三百九十三話
もう終わりだろう。とまぁ、そんな願いは叶う事無くウェーブが続いていく。
土魔法を使って地面に凹凸を作り車の動きを阻害する。が、次の瞬間にはダンジョンがさくっと地面を修復し、この魔法で得られる効果は一台程度。
双葉が蔦を使ってトラップを作り上げる。絡みつく蔦により巨大人形が転倒し、それを皮切りに事故が多発。とは言えそんな足元に作られた蔦も速攻で撤去されて行く。
どうやら地面を操作したり設置したりする攻撃方法はダンジョンにより妨害されるようだ。
「ダンジョンの修復早すぎるだろ……」
「まぁ、高速で走る系のモンスターだから、地面がフラットな方が良いのは解るけどね」
まぁ、美咲さんの言う通りなんだけどさ……こう、コストとかそう言ったものは無いのかと言いたい。普通に考えて修復速度が速すぎるのだから、このまま破壊していけばそのうち限界を超えてしまうのでは? と考えられるけど……そんなの気にしない勢いで修復している処を見れば、もしかしたら限界など無いのかもしれない。
「それにしても厳しいな」
「そろそろどっちかがカード切っちゃう? 片方が使えば戦闘少しは楽になるよ」
「あー……でも、何処までウェーブが続くか解らないからなぁ。タイミングが読めない」
ただ、使うタイミングがー……なんて言ってると、RPGゲームをやって居る人の中に何人か居る、エリクサーをラスボスですら取って置いてしまうなんてパターンに陥る。
まぁ、ボスを倒したからはい御終いという訳では無いので、いくらでも取っておいて問題無いと言えば問題無いのだが……。
さて、どうしたら良いだろう? なんて考えながら戦っていたら「ミャン!」とイオが一鳴き。それに合わせて、双葉が「イオちゃんゴーなの!」と叫んだ。
何をする気だ? とチラリとイオの方を見てみたんだけど……。
「あれ? イオが居ない?」
「え? あ、あれ? 本当だ! 何処行っちゃったの!?」
見えないならば魔力の反応は? と探ってみる物の、偶にイオと双葉と思わしき魔力が引っ掛かるが直ぐに消える。
引っ掛かっては消え、引っ掛かっては消えを繰り返している処から考えると、どうやらイオはリッチの特訓で何かを掴んだのかもしれない。
「あ、魔力探査に引っかかった瞬間に、モンスターが倒れてるな」
魔力による身体能力の向上から来る高速移動以外にも、どうやら動きによって意識の外へと一気に飛び出しつつ気配を消しているのか、とても上手なステルス行動を取っている。
魔力自体も丁寧なレベルで隠しているのだけど、まぁ、攻撃する際はその操作が甘くなるのかサーチに引っかかるようだ。
「……モンスターが魔力操作を人間並みに出来るようになれば素晴らしい事になるってリッチが言ってたけど、こういう事か」
「うわ……うわ!? 目でも魔力でも追えないよ! レーダーでも一瞬点滅するように出て来るだけだし!」
「流石イオと双葉って事かな。うん、全く捉えきれないな……うーん、リッチの訓練でイオに追いついたと思ったんだけどなぁ」
どうやら俺がどのカードを切るか悩んでいたからか、イオ達は自主的に俺達が温存できる様にと動いたんだろう。
ただ、俺達の会話が聞こえていたのか、褒められた! と、気分を高揚させたようで、モンスターの殲滅スピードが二割ほど上昇した。……うん、こういう処はまだまだお調子者のようだ。
とは言え、やる前に一言教えて欲しかったとは思わなくもない。だって、いきなり消えたら心配するだろう。
と、そんなイオ達の活躍により一気に人形や車両達が破壊されて行く。
そして、その活躍を見た風が珍しい事に暴走を開始した。……どうやら、イオ達にあてられたようだ。
「ピュィィィ!!」
「風ちゃん!?」
風が空へと舞い上がり、周囲にある空気を操作し始める。うん、風はその名前の通り風の魔法を得意としていて……あれ? 俺と契約している精霊のウォルと被るな。
とまぁ、風属性の魔法を通り道として作り出し、其処にグレネードを連続で投下。
グレネードが風の道を通って行きモンスター達へと直撃し……爆発。それを上空から何度も何度も繰り返していく風は正に爆撃機と言える。
「……風ちゃんが暴れてる! 何時も余り攻撃的にならない風ちゃんが暴れてる! は、反抗期かな!?」
「いや、ただイオ達に引っ張られてるだけでしょ」
確かに何時もは警戒任務に徹している部分があるからな。こういった攻撃に転じる事なんて命令しないとないのだから、吃驚するのも当然と言えば当然か。
とは言え、イオ達モンスターズの活躍が凄まじく、回復調整の為に一体取っている訳でも無いのに……俺と美咲さんは多少の休息状態と変わらない状況になってしまった。まぁ、何処から敵が来るか解らないから気は抜けないけど。
「しっかし、全員の特訓成果が見れるとはねぇ……イオはステルス性能とでも言えば良いのか? それが向上して、双葉はどうやら操れる蔦の量が増えてるみたいだし、風は風魔法の精度とかが上がってる」
「前も風魔法でグレネードの落下位置調整はしていたけど、結構ズレたりしてたしね」
これはご褒美を奮発せねばなるまい。こう、高級品である植物ダンジョンのドライフルーツかグミを大量に用意しておくとするか。
そんな全力を出したイオ達だけど、当然だがその状況を長時間続けられるはずが無い。
全力を出せばスタミナ切れを起こす。それはモンスターであるイオ達も同じだ。なので、このウェーブを乗り切る少し前からイオ達はペースを落とし始めた。
「よっと、この軽車両相手なら接近して張り付けば楽に制圧出来るな」
車が相手なら加速する前に正面を抑えれば良い。前輪が地面に設置しないようにしながら持ち上げてしまえば動かないからな。
ギュルギュルと空転する前輪を見ながらイオ達の回復を待つ。……とは言え、軽車両なら楽々持ち上げることが出来るか。今の俺なら片手でも余裕だな。
しかし、回復を挟んでいるとはいえ、始めに比べ消耗して行っている事には違いない。
イオ達が次に全力を出すのは、恐らく此処を攻略するまでの間には無理だろう。傍から見てても解る、アレは相当魔力を消費して行動しているのだと、俺の精霊憑依と似たような物じゃないだろうか。
「とりあえず、次からイオ達はフォローで頼むよ」
「ミャン」
「解ったの!」
元気よく返事をしているように見えるが、声に張りが無い。うん、やはり疲労が抜けきってないようだ。とは言え、これ以上回復しようと思ったら先ずこのダンジョンから出なければならないだろう。
精神的な回復が無いと、正しく体も休まらないからな。
と言う事で、此処からは俺と美咲さんがメインだ! と言う意思表示。と言う名の軽車両破壊。
すると……何やら今までと違う変化が起きた。
なんと、駅の正面が左右に分かれたでは無いか。……いや、扉が開いたとかなら解るけど、駅が真っ二つにってどういう事だよ。
「何!? 何か出て来るの!?」
「みたいだな……って、やば!! ウォル! 精霊憑依!! からの風障壁展開!!」
駅が真っ二つに分かれた場所から、白く巨大な何かが物凄いスピードで飛び出して来た。
出来るかどうかわからないが、此処でこれを止めないと多少回復したとはいえ、疲労を蓄積しているイオ達に避けられる可能性は低い。
なので、精霊憑依と同時に風の精霊魔法による障壁を作り上げ、更にマナシールドを展開して全員の前へと出る。
「止まれ!! って、こいつリニアかよ!!」
障壁とシールドにぶつかった事で、白く巨大なそれがリニアだと発覚。ただ、其れで止まる気配が無い。展開した障壁とシールド毎押される。
「イオ! 今の内に移動! 美咲さんは「ユニゾン!! 協力するよ!」……助かる!」
二人でリニアの突撃を受け止める……うん、普通に考えたら有り得ない構図。だけど、なんとか押さえられているのはリッチの特訓による効果だろう。
「ミャン!?」
「大変なの!! 他にもモンスターが出て来たの!!」
そう言われ、確認はしておく……まぁ、防ぐので精いっぱいなんだけどな。
「……って、まじか。今までのモンスター達以外にも電車シリーズ出て来てるじゃん」
「新幹線も居るよ!? これ、かなり不味くない!!」
不味いというより、直ぐ何か手を考えないと全員纏めてぺしゃんこにされるぞ。
だってこのリニアと言い、新幹線と言い挟み撃ちにする気まんまんだからな。……うん、まじでヤバイ、どうしよ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
イオのスタイルはアサシンまっしぐらといった処でしょうか。双葉はライダーですからね……蔦に特化されて行きそうです。風ちゃんは、お空を縦横無尽に飛ぶだけで充分脅威でしょう。




