四百九十一話
数か月ぶりの家での休息を堪能。とは言っても、色々と質問攻めにあったり、妹達やウサギやイオ以外の猫達の特訓と、休息と言っていいのか解らない日々を過ごした。
まぁ、どうやら妹達もペット化したモンスター達も、偶に森へと足を踏み入れ狩りをしているそうで……実力自体は問題無いレベルではある。
ただまぁ、探索者としての訓練を受けていないためダンジョンに行ったりはしていないので、他の探索者達を考えればその実力も数段劣ると言える。
「ただ、村に何かあった時に逃げるだけの実力は有るって事だよね」
「まぁそうなるな。ただ勘違いして自分達も戦うんだ! と言いださなければだけど」
そうは言ったものの、そんな馬鹿な真似は二人ともしないだろう。
痛い目を見て、悲しい思いをした訳だし、更に耳がタコになるレベルで言い聞かせて来たからな。コレで自分達も! と言い出す様なら救いようのない馬鹿だ。
とは言え、自分達がと言う気持ちが出てくるのは解らなくもない。何せ、村の中にも全く戦えない、逃げる事も厳しい人たちだって居る訳だから。
ただまぁ、そう言う人達の為に色々と避難訓練なり協会があれやこれやと手を打っている。
と、そんな村や家の現状を確認して色々と満足。何せ今までやって来た事の結果が目の前に現れている訳だからな。
何というか、頑張って来た事が間違ってなかったと言われている気がして……いやいや、まだまだこれからだとも言えるのだけど。
「そういえば……」
と、急に美咲さんが話題を変更した。
どうやらその内容はペガサス達と一緒に来た牛達の内容で……。
「牛さん達は完全にモンスター化したみたいだよ。人の話を理解して良い関係を築けてるみたい」
「ほー……って、いつの間にそんな話を聞いたんだ?」
「妹ちゃん達とファッションショーをしながらかな」
なるほど。道理で俺が全く知らない内容を知っている訳だ。
そして、牛達も意思疎通が有る程度出来ると言う事で、流石に屠殺しようなんて考えは却下されたらしい。
ただ、モンスターって寿命を全うした方が美味しいんだよね。なので食べないかと言われたら……食べるにきまってるじゃないか。
「そんな訳で、生きている間は乳を貰う代わりに安心して暮らせる空間を人は用意する。寿命を全うした牛さん達は供養の為に皆で頂くみたいな話になったみたい」
「ふーん……まぁ、その供養の為にってのも人の都合だけどな」
「でも、美味しいしお互い悪くない話だから良いんじゃない?」
「まぁな」
それに、モンスターの肉と言うのは人の体を予想以上に強化するのは間違いない。まさに血肉になると言うやつだ。
「まぁ、牛達が納得してるなら良いけどね」
「寿命で死んだあと死体が沢山残るより良いって言ってるみたいだよ。なんか、モンスターの死体がその場に残れば残るほど、色々と障害があるみたいだから」
「あー……きっとそれって、病気的な意味じゃなくて魔力とか瘴気的な意味でなんだろうなぁ」
まぁ、予想としか言いようが無いけど。
モンスターの死体が溜まってる場所には何やら魔力溜まりが出来る法則があるようで、その事をベースに考えたらあながちこの予想も間違っていないと思う。
「で、ペガサス達はどんな感じの話だった?」
「うん、牛さん達が安全な地を手に入れたって事で、数頭だけこの地に残って、他は各馬相棒を決めて探索者の足になってるんだって」
「ほー、と言う事は探索者の移動範囲や速度が一気に上がったって事になるな」
「うん。だから協会にとって、急ぎの物資輸送に重宝してるんだって」
まぁ、戦車に比べて人が持つ魔法鞄の容量は多くないからな……ただそれでもかなりの量を運べるけど。
因みに、俺や美咲さんの魔法鞄は常に最高スペックの物……の試作品を渡されているので、その容量は桁違いだったりする。
「伝達系は今だと通信で行えるから、ペガサス便による手紙輸送は必要なさそうだけどな」
「だね。そう言ったのは全部パソコンでやってるみたい」
まぁ、協会のコンピューターは魔導AIを搭載した物だから、純粋にパソコンと言って良いのか謎だが。
「で、俺達を背に乗せてくれたペガサス達は、そのまま俺達の相棒になると言う訳だ」
「みたいだよ。あの子達もそれを望んでるって」
となると、名前を付けてやらねばなるまい。……しかしネーミングか。
「美咲さんは名前どうする?」
「そうだねー……ペガサスさんだし、天ちゃんとか?」
「……風の時も思ったけど、まんまなネーミングだな」
「えー! 可愛いじゃん! それに、結弥君だってネーミングはそのままじゃん! 双葉ちゃんとか!」
「でも可愛いだろ」
「まぁそうだけど!」
まぁ、可愛いかどうかは別として、しっかりと考えておくとするか。
ペガサスだしな、どうせなら可愛いよりもかっこいい方が良い気もする。
「さて、そろそろ物資を補給したりと次の遠征に備えないとな」
「だね! 岐阜まではペガサスさん達でひとっ飛びだからかなり時間は短縮できるけど、問題は其処から先だよね」
「だなぁ……そのままペガサスに乗ってってのも有りだろうけど、周囲の調査を考えると空じゃなくて陸で行った方が良いだろうし」
「うーん……なら、二手に分かれるとかは? 風ちゃんと組んで空から周囲を見るのと、イオちゃんと組んで陸を進む側」
「あー、確かにそうすると今まで以上に色々と見える気がするけど、でも未知の領域だからなぁ……どんなモンスターが居るか解らんのがネックだな」
うーん……と二人で今後の方針について頭を捻る。
確かに美咲さんの案は時間効率的に素晴らしいモノが有る。が、其れには俺が言った様にデメリットも大きい。
ただまぁ、地上に居るモンスターに関して今の俺達に対処できない存在が居るのか? と考えると、対処出来ない存在は居るだろうが、そんな存在に遭遇する確率はかなり低いと言っても良い。
とは言え……低いだけであって、甘く見通したら遭遇してしまうのが世の常だ。
「ただ、メリットもかなり大きいんだよなぁ」
「ん? 時間効率以外に何かあるの?」
「そりゃ、例えば俺が風と組んで空に上がれば、上空からマルチロックランチャーでの先制攻撃が出来る」
「あー! しかもソレの武器ってかなり効率が良くなったんだよね」
「そうそう。だから、戦力面的に見てもメリットは大きいんだ」
「美咲さんにしても、フロートシールドがあるから安心して上空から弓を射る事が出来るでしょ」
そんな訳で、俺にしても美咲さんにしても片方が上空に上がるメリットはでかい。
ただ、各個撃破できる存在が居る場合が問題だ……と言うのが頭から離れないだけ。
「それなら、岐阜の拠点に行くまでに、色々想定して移動してみるってのはどう?」
「万が一を考えてどう動くかってのをやって行くのか」
「うん! 少し移動が遅くなるけど、それでも自分達の足で移動するよりは早い訳だしさ」
まぁ、分かれて行動した場合におけるシミュレートは必須ではあるか。うん、試してダメなら他の方法を考えれば良いだけだしな。とりあえずやってみようか。
「なら、第一の案はそれで。一応他の方法も色々考えてみようか」
「だね! とは言っても、皆で飛ぶのは無しなんだよねぇ……うーん」
「ま、安定を考えるならみんなで陸地なんだけどね」
ペガサスが仲魔になったと言う事で、今後出来る行動が増えた。それにより、色々な行動パターンを二人で悩みながら突き詰めていく。
本当に戦力が充実して来たなと思う内容でもあるけど、コレで気を緩めたら行けない。
何せまだまだ問題は残ってるからなぁ。そもそもビルを溶解させたモンスターにも出会ってないし、あのマッドなおっさんが裏で何をしているのか現状不明だ。
もしかしたら、あのビル溶解犯は瘴気に沈んで死んでいたドラゴンかもしれないけど、真相が解らないからどうしようもない。
「とは言え、現状やるべき事は関ケ原にある西洋の城っぽい場所の調査。気を付けるべきはマッド野郎って事だよな」
「本当、あれ以来静かだから不気味だよね……何も無いと良いけど」
実際は、他にも魔力の変質やらなにやらと問題自体はあるけど、ソレは魔法が使えなくなったりする訳じゃ無いみたいだし、研究者の領分だから任せるべき話。
拠点の防衛ラインについては協会のお仕事だし。うん、こう考えて行くと自分達のやる事って割と少ないんだなと思う。
いや……正確に言えば、人手が増えて他の人に任せられる事が増えたと言う話だけど。
「あ! そう言えば、ペガサスさんに乗ったらあの空に居たペンギン達と接触出来るかな?」
「やめとけ……こっちが不意に近づかなかったから何も無かっただけかもしれないしな」
「むぅ……可愛いのに」
とりあえず、美咲さんが可愛いモノを見たら飛びつくような真似はさせないようにしないとな。案外あれで凶悪なモンスターかもしれないし。
さてさて、やる事は随分と絞れたけどその分忙しくなりそうだな。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
因みにですが、妹ちゃん達以外にも探索者で無い人で防壁の外に出る人は居ます。
ただし、色々法整備され外へと出る場合は探索者による護衛が必要……と、まぁ安全管理はしっかりしています。
それに、探索者以外でも狩りを行う事は推奨されて居たり。モンスターと遭遇した際、足がすくんで動けない! なんて事態にならない様にと言う事ですが。
なので、探索者は義務の一つとして護衛任務を受けねばならないと言う物が有りますが、安くない報酬は協会から出ているようです。




