三百二十八話
村の散策をしている訳だが、自然と足は人が居る場所へと動いていく。そして、その中には学校も含まれている訳で……。
「……イオちゃんが暴れてるね」
「子供たち相手に鬼ごっこか」
授業の一環なのだろうか。イオが楽しそうに子供たちを追いかけている。とは言え……実はイオだけでは無い。
その背には双葉が乗っており、更に上空には風とモンスターズのオールメンバー。……いや、風は無理やり付き合わされている感じがするな。
恐らく、これを主導したのはゆいだろうか? それとも、今子供たちに色々と指示を出しているゆりだろうか。どちらにしても、逃げると言う事を主体とした授業なのかもな。
それにしても、普通なら此処で「ここは俺に任せて先に行け!」なんて悪ふざけをしたりしそうなんだけど、それは一切やっていないようだ。
お調子者のゆいなら昔ならやっていただろう。ただ、〝ソレ〟をやった結果をゆいは知っている。だから、悪ふざけでもそういう事はしないようだ。
とは言え、いくら頑張った処で相手はイオ達だ。一人また一人とタッチされ脱落して行くのは当然だろう。
「あぁぁぁぁ、またイオちゃんにタッチされた! ……もっと肉球でプニっても良いんだよ?」
……ゆいめ、アイツは何を言っているんだ。悔しいのか嬉しいのか謎の表情をしながらそんな事を言ってもなぁ。
それにしても、随分とまぁ……学生さん達の動きの速い事。これは、普段から相当走り込んでいるんだろうなと言うのが良く解る。
きっと、教師達が生き残れる様にする為に、必死になってやっているんだろうなぁ。ただ走るだけとか、子供からしたら飽きるだけだから長続きなんてしないものだし。
そうしている内に全員が捕まり、しばし休憩を取った後はワンモアと言う事で、最初から鬼ごっこの開始をするようだ。
……どれだけ走らされるんだろうな?
学校を後にしてからも、様々な場所を見て回った。
狼の飼育場では子狼が増えており、もふもふとして可愛い! と美咲さんが狂喜乱舞。そんな彼女を見たからなのか、飼育員の好意で子狼と触れ合えることに。
なので、好意に甘えて子狼と少し戯れさせて貰ったけど……うむ、実に良い毛並みです。しかも、ちっこい体で必死にしがみつくものだから、美咲さんが鼻血が出そうになって我慢している。
他にも、果樹園に行っては果物を貰い、畑に行っては野菜を貰い……あれ? 貰ってばっかりだな?
そんな風に散策をした後、本日のある意味メインと言える診断。
何故診断を? と言う話だが、これは別に特別な事では無い。探索者なんてやってると生死に触れている訳だからな、当然、協会では健康診断やカウンセリングを受ける様にと言われている。
とは言え、ダンジョンアタックをと言うか二つもダンジョンを踏破した俺達に必要なのか? と言えば、普通の状況であれば特に必要が無いだろう。慣れたなんてモノでは無いしな。
ただ、この間の対人戦が理由で協会からしっかりと受けておくように! と言われている訳だ。
「……ふむ、白河君も藤野さんも、もう少し休息をする様に」
色々と検査を受け問診をした結果、二人とも休むように言われてしまった。
と言うのも……。
「本人には解らないレベルかもしれないが、まだまだ疲労が残っている様だからね。特に藤野さんは精神面でもう少しリラックスする必要がありそうだ」
区切りをつけたと言った処で少し前の話だ。そう簡単に完全復帰と言う訳には行かないだろう。
なので休息をとるように言われても仕方のない話。
そして、ここでの診断結果は協会へと報告され、一定の配慮がされる事となる。そう、一定だ。何故一定なのかと言うと、休んでいられる状況でない時であれば出るしかないから。
そりゃそうだよな。ワイバーンが襲って来て他に戦える人が居ないと言う状況になった時に、シェルターでブルブルと震えて居られるか? と言う話だ。
寧ろ、そんな姿を周囲に見せたら、探索者に警備を任せて大丈夫なのか? と不安を煽る事になるだろう。いや、その場合だと、下手をすればワイバーンがシェルターに入って来て全滅なんてパターンもあるかもしれない。
結局の処、この診断で下される配慮も余裕が有る時はと言う事なんだけど……パフォーマンスだとしてもやらないよりはマシだろうな。
探索者の維持に繫がる訳だし。命的にもコンディション的にも。
そんな訳で、診断を受けてもうしばらく休むように言われた俺達は、正直暇を弄ぶだけなので村のお仕事を手伝う方向で行く事にした。
休んでないだろうって? 良いんだよ、命が関わっていないから。
とは言え、急にそんな事を言っても出来る事なんて有る訳じゃない。なので、多少の調整が必要だ。
「ま、爺様にでも相談しておくかな」
「……まったりとしていても良いと思うんだけどね」
「動いていないと落ち着かない」
「あはは、確かに! こう、体を動かしていたいよね!!」
そんな訳で、今夜にも爺様に相談をしておこう。一応、研究所の仕事もあるけど……あれは付きっ切りで無くても大丈夫だからな。寧ろ、今は呼び出し待ちの状態だ。
さてさて、少しは出来る事が有れば良いのだけど。
━━何処かの研究所━━
「ひっひっひ……それにしても、私の可愛い部隊が全滅と中々やりますねぇ」
円形の筒が並ぶ部屋で、初老の男が不気味に笑っている。
そして、この彼こそが結弥達を空から見下ろしていたイーグルと名乗った男だ。
そんな彼は、今もまた自らの研究に手を加えている。
「む、これはダメですね。では此処をこうしましょうか……ひっひっひ、大丈夫です痛くは有りませんよ」
「や、やめろ! やめてくれ!!!」
ウィィィィィィンと高い音を鳴らしながら回転する物が、叫ぶ男に触れ……。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、麻酔を忘れましたね……すみませんねぇ、少し考え事をし過ぎていた様です。ひっひっひ……」
ニタニタと笑いながら謝るモノの、その手を止める事はしない。何というドSだろう。
そして、あまりにもと言える状況からか、叫んだ彼は叫び疲れたのか、はたまたその行為によってなのか気を失ってしまった。
「おや? 軟弱な精神ですねぇ……ひひ。大丈夫ですよ。私が強靭な存在へとアナタを導いて見せましょう」
狂っている。そうとしか言いようがない。だが、この男はもう何度もこの手の行為を行ってきたのだろう。
なんの躊躇も無く淡々と作業をこなして行き……。
「ではこの中に彼を入れて」
巨大な試験管の様なモノに液体を満たし、今しがた改造した男をその中へと放り込む。実に手慣れた動作だ。
「さてさて、彼は一体どういった姿になるんでしょうねぇ……」
まるで、子供の成長を楽しみにしている様な親の様に試験管を見つめているのだが、やって居る事はどう考えてもマッドだ。決して人を愛しむような行為では無い。
しかし、彼は実験した者達を我が子とでも思っているのか、実に楽しそうな目で見つめている。……その割には、戦場で使い捨てにしたのだが……その点はどう考えているのだろうか。
「ひっひっひ。楽しみですねぇ……実に楽しみです。次の子達はどんな能力を持っているのでしょう? 彼らと戦えるだけのスペックを持っていれば良いのですが」
男が笑う。実に楽しそうに嗤う。
だが、その周囲には男以外の人間は居ない。彼は迷宮教に所属して居たのでは無いのか? と思うが、これには理由があり……他の所属して居る人達はと言えば、中間の人間以上でも無ければ彼の実験材料にされてしまう。
そうなれば、〝通常〟の教団員が減ってしまうので意図的に彼から遠ざけられていたりするのだが……まぁ、彼には関係のない話。
どこからか人を攫ってくるか、頼んで教団員を数名送って来てもらうだけで良いのだから。
「さて、次は出て来てくれますかねぇ?」
兵部の事であれば出て来る訳が無い。何せ、あの場には存在しないのだから。
決着をつけるのだ! と言わんばかりに、兵部に固執し実験をしているのだが……前の時に彼の足を躓かせたのは結弥の事が最初だ。そしてまた、防衛された時にも結弥が関わっている。
もしかしたら、彼にとって真に相性が悪く敵と言えるのは、兵部では無く結弥なのかもしれない。ただ、両者共にそんな事は全く考えていないのだが。
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ダンジョン協会では、探索者のバックアップもしっかりと兼ね備えています!!(にっこり)




