていた事はと言うと……これはゆりの事を言えないなぁと言う、余りにも状況からズレた事だった。
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