三百三十一話
後の話は簡単に済んだ。何せ、目の前に豆柴が居るからな。とは言え、多少の問題が無い訳では無い。
問題その一。
豆柴が何を言っているのか解らないという事。どうやら双葉にも「ワンワン」やら「クゥーン」やらと普通の犬の鳴き声に聞こえる様で、全く通訳が出来なかった。
とは言え、豆柴にはこちらの言っている事が解っている様で……双葉が喋れるようになる前にイオ達と関わっていた時の状況と同じではあるので、多少困難は有るが意思疎通は其れなりと言った処だろう。
問題その二。
そんな豆柴に顔合わせとして狼達を飼育している場所に連れて行ったのだけど……なんと、狼達が本獣よりも小さい豆柴に対して、尻尾を巻き腹を見せ完全服従の姿勢を取ってしまった。
そこからはもう……狼達に何を言っても「クゥンクゥン」と悲し気な声で鳴くだけで、狼達に色々と言い聞かせるのに時間がかなり必要だったという事だろう。
まぁ、今となっては豆柴をボスだか兄貴だか姉御だとでも思っているのか、びしっと整列しながら突き従っている……それで良いのだろうか?
問題その三。
書類が飛び散った事で仕事が一気に増えた品川さん。
今、彼女は混乱に混乱をきたしていて……余計仕事を増やしてるんだよな。
書類を集めて、仕分けをしては……ずべっと転んで書類を散乱。それを見て絶望し唖然としたまま時間が過ぎるものだから……幾ら時間があっても足らない状況。まさに負のスパイラルと言うものだろう。
まぁ、見るに見かねた協会職員が、品川さんを強制的に休ませ書類をかき集めたりし始めたけどね。……使い物にならないから仕方のない話だけど。
当然、豆柴と狼達の対処は此方で勝手にやらせてもらったよ。一応、やりますと告げてから行ったので問題は無いはずだ。
さて、そんな豆柴だが……実は狼達との顔合わせを終わらせ狼と付き従えた後は、またもや満足した! と、言う顔をしたかと思えば、再び風を起こしながら消えてしまった。
もしかしたら、呼んだら来るかな? と美咲さんと冗談で「コール」だの「サモン」だのと言ってみたけど、豆柴が現れる事は無かった。……あれはタイミングが良かっただけだったか、神掛かったタイミングだったよな。
「まったく、本当に神出鬼没な奴だな。とは言え、また会えそうな気はするんだけど」
「ひょっこり顔を出しそうだよね。……面白そうな魔石を手に入れたら来るかな?」
あれ? なんだか豆柴が食いしん坊なイメージになってるな。
しかし、豆柴が魔石を取り込むシーンを見たけど、あれは一体どうなっているんだろう? 口に咥えたかと思ったら、そのままごっくんと飲み込んでたからなぁ。
それと、魔石以外のモノは何一つ食べなかったんだよな……精霊ってそういうモノなのかね?
「あー……でも、結局あの豆柴が現れたり消えたりする理由は解らなかったな」
「あ、そういえば最初の依頼って、頻繁に村の傍に現れるから理由を知りたいだったっけ……」
理由は不明。だが、敵対どころか物凄く友好的な雰囲気だから問題無いだろうと言った感じだろうな。
それに、協会としては一番問題とするべき点である、敵なのか味方なのか中立なのかと言った事や、モンスターの分布に変化が有るかどうかといった事が解決したので、依頼としては終了と言う事だそうだ。
まぁ、立ち入った理由が有るのであれば、あの豆柴の態度から見て何か伝えて来るだろうなと言った考えもあったりする。
そんな訳で、豆柴クエストを終了させた俺達は時間も出来た事だし、今後についての話をする事にした。
「で、次にアタックする場所なんだけど、昆虫は嫌なんだよね?」
「嫌! ある程度は慣れる必要が有るというのも解るけど、虫しか出ないダンジョンとかは!」
一刀両断。
美咲さんはそれほどまでに、大量に蠢く虫は嫌か。……まぁ、俺もそんな場所に態々足を踏み入れたくは無いけどな。
と言う事で、村から一番近く、パーティーとして未探索ではあるが、虫ダンジョンへのアタックは却下と言う訳だ。
では、何処に行くかなんだけど……。
「解っているのは海側に続く道にあるダンジョンか、海辺にあるダンジョンだっけ」
「ダンジョンの位置をマーキングした程度だからね……一体何が有るんだろう」
一応、ダンジョンの位置は協会に報告して、協会にあるデータベースから調べて貰っているけど……なんと言うか、色々忙しくて後回しになっている。少し前には品川さんがやらかしちゃったしね……いや、正確には豆柴だが。
「塩はどうなったんだろう? その後の話を聞いてないけど」
「もう見つかっているんじゃない? 邪魔さえなければだけど」
あの辺りはイーグル氏の研究所が有った場所だからな。何かとちょっかいを掛けられてないと良いけど。
まぁ、あれだけの戦闘が有った後だ、相手にちょっかいを掛けるだけの余力が有るとは思いたくない。
とは言え、邪魔になるのは別にイーグル氏だけでは無い。モンスターだって居るし、他の土地の人達だってどういう対応をして来るか解らないしな。
それに、あの海辺の街は……何かと爆弾を抱えてしまったからな。まぁ、一緒に復興の為にと協力する事で、少しでも亀裂を解消してくれたのなら良いけど。
そんな感じで、内側にも外側にも邪魔をしてくる可能性があるのが海辺の街だ。もしかしたら、まだ、塩の入手は出来てないかもな。
なんて考えてたんだけど。
「おーーーーーい! 戦車が帰って来たぞ! しかも、大量の物資が入ってやがる!」
思考を中断させる声とその内容。
ふむ、どうやら色々と上手く回っているみたいだな。不安要素が有ったけど、それは心配程度で終わったようだ。
そして、皆が集まるので俺達もその物資とやらを見に行ってみる。
「これ、凄いぞ!! 凍結されている蟹やらマグロやらサーモン!」
「あ、アサリにハマグリもある!」
と、思わず皆が叫んでしまう程の海の幸。あ、しっかりと塩が入った壺も大量に積まれているね。
ん? と言う事は、塩ダンジョンと同時に海の幸がドロップするダンジョンも攻略しているのか。むむ……之は出遅れた感があるな。
とは言え、これは随分と食糧問題の解決に繋がるだろう。
「で、皆楽しく騒いでるけどさ……これ、どうするんだ? 分けるにしても色々問題があるだろ」
「だよねぇ……もしかして、海の幸パーティー! とか言って、BBQでも始めるんじゃない?」
「あー……有りそうだな。お祭り好きだからなーこの村の人達」
と言うよりも、間違いなくやるだろうな。何せ、美咲さんの発言をこっそり耳にした人が居たのか「よし! 網取ってくる!」なんて大声で叫んで走って行った人がいるし。
まぁ、美味しく楽しめるから良いとは思うけど……これ、物資を貯蓄的に考えて大丈夫だろうか? まぁ、そこら辺はもう品川さんに頑張ってもらうしかないか。仕事が増えて大変だろうけど、後で栄養剤でも持って行ってあげようかな。
そんな訳で、空が赤くなるころには村中から人が集まり……一心不乱に海の幸を喰らうお祭りへと化した。
ただ、やっぱり蟹を食べる時だけはみんな静かだ。もくもくともぐもぐしている。
当然、イオと双葉と風もだ。いつも騒がしいゆいもまた、沢山食べるんだ! と、一切喋らずにもぐもぐしている。
「……ちょっと怖いな。さっきまで祭りだと騒いでいたのに、蟹が出て来たら静寂だよ」
「殻を割る音や咀嚼音だけが響いてるよね……」
パキポキベキ……ハムハムモグモグゴックンと、擬音祭りにでもなりそうな程。思わずホラーゲームの世界にでも来てしまったのかと、一瞬思ってしまった。
まぁ、その場合は食べてる者やモノが色々と目をそらしたくなるものになる訳だが。
「あ、サーモンの鮨はやっぱり至高だな」
「え? ここはエンガワじゃない? こう、炙って」
「あーそれも良いね。あ、茶碗蒸しが出て来た」
鮨も出て来たな。まぁ、美味しいモノを食べているんだ争いが起きる訳も無く。
「まて! そのアナゴは俺が取ろうとしたんだ!」
「ん? モグモグモグモグ。あー美味しかった。先に私が取ったんだから私の物だもんね」
争いが起きる訳も……。
「ちょっと!? 私がエビを食べれないの知ってるでしょ! なんでこっちに渡すのよ!」
「少し避けただけだろ!」
争いが……。
「あーん。お兄ちゃんがみさのプリン取ったぁ」
「お兄ちゃんでしょ! 我慢しなさい!!」
「えぇぇぇ!? 俺まだ一個もプリン食べてないのに!? みさはもう二個も食べてたじゃないか!」
争いだらけじゃねーか!!
「はいはーい。喧嘩をするなら広場からたたき出すわよ! そこ、プリンはまだまだ有るからね。後、アレルギーがある人は注意してね! 当然周りの人もだよ!」
見るに見かねた品川さんが、拡声器を使い注意していく。当然、職員の人達もそれに付き合い……あーあ、こういう時はそんな役割だねぇ。まだ彼ら……一切、海の幸を口にしてないというのに。
と、まぁ、一波乱は有ったが、海の幸祭りは大成功。これは、送って来てくれた人に感謝をしておこう。
そして、そんな祭りによって心身共に一気に回復したのか……俺と美咲さんの診断は良好という判定を貰う事に成功した。
なので、ダンジョンへと向かうために村を出発するべきだろう。
「え? お兄ちゃん達行っちゃうの?」
「そりゃ、ずっと村に居る訳にもいかないからな。まだまだ色々と手に入れないといけないモノが有るし、イオや風の仲魔も必要だろうからな」
「えー……うん……でも……そうだよね、イオちゃんもお友達欲しいよね」
双葉のお友達は植物ダンジョンに行けばすぐに会えるからな。イオと風に関しては正直な話、イオが一番ネックだろう。
風に関しては、それこそダンジョンから卵を発見出来ればOKだし。
だが、イオに関してはイオ以外を見たことが無い。まぁヤマネコだし海側じゃなくて今度は山側に向かっていくと良いかもしれないな。
「ま、ゆいが驚くようなモノがあれば持って帰って来るからな」
「うん……がんばってね!」
と、まぁ、ダンジョン探索の為に行動開始と行きますか。良いモノが手に入れば良いんだけどね。
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と言う事で、結弥と美咲の心身は回復しました。当然、食べ物が理由ではありませんwww
爺様に父と母に妹であるゆりとゆいがしっかりと支えたからですw
当然ですが、その事は二人も良く解っていますのであしからず。




