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五百十三話

――リッチ先生と〇〇――


 此処は何処だ! こんなはずでは無い! と、エンドレスに繰り返す者が居た。

 そして、そんな存在を空虚な目……いや、物理的に目など無いのだが、そんな目で見ているリッチ。


「死霊となっても煩いとは……いや、死霊だからこそか」


 そんなリッチの呟きだが、それに反応するモノは居ない。

 この空間にはリッチとソレが居るだけだ。そして、ソレは同じ言葉を繰り返す壊れたスピーカー。よって、この場に誰か邪魔者が入るなどといった事は無い。


「リッチとなった身で言う事では無いのだが、死者を愚弄した報いは受けて貰わねばな」


 そう宣言しながら、リッチはソレに触れ、何やら魔力でごにょごにょと術を施している。


「なに、同盟者の頼みだ。お主の情報を全て抜き取るが、その後楽になると思うなよ」


 イヤダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!! と叫ぶも、それを聞く者はリッチ以外何処にもいない。




 そもそもの話。リッチと他の死霊ではその成り立ちが違う。リッチは望んでリッチとなった訳では無い……。

 彼の過去は彼が語ろうとしないので誰も知る余地など無いが、一言彼が言った言葉は「運が無かった……」それだけだ。

 そう、運が無かった。生前の彼は今の力量を見るに相当な術者であったと考える事が出来る。しかし、その様な術者でも運なくリッチとなってしまった。そして、動く死者としての苦悩や葛藤などはリッチが一番良く理解している。


 ゆえに許せない。


 ソレがやった行為は、リッチの逆鱗と言っても良い内容。

 であれば如何するのか一番だろうか? そう、目には目を歯には歯を……だ。


 ソレが死した際、ソレの魂は半分モンスター化して居た事も有り、リッチがその魂を確保するのは実に容易であった。

 そして、その魂を捕らえ、誰も認識出来ない場所へと引きずり込み、完全な死霊化を施し、あれやこれやと弄繰り回す。

 正にリッチ! と、誰かが見ていれば感じるだろう行為を、普段は絶対やらない所業を、リッチはソレに対して問答無用で行った。




 しかし、その行為が外に漏れる事は無い。何故ならその場へ行き来出来るのはリッチのみ。

 そしてリッチが取り出した情報は、胸糞悪い部分を除いた後協会へと流れる事になる。


「モウイヤダァァァァァァァァァ!」


 叫ぶソレ。だが、リッチすら偶にしかこの場に来る事が無く、来たら来たでソレは地獄と言う言葉も生ぬるい世界が待って居る。

 ソレは今後、その場を彷徨く事になる。それこそ、リッチに許される日が来るまで……。




――兵部と探索者達――


 今回の戦いで兵部はその姿を表に出した。しかも、精霊契約と言う巨大な力を手にしてだ。

 当然、この事に対して飛びつかない探索者など居ない。今までであれば、結弥のウォルと言う存在のみで、しかもそれは特別なモノだと思っていた。


 しかしここに来て、兵部だけでなく、兵部の率いる探索者部隊全員が各々サラマンダーと契約しているでは無いか。


 ここで燃え上がらなければ探索者じゃねぇ!! と、彼等は精霊の契約について、兵部に聞くべく宴会と言う場を利用、酒の勢いに任せて土下座までしてみせた。教えてくだせぇ! 兵部様! と。

 そんな探索者達の姿に兵部達は苦笑。とは言え、探索者の戦力が上がるのであれば教える事は吝かでは無い。

 なので兵部は口を開く。ほんの少し自分の考えも交えつつ。


「勿論教えるつもりだ。だが、私達の考えではあるが、出来れば別の属性精霊を探して貰いたい」


 何せこの場に居るのはサラマンダーだらけ。探索者が契約する精霊が全てサラマンダーではバランスが悪いだろう? と言う事。

 確かに結弥のウォルと言う風の精霊や風についている氷の精霊はいるものの他は皆無だ。サラマンダーの群れを考えると実に偏っている。


 なので兵部は精霊が居る可能性が有るだろう場所や、居る際の魔力反応など、様々な情報を探索者へと教えて行った。


「俺は契約するなら土属性が良いかな」

「うーん……私は水かなぁ……」

「ど、どうしよう……でもこう、闇とかカッコよくない?」


 多少中二病を残して居そうな人の発言もあるが、兼ねて精霊契約の話は良い流れで進んでいる様だ。

 各自どのような属性が良いか、被らない要するには? 等と言った具合で話し合いと言う名の雑談が繰り広げられて行く。……ただ、お酒を片手にと言う事で、明日覚えていられる人間はどれだけ居るだろうか。


 そんな探索者達の様子を見て兵部はにっこり。


「これであの時みたいな撤退戦を行うような状況は少なくなりそうだな」


 そう呟く兵部に、同じく撤退戦を生き抜きサラマンダーと契約した探索者達が、似たような笑みを見せつつ頷く。

 彼等の願いは二度とあのような状況にならない事。そのための戦力アップならば、独占した情報など惜しむ事など無いと言う訳だ。


 これは結弥が真似をできないと言った、英霊達と同じ様な考えの持ち主達と言う事だろう。

 元よりそう言う魂を持っていた者達なのか、それともそんな英雄達の生き様を見たからなのか、ソレは定かではないが、彼等は間違いなく英雄達と同類である。そのことだけは間違いない。




――メイン――


 朝目が覚めると、昨日の騒ぎが嘘かと思う程の静寂。実に爽やかと言っても良い。

 そして、そんな爽やかな空を我が物顔で飛ぶ鳥……なんだかちょっと憎らしい。


「あのカラスめ。この地が安全だともう嗅ぎ付けたのか」


 実に賢い奴等だ。昨日戦いの最中には一羽たりとてその姿を見せる事など無かったと言うのに。


 まぁ、そんなカラスを睨んでみても意味が無いので、さっさと頭から排除しやるべき事をやるとする。

 朝の仕度をし、美咲さんや双葉を叩き起こす。


「起きろ、お寝坊さん共」

「うぇ!? あ、朝!? って、あ結弥君おはよう! 早くない!?」

「うみゅ~……まだ眠いの」

「早くは無いが遅くも無いと言った時間だ。ただ、そろそろ起きないと呼び出しが有った時動けないぞ」


 とは言え、いったい何人が今日起床出来ているんだろうな? と疑問には思う。何せ、美咲さんも普段であれば……うん? 普段の美咲さんって気が緩んでいる時は割とお寝坊なタイプな様な……。


「おきます! はい、今すぐ起きますっぅ! だから不名誉な事を考えながら小声で呟かないでください!」

「ま、まぁ起きるなら良いけど」


 あらま。どうやらぼそりと声に出していた様だ。ま、それが結果的に起こすことになったからラッキーとでも思っておこう。


 そんな訳で、まだお眠なの~とごねる双葉を美咲さんが抱えつつ寝室から出るのを見送り、次は厩舎へと移動。


「イオ、颯おはよう。お前たちはもう起きてたみたいだな」

「ミャン!」

「ヒィン!」


 実に元気な返事が返ってくる。


「ふむ、どうやら昨日の疲れは残って無いみたいだな」


 そう聞くと、勿論! と言わんばかりに尻尾を振る二匹。寧ろこれは力が有り余っていると言っても良い感じだ。

 これならば、もし今日調査をお願いされようが、村に戻る事になろうが十分その移動力を発揮してくれるだろう。


「よしよし、ちょっと待ってな……えっと、確か朝食はっと」


 専用の器に果物やら穀物やらを入れていると、朝食を狙っていたかのように空からバサリと降りて来るモノが居た。


「……おい風よ、頭の上に降りるのか」

「ピュィ!」


 俺の突っ込みなど気にせず、自分の分は? と聞いて来る風。うむ、実に肝が据わっている。

 とは言え、既に風の分も用意して居る訳で……うん、本当こいつらに対して俺って甘いんじゃないか? と思ってしまうな。


 ただ、そんな風とは別に、遠くからチラチラと此方を覗っているペガサスが居る。


「あー……てんちゃんだったか? こっちにおいで。君の分もあるぞ」

「ヒィン?」


 本当? と首を傾げながら此方を見る美咲さんの愛馬。実に可愛い奴だな。


「本当本当、ほら、颯の隣に用意してあるから好きに食べていいぞ」

「ブルルル!」


 俺の言葉に合わせる様、颯がてんちゃんに来い来いと誘う。

 そんな俺達の言葉に、馬らしからぬちょこちょこっとした歩き方で此方へとやって来て、俺の顔をちらりと見た。


「な、用意してあるだろう? 良いから食べな」


 その後、一度こくりと頷いた後、もくもくと食べ始めるてんちゃん。コレで少しは馴染んでくれると良いのだけど。



 そんな感じに朝のやる事を終わらせ、部屋へと戻ると此方では……うん、遠慮なんていらんよな。


「美味しい?」

「むぐぅ! 美味しいの!!」

「ごめんね。明日は私が作るから!」

「おう、期待しておくよ」


 と、美味しそうな表情で朝食を食べる二人。それじゃ俺も朝食をとって、会議を行うだろう協会からの呼び出しを待つとしますか。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!


ソレって言ってるけど、ぶっちゃけマッドでイーグルを自称する石鷹ってわかりますよね(´-ω-`)

そして、そんなちょっとダークな感じを吹き飛ばす朝の風景w

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] リッチ様、いい仕事してますねー。死した後も永く苦痛を与え続ける。それが彼に相応しく、犠牲者とその親族に納得してもらえる処遇でしょう。
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