三百二十七話
まったりな日々(*'▽')
村の朝は早い。鶏がコケコッコー! 鳴けば、それが目覚ましだ。いや、鶏が鳴くよりも早く行動している人も居るのだが……。
そして、目が覚めれば素早く支度を済ませ、朝食を取りそれぞれの仕事先へと足を運ぶ。
それは農地だったり果樹園だったり牧場だったりと、いわゆる一次産業と言われていた分野だ。
ただ、その中で探索者と言われる俺達はと言うと、朝は実にゆったりとして居られる。とは言え、その全てがという訳では無いが。
ゆったりとして居られるのはダンジョンへと潜りに行く者達。なので、今村に居る人でダンジョンへと言う人達が居るというのは、俺達と同じで休暇として村に戻って来ている人達だろう。
では、それ以外の探索者はと言うと……防壁からでて狩りをしたり周囲の調査や警備をしているのが実態。当然、これらは二十四時間全てで行わないといけないモノもあるので交代制で回している。
それゆえに、休暇とは言え周りがドタバタと動き回るから、どうしても目が覚めるのは早くなると言う訳だ。
「おはよう。やっぱり村の朝は早いな」
「おはよう結弥。いつもはどれぐらいの時間に起きているんだ?」
「んー……目標物次第で起きる時間が変わったりするからね。とは言え、基本的にはもう少しゆっくりかな」
「ふむ……深夜の狩りなども有る訳だな。探索者も大変だな」
ダンジョンアタックにしても、夜中に突撃をした方が良いパターンだってかるからな。
「で、ゆりとゆいは学校だっけ?」
「ちょっと兄さん!? その言い方だと私が学校に勉強をしに行ってるみたいじゃない! 教えている方だよ!?」
「あぁ、そうだったな。うん、ごめんごめん」
ゆりは学校にてヒーラーも兼ねて足を運んでいる。ここで、教員免許は? などと言う人は居ない。だって、もうその制度を誰が発行したり調査して取り締まったりするんだよって話だし。寧ろ、免許持ちと言える人だって少ないからな……これは緊急処置という奴だ。
それと、医者に関しても似たようなものだろう。……まぁ、ポーションや回復魔法がある時点で、医者のお仕事はかなり減ってしまうのだけど。
そんな訳で、他の街でもだけど随分と従来あった仕事の内容などは、その姿を変えてしまっている。
正直言って……教師になる為には魔法を覚えているのも必修科目になるのでは? と言うレベルだ。医者は言わずもがな。
それに、土木建築業や農業に入るのであれば、最低でも土魔法が必要だろうと言う話だってある。火や水も使えればなお良しと言う訳だ。まぁ、良くも悪くも魔法と言う存在が全てを変えてしまったと言う訳だな。
……崩壊前の世であれば、魔法資格なるモノが生まれても可笑しくないな。
「ゆいは学ぶ方だよな? ……今授業ってどんな感じなんだ?」
「正直に言って、随分と教育レベルは落ちてると思うよ? どちらかと言うと、体づくりやら魔法やらを重要視してるからね」
「ふふーん! お兄ちゃん聞いて驚け! ゆいは魔法の授業に関してトップなのだ!」
「なのだー!」
それもそうか。今は生存する為の自己防衛手段を重要視して当然だからな。……まぁ、色々と手探りでやっているのだろう。
しかし、ゆい……君は他の人達よりも魔法に触れたのが早かったんだから、それでドベから数えた方が早いとか言われたら……かなり問題だぞ。
そして、どうやら双葉はゆいの影響を受けやすいみたいだなぁ……ノリが良いからかな?
「で、結弥はどうするんじゃ? 休みなのじゃろう」
「そうだね。研究所に行ったり村の中をふらふらと歩いたりかな? この村、確認を怠るといつの間にかに新しい施設が出来てたりして、一瞬道に迷ったりするから」
「そうかそうか。ならゆっくり散策してくるとええ。その内、仕事を頼むかもしれんがの」
「仕事?」
「うむ。村の拡張じゃな。防壁を広くする話がでておるでの」
なるほど。村も手狭になって来たからなぁ。まぁ、農地に果樹園に牧場も壁の中に有るんだ……手狭にならない訳が無い。
とは言え、それをやらないと安全に食料を供給するのは難しいからな。……ダンジョン産の物が有るとは言え、何時ダンジョンに潜れなくなったり、輸送が困難になったりするか解らないからな。村の中で作れる分は作っておくに越したことはない。
「それじゃ、決まり次第教えてね。ダンジョンに行ったり、協会から仕事を頼まれたりする前だったら調整出来るから」
「うむ、その時は頼むぞ」
ま、当分は仕事を頼まれる事は無いと思うけどな。色々バタバタとしているだろうし。寧ろ、壁の建築を協会から頼まれるパターンが一番可能性が高そうだ。
「そういえば、黒木さんの調子はどうなの?」
「元気じゃぞ? うむ……元気に素で熊型のモンスターを殴り倒しておる」
「……アレには吃驚したわよ」
黒木さん!? 何していらっしゃるの!? てか、母さん吃驚したって事は、その様子を見てたのか!
「えっと、一体何がどうしてそうなったの?」
「んむ……両腕が揃った事でテンションが上がったんじゃろうなぁ……熊にリベンジだ! とは常々言っておったのじゃが、行動せなんだから儂等も冗談だと思っておったんじゃよ。ただ、色々と特訓だ! と体づくりはしておった。でじゃ……運が良かったのか悪かったのか、偶々熊が罠を抜けて村まで辿り着いてしまってのぅ、その時にあ奴は喜々として殴りに行ったんじゃよ」
訓練……一体どれだけハードな訓練をしたんだ? 黒木さんはダンジョンには潜ってなかったと思うけどな。
確かに、食べ物の変化で従来よりも強化されるようになったとは言え、それだけでは熊型のモンスターを素手で倒すなど無理がある。
だと言うのにも拘らず、黒木さんはやって見せた。一体、どんなスペックをしているんだよ。
「まぁ、トラップゾーンに穴が有ったのは後から発覚したんじゃがのぅ」
「ん? 一体どうしてそんな事に?」
「村の拡張予定の話が有ったからの、一度発動した後のトラップを再設置してなかった場所があったのじゃよ」
それはダメでしょうに。面倒でもトラップは再設置しないと。
「当然、担当の者はこっぴどく叱ってやったがな!」
こういった事を行う時の判断で、大丈夫で〝あろう〟はダメだ。それがミスになって子供たちの大怪我になる可能性だってある。だから、怒られて当然の話だな。
とは言え、面倒なのは解るけどな。別の処で手を抜く分には注意程度で済むのだからそっちにしてくれ。
「それにしても、また大怪我をしたらどうするつもりだったんだか……」
「本人は絶対大丈夫なんて言ってたわねぇ。一緒に見ていた真白さんも「大丈夫です!」なんて断言してたし」
物凄い信頼だな。もしかして真白さんは特訓風景でも見ていたのだろうか? いや、それでもモンスターの熊を知り尽くしている訳じゃないから、不安になるモノだと思うんだけど。
とは言え、折角治ったんだ。再び怪我をしなくて良かったよ。
と、仕事に出かける前に皆と会話をしてから村の散策に出た。
うん、正直話を聞いていて正解だっただろう。……あんな場所に居酒屋なんて無かったはずだし。と言うか、お店が出来てるとか! お会計如何するんだ? まだ、通貨は発行していなかったはずだけど……物々交換だろうか。
「あ、結弥君おはよう! 見て見てあそこ! クレープ屋さんが有るよ!」
「さっきは居酒屋を見つけたよ。……一体支払いはどうなってるんだろうな?」
「あ……私お金持ってない……」
美咲さんががっかりしている。これは、クレープを食べたかったのだろうな。ただ、俺達はお金を所持してないので購入は無理と……いや、お金の存在すら知らないから他の方法で支払いシステムがあるのかも? とりあえず、クレープ屋で聞いてみるとするか。
「すみません。これ支払いってどうなってますか?」
「おや? っと、白河の坊主じゃないか! 村に戻って来ていたんだな」
「はい、少し前に色々とやる事が有ったので戻ってきました。で、村の中で店を幾つか見たんですけど、お金ってどうなってるんです?」
「あー……そうか、お前さんは村に居なかったから知らないか。今、村では通貨の試験運用をしていてな……」
クレープ屋のおやじさんの話を聞くと、どうやら村では新しく作った通貨を試しているらしい。とは言え、紙幣は使えない。何せ偽造の問題やら発行している場所の信用度やらが必要だからな。
という訳で、昔ながらの硬貨を使っているそうなんだけど……。
「百円玉?」
「そう見えるよなぁ……まぁ、既存の物をベースにしているみたいだな」
ま、新たに作るよりも見知ったモノだから割と気軽に使えるだろう。ただ、使われている物質が微妙にちがうみたいだ。何せ、ほんのりと魔力を感じる。
恐らく作った時に魔物素材を混ぜたのか、それとも魔鉄やらミスリルを混ぜ込んでいるのだろう。……流石にミスリルは無いか。
「ただ、紙幣が無くなった分、物価が随分と安く感じますね」
「ま、それは仕方ないだろうな。だからこそ試験運用と言う訳なんだろう。ま、今日は特別だ! 二人にはサービスしてやろう!」
「え!? おじさんありがとう!!」
サービスと言う言葉で美咲さんが盛大に喜んでいる。……どれだけ食べたかったんだ。アレだったら家で似たものを作れるだろうに。
とは言え、村の変化もすさまじい勢いだな。……正直、外に出ていると浦島太郎になった気分だ。
まぁ、試験運用が上手くいってくれれば、物のやり取りが楽になるのだから応援せざる得ないな。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
日常が非日常となりつつある主人公たちにとって、こういった帰ってくる場所と言うのは大切なモノだと思います。




