三百二十六話
次の研究室に行くまでの間に美咲さんと先ほどの試作機について話してみると、やはり同じデメリットを感じていたらしい。
あの試作機は確かに素晴らしいモノだが、それとは別に使う場所が限られてくる。
それは、燃料だけの問題では無く、探索者の戦い方に理由があるからだ。
「あの試作機、大人数で連携する自衛隊の人達みたいな戦い方ならマッチすると思うんだけどね」
「あー、確かに。あの試作機が横にずらっと並んで進んで来るとか、凄い光景だよなぁ」
そう、守口さん達が運用するのならば、俺達が感じているデメリットもメリットとなる。
では何が問題化と言うと……。
「フルプレートがベースだからかな? 騒音が凄いんだよねぇ」
「威圧するにはもって来いなんだろうけど、少人数でこそこそ動く探索者の戦い方には厳しいよな」
動くたびにガチャガチャと鳴る鎧は、其れだけでモンスターに自分達の位置を教えている様なモノ。
気配を消して気配を探し、モンスターの不意を衝く戦い方をベースにしている探索者には使いどころが難しいのは当然の話。
それゆえに、一番のデメリットとして笹田さんや竜美さんに報告したんだけどね。まぁ、彼らは難しい顔をするばかりだ。
「今後に期待と言った処かな? まぁ、現状でも使い方次第では十分使えると思うけどな。ボス部屋の前で装着するとか」
「それ、ボスはガチバトル前提だよね?」
「そこはあれだ、ボス部屋の様子を見て判断って事かな? こそこそ出来なさそうならって話さ」
と、現状のままでも運用できる方法を考えながらも、改良される事に期待と言った処だ。
さて、その後の研究所内での仕事と言えば、新しい魔法の使い勝手や試案を会話したり、植物ダンジョンで取って来た植物を試験栽培している場所に足を運んでは、ダンジョンの中で見たモノとの違いを探したりと、彼方此方へと引っ張りだこの状態だ。
当然、一日で終わる内容でもないので数日掛けて行う訳だけど。
その中でも、当然の話だが一番足を運ぶ予定の場所と言えば……生体研究をしている場所だろう。
此処では、今もまだ桜井さんがすやすやと穏やかに眠っている。
「何か解りましたか?」
「ダメだね……唯一解っている事と言えば、体内の魔力が乱れに乱れていると言う事だけなんだが、その原因が不明過ぎる」
「そう……ですか」
魔力が乱れていて、その原因が不明。
うーん……と頭を悩ませるが、研究者が解らない事を考えたところで俺が解決できるはずも無い。なので、何でもいいからヒントが欲しいと、あの時の桜井さんとの会話を思い出してみる。
「あ、そういえば……たしか……〝思考を維持するのに特殊な方法がある〟みたいな事を言っていたような……」
「……何? それは、この眠っている彼が言っていたのか?」
「はい。それが何かまでは聞けませんでしたが、確かにそのような事を言っていたかと」
「ふむ……制御に必要な物か……薬か? 魔法か? どちらにしても相当負荷がかかっていた可能性があるな」
もしかして、制御する為の何かが行き場を失ったとかそういう話だろうか? となると、やはり切り落としたのは愚策だったか? せめて腕を一本だけでも残しておくべきだっただろうか。
とは言え、そんな事を考えたところで今更だ。
さて、如何した物か? と考えてみると、思わぬお礼が飛んできた。
「何やら考えている様だが、いいヒントになっている可能性があるからな! 助かった」
「えっと、そうなのですか?」
「あぁ、其れこそ他に思考を維持している者も居るのだろう? そいつ等に話を聞けば、何か解る事も有るかもしれないからな! 薬なのか魔法なのか、薬であればどんなものを使っているかをな! 現物が有れば完璧なのだが……」
な、なるほど。確かにそう言われると、ヒントになったのかもしれないと思えてくる。
美咲さんも、少し先が見えたのか少し表情が軽くなっているようだ。うん、俺も気持ちの面で随分と楽になったな。
「さて、そうと解れば善は急げだ! 少し上と掛け合ってくる。君たちは……何かあればこちらから呼ぼう」
「あ、はい! お願いします!!」
「桜井さんをお願いします」
後は彼らに任せて俺達は研究所を後にする……つもりだったのだが。
「あーあーあー! 白河君に藤野君! 装備のメンテナンスを忘れてないかな! 二人とも受付に装備を入れた鞄を提出しておいてね!」
「あ……ありがとうございます」
やばいやばい……つい忘れてたな。最近、装備の持ちが良いからか軽く自分でメンテをするだけで済ませていた。
ただ、やはりこういったモノは本職の人に任せるのが一番良い。だと言うのに、色々ありすぎて頭からすっかり抜けてしまっていたよ。
そして、どうやら美咲さんも同じようで、二人そろって苦笑しながら、装備が入っている鞄を受け付けに渡してメンテナンスをお願いした。うん、実にばつが悪いな。
そんなこんなで、研究所の仕事を粗方終えると日も沈み始める時間になった。
なので、今日はもう閉店と言う事で家に帰宅する。
「あ、兄さん達お帰り」
「ただいま、っとゆいは?」
「ん? あー、ゆいは双葉ちゃん達と遊んでいるよ」
何時ものロケットダイブが無いので、はて? 如何したのだろうとゆりに聞いてみれば、どうやらモンスターズと遊んでいる様だ。
「そか、珍しくロケットダイブが無かったからな」
「あはは、アレを受け止める事が出来るの兄さんだけだからね」
笑いながらお手上げと言わんばかりに両手をあげるゆり。……もしや、一度喰らった事が有るのでは? そして、その時受け止めきれなかったんだろうなぁ。
「父さんも最初は少し悲し気な感じだったからね。「私にはアレを受け止める事が出来ない……」って」
「父さん……寧ろ受け止める気で居たのか」
何と無謀な……と思うけど、父親としての意地なのだろうか? うん、受け止めたかったらレベル上げを頑張ってくださいとしか言いようがない。
ただ、父さんがレベルアップをしたとしても、ゆいも同じようにレベル上げをするだろうからなぁ。鼬ごっこになる気もしなくもない。
「で、ゆりは何か有ったりする?」
「あ! そうそう、兄さんと言うよりもさ、美咲さんに聞きたい事が有ったりするんだよね。って事で、兄さん美咲さん借りるね!」
「いや、借りるも何も俺の物じゃないぞ」
「あはは。まぁ、美咲さん少し時間お願いしまーす」
「うん、良いよ? 何が聞きたいのかな」
「あー、そこは女の子同士の内緒話と言う事で! 兄さんどっか行って!」
「いや、此処リビングだろ! ゆりの部屋に行けばいいじゃないか」
「あ、それもそうか! うん、それじゃ美咲さん着いてきて! 後、兄さんは入ってきたら駄目だからね!」
「何時俺がお前の部屋に入ったことが有った!? 無いだろう!」
「あははは、確かに無いね! まぁ、念のためって奴だよ!」
まったく……何とも調子の良い奴だ。……とは言え、あれだけ元気に笑ってられるのだから、これはこれで良いのかもしれない。……人をピエロにするのはどうかと思うんだが。
「って、あれ? 爺様も父さんも母さんも居ない? どこ行ったんだろうな」
うーむ……リビングで一人になってしまったな。話し相手も居なければ、何かする事も無い状況だ。
ゆいを探しに行くか? いや、皆でワイワイと楽しんでいるだろうから邪魔をしたら悪いか。
テレビは……無いんだよなぁ。有ったとしてもテレビ局が無いから放送されるものが無い。ならばゲームか? いや、もう随分と古いゲームばかりだ。どれもこれも何度もやった事がある物ばかりで新鮮味が無い。
「うわぁ……暇だ。暇すぎるな」
まさか、地上に出てからこんな暇! と言える日が来るとは思わなかった。
いや、仕事が無い訳じゃないのだろうけど、今は心身ともに休んで装備もメンテの状態だ。仕事をやるような環境では無い。
となると……訓練か? それとも料理か。掃除は行き届いているみたいだから手の出しようが無い。
それに、時間も時間だからな。今から何か出来る場所に行くと言うのもおかしな話だろう。
「よし! 夕飯でも作って待ってるか!」
そう考えて夕飯を作り始めたのは、暇潰しとしては良かったのだが……。
「あら? 結弥……夕飯作ってくれてたの?」
爺様や父さんと一緒に帰って来た母さんがそう呟いたので、振り返ってみてみると……父さんの手には大きなお鍋。
あ……これ、夕飯の量がとんでもない事になってしまったか。
どうやら、母さんは何処かへ料理を作りに行ってた為に、家に居なかったのか……やっちゃったなぁ。
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