三百二十九話
村での生活は充実している。それこそ、このまま此処に残っても良いのでは? と思う程に。
と言うのも、村での仕事と言えば研究所から呼び出されては、試作品のテストや新規格の魔法を試し撃ち。……まぁ、その大半が使えないものだけど、面白くない訳が無い。
ただ、テスターと言う事で試験が無い時は手が空くという事で学校へ行き、臨時講師として探索者としての目線で見たモンスターの事を教えたりしている。まぁ、最初は子供たちも目を輝かせて聞くんだけど、途中からは「ヒィ!」とか「うわぁ……」と言う声が上がるぐらいには危機感を覚えさせる事が出来た。モンスターは決して隣人などではありません……まぁ、イオ達は別だけど。
実に充実しているんだ。
とは言え、俺や美咲さんは探索者だ。こんなぬるま湯の状態で居られるだろうか? いや、無理だ。
別に戦いを求めている訳でも無ければ、モンスターが怖くない訳では無い。ただまぁ……今の状況は楽しく充実しているとはいえ、落ち着かないんだ。
「……実に馬鹿みたいな話だけどな」
「焦ってる訳じゃないんだけどね」
楽しそうに笑ってる人達が、爺様達にシェルターの中で暗い顔をさせるのが嫌だ。ゆりみたいに片腕を失って絶望する顔を見るのが嫌だ。父さんと連絡が取れなくなって、心配そうに右往左往している母さんの姿は痛々しくて見ていられなかった。
そんな状況を再びなんて事にならない為にも、前へと進みたい気持ちが休んでいると胸の中からひょっこりと顔を出す。
きっと、無意識に焦っているのかもしれない。だって、まだ安全と言い切れるだけの物を用意していないのだから。
「それに、桜井さんも起きないからな。何かダンジョンに目を覚まさせるモノとか有れば良いんだけど」
困った時のダンジョンアイテム頼り。神に祈るな、ダンジョンから勝ち取れ! これは探索者の合言葉。
なので、一刻も早くダンジョンに潜りたい処ではある。有るが……問題はそんなアイテムが有るかどうかだろう。
「今までのダンジョンでは、その手のアイテムは出なかったよね」
「上級ポーションでもどうにもならないモノだからなぁ……特殊なポーションか、更に上のポーション。もしくは全く別の道具が必要なのかもな」
考えれば考えるほどに深みにはまるな。全く予想がつかないのだから仕方が無いけど。
まぁ、調査研究は研究員の人達がやってくれるのだから、少しでもヒントになりそうな素材を回収して来るのが一番の手助けなんだけどね。話しているように、そのヒントになりそうな物が何か解らないんだよなぁ。
とまぁ、そんな感じで村での日々を過ごしていると、協会からの突然と言える呼び出し。
なんじゃろな? と思いながら足を運んでみると、其処では品川さんが深刻そうなお顔で俺達を待っていた。
「あ、休暇中に悪いわね。ちょっと確認して来て貰いたい事があってね」
「一体どんな内容です?」
「覚えているかしら? あの豆柴の事なんだけど……」
忘れるはずが無い。アイツには一度命を助けて貰ったからな。
今なら恐らく倒せるだろうオーガだが、あの時は全く攻撃が通用せずあと一歩のところで! と言う場面まで追い込まれてしまった。
その時に颯爽と助けてくれたのが豆柴だ。……まぁ、本獣には助けた意思など無かったかもしれないが。
「で、その豆柴がどうしたんです?」
「ほら、豆柴には魔石をお供えしているでしょう? それ自体は欠かして無いのだけど、最近豆柴が村の近くまで来ているみたいなの」
おや? あまり動かない豆柴が動いていると……とは言え、全く動かない訳では無いからな。そもそも、動いていなければ俺は助けられなかった訳だし。
とは言え、その顔を見せる頻度が増えれば一体何かあったのだろうか? と、気になる……なので返事は決まっている。
「良いですよ。全く知らない顔と言う訳でも無いですし、それにあの豆柴が暴れた時、村の中で対処が出来てで動けるのは俺達ぐらいでしょうし」
中級以上の魔法が使えるのは解っている。だから、あの豆柴と相対した時は相当な実力が無いと無理だろう。それこそ、ダンジョンを踏破できるレベルで。
ただ、常時であればそのレベルに達している者も村には居る。居るのだが……今その数を下手しているからな。
その理由と言えば、結構な人数が海辺の街へと援軍に出てしまっているから仕方のない話だ。
という訳で、俺達はいつもと違う行動を数日取っているという豆柴の様子を見に行くことにした。
イオと双葉を先頭に、風が空から警戒し、中間を美咲さん、最後尾を俺と言う何時もの編成で森の中を進む。
「何か探したりしてるのかな?」
「何かって……魔石か? こう、美味しそうな魔石の匂いに釣られて顔を出したとかだったら可愛いのだけどな」
「確かに!」
食べ物の為に移動をする。まぁ、当たり前の行動なんだけどな。俺達だって塩や海産物の為に海を目指した訳だから。……まぁ、塩はその割合を占めていたけど。
とは言え、其れであれば話は楽なんだ。俺達が持っている質の良い魔石を幾つかプレゼントしたら良いだけ。
でも、それが違ったらと言う不安が無い訳じゃない。相手は精霊の様なモノだとズーフが言っていた。であれば、何か気に食わないことを知らない間にやってしまった可能性だってある。
なので、注意を払いながら、なるべく穏便にいかねばならないだろう。間違えても先制攻撃などしてはいけない。うん、命の恩犬だしな!
そんなこんなで、豆柴が居る場所へとやって来てのだけど……うん、居ないな。
「居ないな。どこへ行ったんだろう」
「うーん……村の方に移動してるのかな? でも、途中では遭遇しなかったよね」
一応、豆柴が目撃された場所を通って来たんだけど……確かに見なかったよな。はて、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「イオ達は何か解るか?」
「うみゃぁ……」「うーん……わからない」
どうやらイオの嗅覚にも、双葉の植物レーダーにも反応が無いらしい。
「うーん……風ちゃんも空をぐるぐるしてるね。あの行動的に見つかってないみたい」
「空からも発見出来ずか……寝床はどうだろうな」
周辺を調べてみる。が、本当に何もない。そう、何も無いんだ。
豆柴の姿はもちろんだが、お供えしたであろう魔石も無い。毛や爪などが抜けた後も無い……まぁ、精霊みたいなモノと言っていたから、もしかしたら抜け毛などは存在しないのかもしれないが。
「そして、魔力の反応もただの森っと……」
濃厚な魔力が漂っている訳でもない様なので、本当にただの森だ。逆に言えば、なぜこんな場所に豆柴は居たのだろう? と思う。
「これは……どうしようか? 野宿して張り込むか、村を行き来して確認するか……」
「マーキングしてたら野宿は危険だよね?」
……マーキングするのか? やってたら何処かに豆柴の魔力がこってりと残っている気がするんだけど。
ただ、姿のベースが豆柴だからな。マーキングをしていないとは言い切れない。
「良し、それじゃ美咲さんは村に戻って貰える? 俺は……少し距離を取って監視体制に入るから」
「え? 大丈夫なの?」
「大丈夫。何かあったら風を飛ばすから。美咲さんは村でどんな対処でも出来るように準備をしていて欲しい」
「うーん……なんか納得できない部分もあるけど、わかったよ」
良し、美咲さんを帰す事に成功したな。別に今更一緒に野宿したところで如何と言う話ではないけど……村に戻ってる以上、ゆりやゆいが煩いんだよなぁ。
という訳で、要らぬ追求をされない為にも美咲さんを村へと戻した訳だ。まぁ、理由は其れだけじゃない。豆柴自身に警戒させない為と言うのもある。……美咲さんは豆柴と会った事が無かったはずだし。
「という訳で、イオ達もそこら辺で適当にしてていいからな」
「ミャ!!」
「わかったの!」
「あ、風は木の上から宜しく。何かあったら村に飛んでくれよな」
「ピュィ」
良し、後はキャンプの準備をして豆柴を待つばかり。
さて……一体何が有ったんだろうな? 理由が解ればいいんだけど。
そんなキャンプをしながらイオに番を頼んでから仮眠をとって居たら、顔の上にモフっとしたものが……息が……。
「うぅ……一体何だ?」
苦しいなと思いつつ、顔にへばりついているソレを持ち上げ見て見る。
「キャン!」
と、一鳴きする豆柴の姿。
……なんでだ!?
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村に帰宅=実は色々なフラグ回収のターンだったり。




