三百八十九話
「か、駆け抜けるんだよぉぉぉぉ!!」
「ハイヨー! イオなのぉぉぉぉ!!」
「ウミャァァァァァァ!!」
思いっきり叫びながら全力でダッシュ。
ただ、普通にダッシュしていてはダメな状況なので、リッチの言う〝中途半端な精霊憑依〟を敢えて使用している。
何故かと言うと、実はこれにも利点があったりするからだ。リッチとの特訓で覚えた〝完全な精霊憑依〟だと、その効果が高い分使用する魔力量も体力も比では無いぐらいに高い。逆に、この〝中途半端な精霊憑依〟であれば、その消耗する力を抑えることが出来るからだ。
なので、この中途半端なものに別の名前を付けて技にしてしまう事にした。
「結弥君のその〝精霊纏い〟早すぎるよぉ!?」
「そういう美咲さんもアラクネモードだから直線のスピードは速いじゃないか!」
時々、アラクネの糸を壁に飛ばしてそれを引く事で加速している美咲さんだが、アラクネレッグによる加速自体もかなりのモノがある。
現状の速さでいうなら、俺が最速でそれにイオや風が続きアラクネモードを使って居る美咲さんの順番。双葉はイオに乗っているのでランク外だ。
ただなぁ、素の状態だと俺が一番遅い。……美咲さんのアラクネアーマーって、通常モードでも何やら加速装置が付いているのか早いんだよな。
と、それは良いとして、何故俺達が全力疾走しているのかと言うと……それは、背後に迫る光が原因だ。
ファーと時々聞こえて来る音と共に、ガタガタと震える振動音。それに加えて徐々に迫ってくる光となればもうアレしかないでしょう。
「てか、何処から出て来たんだよ! 地下鉄の電車が!!」
「しかも、スピードも可笑しいよ!? あれ、絶対速度守って無いよね!」
「そりゃ、駅に止まる必要無いからな!! 何しろあれ、無人だっただろ!」
確か地下鉄の最高速度は七十キロから八十キロ辺りだったはず。でも、迫りくる電車は百五十は超えているはずだ。……とは言え、そんな速度で走る電車に徐々に追いつかれているとは言え、走って逃げれるのは……なんとも人を止めてしまった気分になるな。
ただ、全力疾走と言いつつも最高速度を出している訳では無い。うん、スタミナ切れが怖いからな……何処まで電車と鬼ごっこをしないと行けないか解らないし。
まぁ、このまま避ける場所も無く鬼ごっこを続けるなら何処かで対処しないと行けないのだけど、その場合は後ろにターンして攻撃でもしないと行けない。その場合、ぶっちゃけ間に合うか? という疑問がある。
因みに、逆側に逃げるのは無理だ。逆側も何処からともなく電車が猛スピードで通過しているからな。
「あ、前方に何か光が見えるよ!」
「む? 駅のホームか何かか! それなら、一気にあそこに飛び込むか!!」
随分と近くまで迫って来た光と音。
ただ、目の前に見え始めた光景はどこぞのホームだろうと思われる様なソレ。
「よし、全力で加速だ!! ホームに飛び込めぇぇぇぇぇぇ!!」
見えていた光がホームだと解ったので、一気にスピードを上げて駆け抜ける。うん……少し電車との距離が空いたな。
とは言え、これは本当に体力と魔力の消耗が激しくなる。何せ、毎回踏み込む瞬間に足に魔力を纏ってからウォルの後ろ脚に触れているからな。爆発的な加速を得られる代わりに体に来る負担と使用魔力は半端ではないという訳だ。まぁ、〝精霊憑依〟では無い〝精霊纏い〟だからこそ出来る走術という奴だな。
「せーの! ぴょぉぉぉん!!」
何やら隣で美咲さんが力の抜ける様な掛け声をしたけど、やってる事は全く間違ってはいない。
ダッシュした勢いのまま、ピョンと飛んでホームへと転がり込む。
体を丸くしながらゴロゴロと転がり勢いを殺して、静止する少し前に姿勢を整えてからモンスターに襲われても良い様に周囲を警戒。
「……よし、クリア」
何やら、片手を地面に着けて足を軽く開いている体勢。普通に考えれば香ばしいというか、ちょっと厨ニ病臭いポーズみたいにみえるけど。転がった後に姿勢を制御するためだから仕方ないよな。
周囲にモンスターが居ないのを確認したので、その流れで美咲さんやイオ達の様子を見る。……うん、実に普通の体勢だな。……ずるいよな、これだから四足歩行以上は。
「ふぅ……吃驚したなぁ。まさか電車とは」
「だね。でも、何とか躱せたし……此処から新しいフィールドみたいだね」
「だな。ってか、美咲さんは少しずるく無いか? そのアラクネモードだと……自分の足では一切走ってないし」
「えぇぇぇ、まって!? 自分で走らない代わりにかなりの魔力を消費するんだよ! これ!!!」
八本の足で爆走するアラクネモード。それは自らの足を地面に着けて動くなんて事は無いので、見た目は凄く楽そうである。
とは言え、魔力を大量消費すると言うのは聞いてはいる……が、俺も精霊魔法を使ってた訳だから、魔力と体力両方がっつり削れているんだよなぁ。
とは言え、いきなりお互い消耗した訳だしな。
「ちなみにどれぐらい消耗した? 俺的には割と休憩が必要な気がするんだけど」
「あー……うん、私もかな。別に戦闘しろと言われたら十分出来るけど……何が起こるか解らないからね。電車なんて物に追われた訳だし」
だよな。何と言うか、モンスターと言えるような姿をしていないのでどう対処したら良いのか解らない。
そして、観察しようにも……あの電車は流石に早すぎんだろ。正確な速度は測れなかったけどさ。
「うーん……しかしモンスターであれば、タイプ的にはゴーレムとかそんなのと同じか?」
「かなぁ? 人乗ってなかったし、殺意垂れ流しで追って来たし」
「ミャゥ!」
「ピュィ」
「イオちゃんも風ちゃんも、アレはモンスターだって言ってるの! それなら何処かに魔石があるはずなの……でも、それを察知する事が出来なかったの」
ふむ……魔石が察知出来なかった電車型のゴーレムか。何とも厄介な相手の様だな。
この場合どういう可能性が有るだろうか? 例えば……こう、ブラックボックスみたいなのが有って、其処に隠されているとか。
何両かの編成で縦長となっており、後ろの方に配置されているとか。
後は、そもそも電車に無いパターンもあるか。こう、管制室? とか、レールの何処かに仕込まれて居るパターンだったら、そもそも相手にするだけ馬鹿らしくなる話だ。
「考えれば考える程……アレとの対決を避けてホームに飛び込んだのは正解だったな」
「結弥君が言った最後の奴なんて対処の仕様が無いよ……」
「だな。それに、モンスター化している電車にどうやって乗るんだ? って話もあるから、電車に仕込まれているパターンでも対処が厳しすぎるな」
まぁ、そのパターンなら全て吹き飛ばせば良いという方法もあるけど。ただ、あの速さで突進してくる相手だ……生半可な方法では防げないだろうし、破壊出来たとしても下手をしたら破片が此方に飛んで来て自滅するパターンだってある。なので、戦い方はよく考えないと行けないだろう。
「とはいえ、流石にホームにまで突撃してくる事は無いだろうしな」
「そういえば、あの速さで走って良く脱線しないよね……」
「そこはモンスター化したからだろうなぁ」
「モンスター化……恐ろしいの!」
いやいや、双葉さん貴女もその恐ろしいモンスターさんですからね? まぁ、見た目に性格もめっちゃプリティーですけど。今も、その動きに美咲さんがやられて双葉を抱きあげている。
「さて、休憩も十分とれたかな。そろそろ探索再開と行きたいけど……これ、上がって行ったら何が有るんだろうな」
「地下鉄の上だからねぇ……やっぱり駅とか?」
「まぁ、それはそうなんだろうけど、嫌な予感が拭えないんだよなぁ」
だってほら……平時の頃に都心の駅地下と言えば、ダンジョンと言われるぐらいに人を迷わせる広大な施設があったんだぞ?
もしそれらが本物のダンジョンに飲み込まれているとしたら……正直どうなっているのか怖すぎるよな。
「もし此処があの駅だったら……妹達と崩壊の少し前に来た事が有るんだよなぁ」
「私もお父さんと来たなぁ。確かその時に結弥君達へのお土産をお父さんと悩みながら買ったんだよねぇ……懐かしいなぁ」
なんとなくノスタルジー。
もう戻って来る事が決してないあの賑わい。人の混み具合がウザく人ゴミめ!! と感じた事すら、二度と無いんだと思えば、何もかもが懐かしくそれでいて楽しかったとさえ感じる。
「……待っているのは人混みじゃなくて、モンスターラッシュかもしれないけど」
……美咲さん。それは解ってるけど口に出さないでおこうよ。折角思い出にふけっていたのに台無しだよ。
とは言え……パンパンと顔を叩いて気を引き締めなおして置く。うん、此処は美咲さんが言う様にモンスターが出て来るダンジョンだ。ノスタルジックになるのは全てが終わってからで良いだろう。
「それじゃ、行くとしようか」
「オッケーだよ!」
「はいしどーどー! イオちゃんなのー!」
「ミャーン♪」
「……ピュィ」
何やらテンションが高い双葉とイオに風が付いていけてない様にも見えるが、まぁ、やる気は十分の様なので大丈夫だろう。
さてさて、それでは何が出て来るやら。まぁ、ゴーレム系だとは思うけど出来れば普通の奴でお願いしたい処だ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
という訳で、折角な場所ですからそこに見合ったモンスターを(まて
第一弾は地下鉄に走る電車でした。もう、これを出したら後は予想出来るかと思いますが、ネタバレせずに見守っていただければ幸いです。




