三百四十一話
懐かしの故郷! と言う程では無いが、随分と長い間離れていた気がする。
さて、そんな村に辿り着いた訳だが……いち早く帰宅したい処を堪えて、まずは協会に居る品川さんへと報告を済ませる。
とは言っても、基本的に行う報告は入谷さんと話した内容のままだ。
「はぁ……本当に話題に欠かさないわね」
などと品川さんが溜息を吐きながら苦笑していたけどな。
その後は特に問題になるような会話など無く、今後についてどうするかなどを決めた程度だろう。
まぁ、精霊憑依のお蔭なのか、それとも回復魔法が効果を見せたのか、アラクネに斬られた傷も今ではその痕すらない。……これで誰かを心配させるなんて事は無いだろう。
ただ、それだけの怪我を負ったり、長期にわたる遠征をしたのも事実なので当分は体を休める様に! と、品川さんからのお達し。
それならばお言葉に甘えようと言う事で、当分は村で休みながら数か月でどんな変化を見せたのか散策するのが良いだろう。
協会を後にし、次に向かったのは研究所。
自宅じゃなくて良いのか? なんて思わなくも無いが、魔剣や魔石に関しては早い方が良い。ぶっちゃけ、これも仕事の一環だしな。
そんな訳で研究所へと入ると、其処には目に隈を作りながら駆け寄ってくる研究者の波。
「おぉ! 白河君達が来たゾ!」
「ちょっと! 何処行ってたの! 数ヶ月よ数ヶ月! おかげであなた達が担当していた物のテストが溜まってるんだからね!」
「そんな事よりも、長期にわたっての遠征だと聞いたが、何か面白いモノは見つけて来たのか?」
……戻って来て早々、研究に着いての話題。いや、うん、個々の人は変わらないな。
「すみません。長期間ものあいだ此方へ顔を出せずに」
「協会の仕事だろう? それは仕方が無い事だ。それよりも早くテストをだな!」
「そうよ! 一杯試して欲しいモノが有るんだから!」
おぉぅ……これは此方の言いたいことを言えないパターンだ。
さて、どうしようか? と考えてみるがいい案が思い浮かばない。思わず美咲さんと顔を向き合って苦笑しあう。
「はいはい、其処までじゃよ。結弥達は今帰って来たばかりなのじゃからな。先ずはお帰りが先じゃろうて」
と、此処で婆様の登場。
そして、その婆様の言葉に研究者達が「あっ……」と言った表情をした。うん、お帰りも無事だった? も無く、テスト要求のマシンガンだったからな。
「婆様戻りました。えっと、少々見て欲しい物が有りまして」
「ほぅ! 何じゃろうな? お主等が持ち込む物じゃ、普通の物ではなかろうて」
「えぇ、ちょっと吃驚する品かと」
「師匠! 当然私達にも見せて貰えますよね!!」
っと、此処で研究者の一名が飛び出して来たか。まぁ、面白そうな物が出そうだから見たい! という気持ちはわかる。そして、そんな期待を叶える事が出来るだけの物であることは間違いない。
だが……。
「はぁ……お主等は通常の研究を続けるのじゃ! まったく、自らの要望を言うだけで、其れを言及されても訂正すらせん。そんな弟子には見る事など許可せぬ!」
「そ、そんな! 師匠横暴です!」
「どこがじゃ! おんしら……未だに「お帰り」の一言も言うておらんじゃろ!」
ま、研究馬鹿の集まりだからな。俺としては其処に期待はしてないけど……まぁ、せめて此方の話をするタイミングぐらいは欲しかった処だ。
とは言え、研究者の方々も婆様の言っている事は理解出来ている様で……「そんなぁ~……」と言いたげな、捨てられた子犬の様な目で此方を見て来るが、知った事では無い。寧ろ、此処で手を差し伸べたら俺が婆様に何をいわれるか……。
「さて、結弥と嬢ちゃんは着いて来るんじゃよ。お主等はシッカリと続きをやっておくように!」
そんな訳で、婆様に連れられて婆様の部屋へと移動をする。
その際、俺と美咲さん以外にも婆様が途中で捕まえた研究者……まぁ、笹田さんと共にだが。
「えっと、師匠……何の用でしょうか?」
「なぁに、お主は結弥達との付き合いも長いじゃろう? 少々面白いモノが見る事が出来る故に誘ってみたが……不要じゃったかの?」
「!? それは、お誘いありがとうございます!!」
「うむうむ! 素直でよろしい。して、結弥よどんな物なんじゃ?」
「えっと……まずは之ですね」
そういいつつ、先ずはアラクネの魔石を提出。
正直、此処までの質をもった魔石はこれまで見た事が無い。そしてまた、どういう訳か豆柴もこの魔石を取り込もうとしなかった。
「ほぅ! ほぅほぅ! これはこれは!」
「師匠、大きさと言い輝きと言い、とんでもないモノでは?」
「そうじゃな! これは……一体どんなモンスターから入手したのじゃ?」
「えっと、アラクネと言えば分かりますかね? そのアラクネから託された魔石です」
「そうか! ふむ……これは……」
ブツブツと何かを呟く婆様と笹田さん。もしかして何か良い使い方でも思いついたのだろうか。
「これほどの魔石ならば削る訳にはいかぬ。そして……もしかすると」
「師匠、あの計画に持って来いの魔石では?」
「かもしれぬな。先ずは……っと、済まぬ。少々お主等を放置してしまったのぅ」
「いえいえ、仕方の無い事かと。後、まだ実は見て欲しい物が有りまして」
「ふむ……この魔石の衝撃が凄すぎたのじゃが、未だあると言うのじゃな?」
「えぇ、此方も驚いていただければ」
次に二本の魔剣を取り出して見せる。
「ふむ……剣じゃな。なんとも素晴らしい一品じゃのう。其れに、不思議な力も感じるものじゃ」
「私達が作る武器とはまた違う感じですね。これはダンジョンからのドロップ品でしょうか?」
「いえ、それは先ほどの魔石の主であるアラクネが使用していた魔剣です」
「ほう……魔剣とな。と言う事は何か特殊な力でも有しておるのじゃな?」
「はい。魔剣はそれぞれ炎を操る能力と魔法を打ち消す能力を持っていまして、更に……良いよ」
「ふむ、こやつ等が新しい主が言っていた〝信頼できる研究者〟だな。よろしく頼む」
魔剣が言葉を紡ぐ。その瞬間に婆様の部屋は時が止まった。いや、正確に言えば、婆様と笹田さんの表情・呼吸・もしかしたら心臓まで一瞬止まっていたように見える。
「「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
「……煩い」
「こっちも喋った!? 喋りましたよ師匠!?」
「解っておるわ!! なるほど、結弥が勿体をつけて出す訳じゃ! これは驚愕の代物じゃのう!」
起動すると同時に興奮がマックスになる二人。其処からはあれやこれやと魔剣に質問ラッシュ。
火の魔剣は調子に乗っていると言うか、色々聞いてくる二人に気分を良くして饒舌に。
無効化の魔剣は少し面倒くそうな気配を出しながらも、ある程度は受け答えをしている。
「なるほどなるほど! 笹田よ! 儂等が求める究極は此処にある!」
「確かに! 私達ではフォローするだけで会話をさせるAIなど作れませんでしたから……しかし、一体どうやって」
「隅々まで調べたい処じゃが……意識を持っているモノじゃからな。スキャンや質疑応答ぐらいしかできぬのう……」
「それに、〝彼ら〟は白河君達を主としている様ですからね。人の物……しかも研究所に協力を惜しみなくしてくれる白河君達のですから」
「うむ、ただ、頂は見たのじゃ。辿り着いてみせるぞ」
「はい!」
……熱血している。冷静な婆様がかなり熱血している。これは初めて見た気がしなくも無い。
「そうじゃ! 良いことを思いついた! 結弥よ! この魔石と魔剣、儂に預けて貰えぬか?」
「えっと、元々調べて貰うつもりでしたので」
「そうか! よしよし! 儂自ら素晴らしくして見せよう!」
……なんだろう。婆様が手を掛ける? あの婆様が? 一体どんなことになるんだろう。
銃だって鎧だって武器だって、今まで婆様が直接手を出した物は無かった。どちらかと言えば、弟子を育てる為に色々とアドバイスはするが、見守るスタンスは崩さなかったあの婆様だ。
楽しみではあるが、かなり不安な部分もある。
いや、悪い方向で無く……とんでもない物を仕上げて来るのでは? と言う意味でだけど。
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と言う事で、研究所での一幕でした。
さて、婆様は一体なにをするのか……。




