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三百八十三話

「吠えろ、豆柴!!」


 アラクネに大打撃を与えた必殺技。

 魔力を纏った手で豆柴の口に触れ、もう片方の手で鋼系魔法を使う。すると、あの時と同じ様に小さく細かい鋼の刃が竜巻に乗る。


 そんな竜巻がリッチを襲った訳だが。

 

「ふむ……中々に面白い技ではあるが、小手先に過ぎんな」


 襲ってくる竜巻を片手で受け止めるリッチ。

 そして、開いた骨の掌をグッと握る動作をすると、あれ狂っていた竜巻が何事も無かったかのように消えてしまった。


「そんな!? なら、これだったらどう!!」


 竜巻が消された事に驚愕した美咲さんだったが、直ぐに復活し独自に出来る行動を開始。

 彼女は魔導弓を取り出しリッチに向かって魔法矢を射る。その魔法矢は、途中からバラバラに分裂・増殖をしながらリッチへと向かう。……が。


「吾輩相手に魔弓のなりそこないを使うとは……愚策ぞ?」


 まるで鬱陶しい羽虫でも振り払うかのような動作で、増殖した魔法矢を全てかき消した。一体どれだけレベルに差があるんだよ! と思う。ただ、逆にこれだけの相手が特訓をしてくれているのはかなりありがたい話だろう。


「まだまだ! 炎プラス尻尾!」


 燃え盛る炎と風による鞭。

 ズタズタに切り裂きながらも相手を燃やす技のハズなんだけど、リッチはどうやったのか解らないが……炎と風で出来た鞭をガシッと掴んで離さない。

 可笑しいなぁ……本来だったら捕まれようがすり抜けるはずなんだけど。それ以外にも、掴まれた部分だけ切り離してそのまま違う場所を打つ事だって出来る。……ハズなのに、何故か尻尾の鞭が動かない。


「本当に惜しい。方や精霊魔法、方や通常魔法の合成とはな。しかしこの状態では先ほども言うたが小手先にすぎん。童が真の憑依状態でこの魔法を使えば実に素晴らしいものだろうに」


 むぅ、やれやれと言った感じの態度をするリッチ。正論だけに何も言い返すことが出来ないな。

 ……まぁ、それを身に着ける為にこうして強引な強化と言う戦闘をしているんだけど。


「ほれ、嬢ちゃんの方も集中が足りてないぞ? もっと魔物と言うモノ、魔石と言うモノに触れるが良い」


 そう言われて、魔石がある部分に手を持って行く美咲さん。……いや、物理的にと言う意味じゃないと思うんだけど?


 リッチの言っている事はといえば、精神的に、魔力的に、魂的に触れろと言う事だ。

 うん、言いたい事は解る。解るけどどうやってだよ! と言うのが俺達の感覚。実際、物理的には触れているし、会話だってしているのだからそれ以上何をしろと?


「ふむ、現状ではまだ解らぬか……もう少しピンチになったらわかるだろうか? よし、吾輩の力の一部を見せて進ぜよう」


 そうリッチが告げた途端、周囲の空気が一変し、何処からともなく現れる甲冑なリビングアーマー達。


「情報や知識から来る想像。そしてそこに魔力とダンジョンの力を加える事で創造となる……どうだ? 面白かろう?」


 いやいや、何も此方としては面白くありませんからね!? てか、ダンジョンの力を使ってる時点で純粋なリッチの力じゃないじゃないか。


「何を言うておる。吾輩がこのダンジョンを乗っ取ったのだぞ? であれば、このダンジョンの力は吾輩の力である」


 何という暴論だ。とは言え、確かに十全に使いこなしているみたいだからなぁ。


 とは言え、これはイオ達の安全が確保されていると言う意味ではよかったかもしれない。

 何せ、これは俺と美咲さんのステップアップの為にリッチがやって居てくれている事。であれば、イオ達の力を借りる訳には行かないという訳で、リッチ自身がイオ達に結界を張り、外に出れない代わりにどんな攻撃も防いでくれている。

 てか、そんな結界を片手間に張りながらも、俺達を相手にしているんだよなぁ。


「ほれ、呆けて負って良いのか?」


 リッチがそう言いながら、上げた手を振り下ろしたその瞬間、四方八方から火縄銃が火を噴いた。


「シールド展開!」


 ガガガガガと削れるシールド。てか、これ普通に火縄銃の威力じゃないよな!


「ふっふっふ。吾輩が何の手も加えぬと思ったか? 童達との闘いを見て既に改良を施しておるわ」

「ちょっと!? シールドが持たないよこれ!」


 美咲さんの慌てる声が聞こえて来た。ただ、それは解ってる。何せ俺のシールドも少しずつ薄くなっていると言うか罅が入りかけているからな。


「どれ、ひと押しするか。吾輩の魔法もお見せしよう……〝ダークプリズン〟」


 防戦しかしていなかったリッチが攻勢に出た。そして放たれた魔法により周囲の空間が一気に真っ暗に。


「暗すぎるか……美咲さん何処だ? 光系の魔法で周囲を照らせないか?」


 ……返事が返ってこない。あれ? 暗くなって音すら聞こえなくなったか? 一応、豆柴の気配は感じるから憑依は解けていない。うん脳内に「ワフゥ」と鳴き声が響くし。

 魔力探査は……ありゃ、誰も引っ掛からない。と言う事は、調査系の魔法は弾かれているって事か。


「おーい! 美咲さーん、イオ、双葉、風……この際リッチさんでも良いや、誰か聞こえないか?」


 声を掛けてみるが、虚しく木霊するどころか声が何処かへ吸い込まれて消えていく感じが……うーむ。結構やっかいな魔法を喰らったみたいだな。


 とりあえず、色々な魔法を撃ち込んでみる。

 念のために、この状況になる前に美咲さんやイオが居ただろう方向は避け……恐らくリッチが居ただろう方向に向かって。


「豆柴どんどん行くぞ!」


 「ワン!」と脳内で肯定の鳴き声。

 憑依系の精霊魔法、それ以外にも属性系の魔法を試していくが、何の反応も起こらない。

 マナブレードを取り出して、赴くままに振り回してみるがただ空を切るのみ。頼みの綱と言える時空間魔法も効果が無かったし、八方塞な状態だ。




 何をやっても無駄! と言う事で、どうせだから魔力や豆柴について考えてみた。

 そして、気が付いてしまう……うん、俺この状態になってからどれだけ時間が経ったんだ? 色々試している時や思考して居る時は気にもならなかったけど。


「暗くて音も無い……時間の感覚が解らないか。これ、豆柴が居なかったら狂ってたんじゃないか?」


 話し相手も居らずただ一人でこの場に居た場合を考えゾッとした。うん、豆柴さまさまだな。


「と言うか、豆柴は何で俺と契約したんだろうな。前にも聞いた事が有ったと思うけど……魔力が美味しいからだったっけ」

「ワフ」


 魔力に味なんて有るのかね? どれどれ……と、魔力を一ヶ所に集めてパクリと食べてみる。


「こ……これは!」


 美味い!! なんて事は無く、全く良く解らなかった。どうやら精霊の感覚を理解しようと思っても難しいらしい。

 てか、精霊憑依をしている状態なんだから少しは解っても良いと思うんだけどな。


「クゥン?」

「あ、うん、少しどんなものか知りたかっただけだよ。同じ目線? に立てたら見えて来るモノもあるかと思ってな」

「ワゥ!」


 どうやら豆柴には俺の行動が不思議に見えたようだ。まぁ、突如自分で作り出した魔力を自分で食べるような真似をしたのだから、可笑しく見えるのも当然か。

 ただ、言っている事は理解出来たらしく、何やら「任せて!」と吠え、豆柴の口がパクパクと動いた。……なんか可愛い。


「って、あれ?」


 パクパクと豆柴がやる度に、何か薄っすらと感じる。


「ワフワフ!」

「え? これが魔力の味だって?」


 ……薄っすらと感じるだけの何かが味? 良く解らないような解るような不思議な感じだな。


「クゥーン……ハグゥ!」


 ただ、俺のそんな微妙な感覚が伝わったのか、豆柴が今度はパクパクでは無く、大きな口を掛けて何かを丸のみでもするかのような行動。

 そして、その瞬間、なんとも言えない……気分が悪くなると言うか、苦いというかその様な感覚に。


「ウゥ……ワフゥ」

「うぇー……って、豆柴も気分が良くないのか?」

「アォン!」


 その通りだ! と吠える豆柴。そして、その感覚はこの空間が影系列の魔法で出来ている空間だかららしい。……ふむ、其れ系統の魔力は美味しく無いのか。まぁ、それもそうか、何せデバフ効果に全振りと言っても良い魔法属性だからなぁ。


「って、これが初めての魔力の味か……」

「ワン!」


 あ、もしかしてリッチが言っていた繋がりってこういう事か? 何か違う気もするけど……取っ掛かりにはなりそうだな。よーし、これを機に色々と試してみるとするか。

 どうせこの空間から出る方法も解らないしな。やれるだけやってみようか。


「な、豆柴」

「ワフゥ!」


 うん、いい返事だ。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!


五感を封じられ時間間隔も狂ったら、人間は直ぐに狂ってしまうそうですよ。

ただ、結弥には豆柴が、美咲にはアラクネ先生と魔剣達が居るので……なんとかなりそうです。

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