三百九十七話
まったーり
思った以上に疲労が激しい。
こう、何と言えば良いか……指の一本毎に重りでも載せていると言えば良いだろうか。一つ一つの動作がどうしてもゆっくりと重いものになってしまう。
魔力に関しても、いつも以上に回復する速度が遅い。
「はぁ……」
「どうしたんじゃ? 辛気臭いのう」
「いや、思ってた以上に酷使した状態だったみたい」
「それは仕方の無い話じゃろ。今はゆっくりと休んでおくと良い」
爺様と一緒に縁側で日向ぼっこをしながらお茶を啜る。……ズズッ。あ、このお茶ほんのりと甘いな。疲労回復の為に甘いやつを用意してくれたみたいだ。
そんなまったりとしている縁側から見える風景はと言えば、イオや双葉がこれまた寝そべっており……そんなイオ達ににゃんことうさぎがもふっと固まっている。うん、実に微笑ましい状態だ。
そして、庭にある柿の木に風が巣を作っており……これまた、くたぁっと丸くなりながら羽を休めている。
「美咲さんもまだ起きて来て無いみたいだね」
「目の前の光景からもわかるのじゃが、全員疲れを癒す時間が必要なのじゃろうて。結弥はもう少し寝てなくても良かったのかの?」
「あー……寝すぎてもそれはそれで問題だし」
それに、美咲さんやイオ達が寝ている状態だと、起きて居なければ逆に気が休まらない。うん、これは職業病という奴だろうな……遠征中は基本的に交代順番で睡眠をとるから。
もう一つ付け加えるなら、恐らくアレだけの戦闘をした後だ。村に戻ったとはいえ体のスイッチがまだ切り替え切れていないのだろう。
「何と言うか、このままぐったりと一日……どころか数日過ごす事になりそうだなぁ」
「そういう日々も必要じゃろ。何、ゆっくり休む事は無駄では無い」
ま、何せ高難易度ダンジョンを二つ連続して攻略したようなものだしな。普通に考えたら有り得ない事をした訳だし。こうした贅沢な休み方も悪くは無いか。
「うー……みゃん」
「だ、ダメなの……それは、双葉の……イフルー……なの……モグモグ」
……一体どんな夢をみているのやら。いや、双葉のは何となくだが解る気もする。必死に手を伸ばしたり口に持って行ったりしてるからなぁ。
イオはイオで、何と言うか……母性本能? 尻尾でうさぎや猫達の背中を撫でている。撫でられた子達は、なんとも落ち着いた雰囲気ですやすや眠っているなぁ……気持ちいいのかな。
そして、やはりそんな輪に入らず一匹で我関知せずな風。……やはり鳥系の仲間を探してやるべきだろうか。
「それにしても、兎型のモンスターって角が生えてるけど、アレ寝ている状態で相手を突き刺したりしないんだな」
「そのようじゃな。こう、イオちゃんに突き刺さっている様にも見えるのじゃが……あれは普通に当たっているだけの様じゃしの」
イオに当たる角は、イオの体をふにんふにんとするだけ。もしかして尖ったりしていないのだろうか……とは言え、戦闘中に見た時は相手にグサッ! と突き刺さっていたはずなのだが。
やはりこういった事もモンスターファンタジーと言った処なのだろうか。
「そういえば、研究所にコアを持って行ったと言っておったが厄介事にはならなかったのかの?」
「あー……うん、其処は大丈夫にはなったかな。ただ、やっぱり婆様に渡して正解だったって感じ」
「そうじゃろうなぁ。こう、研究者達の行動が容易に想像ができるわい」
研究所に俺達が行くと、案の定と言うか何時もの様に研究者の波に襲われた。
まぁ、それだけなら何時もの事なので問題は無かったのだが、彼等の鼻は実に優れているのだろう。俺達が「婆様に用事があるからまた後で」と告げると、何やらお宝を持っているに違いない! と、更に俺達を確保しようとして来た。
そんな状況だと簡単に抜け出す事は不可能だ。力押しで通ったら俺達のスペックだ……誰かが怪我をしてしまう。さて、どうしようか? と悩み始めた時にヒーローの如く婆様が現れ一喝。
「お主等自分の持ち場に戻らんかい! 戻らぬのじゃったら……配置換えも考えるのじゃ!」
と……まぁ、彼等にとって自分の好きな研究が出来る部署に配置されているので、配置換えなんて話は彼等にとって死刑宣言と変わらない。
結果、蜘蛛の子を散らすかの様に研究者が素早く散って行き、俺と美咲さんは開放された。
とは言え。
研究者とて気になった事は知らねば気が済まない。彼らは連携して俺達の話をこっそりと盗み聞ぎしていた。
で、婆様にコアを見せたところで彼等は再び突入。是非とも自分達にそのコアを扱わせてほしい! と、土下座まで開始。
「お主等……因みにこのコアを任されたら何に使うのじゃ?」
婆様とて研究者だ。自分以外の者がコアをどんな事に使うのか、どのような発想が有るのか気にならない訳が無い。更に土下座までしているのだから、聞かざる得なかったのだろう。
しかし、返ってきた答えは斜め上にぶっとんだもの。
「宇宙戦艦を作ります!」「戦艦よりも移民船団の母艦だろ!」「それなら、星を作るのが良いのでは?」
と、海すら渡れないこの状況下において、空どころか宇宙に関わる物を作ると言い出した。……資材とかどうするんだよ。現状でも全く足りていないのに。
そして、そんな答えを持ってきた彼等に婆様は……表情を消した後、仏のような笑顔を彼らに見せた。一目見て分かったね。あぁ、これあかん笑顔だって。
でも、彼等は最初の表情が消えたのを見ていなかったのか、婆様の笑顔をみてコアを預けて貰えると思ったのだろう。実に嬉しそうな顔で婆様の返事を待った。
「……そんな阿呆な話があるかい! よく考えるんじゃこの馬鹿弟子共! どうやって宇宙まで飛ぶつもりじゃ! 資材は? 食料は? そもそも宇宙に行ってどうするつもりじゃ!」
そして、婆様から落ちる雷。うん、そんなもの造っても現状どうしようもないからね? 村や街の人の事を考えたら、そんな物を作るより、食料製造プラントでも作った方が何倍も為になる。
その後、婆様による弟子へのお説教は数時間にわたって続き……何故か、俺や美咲さんはその場から動くことが出来ず、彼等が怒られる様を終始見る事になってしまった。
お説教が終わった後、俺達の存在を忘れていた事に婆様は気が付いたのだろう。なんともばつの悪い顔をしながら謝罪をして来た。
「で、コアは婆様が管理・調査する事で一応纏まったかな。何を作るのかはコアで何が出来るか調べてから決めるみたい」
「当たり前の話なんじゃがのう」
調査してから作る物を決める。うん、爺様の言う様に当然の話だ。だと言うのに、あの研究者達は作る物ありきで話を持ってきたからなぁ。せめて先ず調査をします! と最初に言っていれば、あそこまで婆様の雷が落ちる事は無かっただろう。
ズズ……っと、再びお茶を啜る。ほんのりと甘いお茶は、一緒に用意された塩気のある揚げ豆と合うな。
と、そんなまったりとした空間を過ごして居たら、どうやら美咲さんが起きたらしい。
「おはよーございます……なんだかぐっすりと寝ちゃったかな」
「おはよ。ゆっくり寝れたみたいで良かったよ」
「ゆいの寝相は大丈夫じゃったかの?」
うん、美咲さんはゆいの部屋にお泊りしたんだよね。こう、ゆりも一緒になって女子会と言う事らしい。いったい何を会話して居たのやら。
「あはは、大丈夫でしたよ。ゆりちゃんもゆいちゃんも寝相は悪く無かったですし。それよりも、私だけ起きれなかったから迷惑じゃなかったかと」
ゆりもゆいも既にそれぞれ行くべき場所へ行ってるからな。その際に美咲さんが起きない様にゆっくりと静かに部屋を出たみたいだ。
「あ、イオちゃん達可愛いね! 一つに丸まってる」
「なんだったらあそこで一緒に丸くなってみる? きっともふもふとして気持ちいいと思うよ」
「そしたら二度寝しちゃうから……凄く誘惑される話だけど我慢かなぁ」
ま、それは其れで悪くないと思うけどね。……うん、後でイオ達に混ざってモフモフとしてみようかな?
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