三百二十三話
戦後処理はある程度スムーズに進んだと思う。
隔離施設の建設も魔法で済ませ、モンスターの鮫を陸地から一方的に攻撃をし、素材の回収などをしつつ過ごす日々。
とは言え、全く問題が無いという訳では無い。と言うのも……。
「まだ起きないな」
「手と足は戻ってるんだけどね……寝っぱなしだよ」
美咲さんの叔父である桜井さんが一向に目を覚ます気配が無いと言う事。
すやすやと気持ちよさそうに寝ているように見えるけどな。……原因は此処では解らない状況だ。
「治す為にモンスターを移植された場所を切り飛ばして、上級ポーションで治療したけど……早計だったか」
「でも、あの時は其れしか方法が無かったんだし……」
そうなんだよな。他に如何にかできる手段が無かったのが問題なんだよな。
縛り上げたのならば? と思うが、あの時点でロープは持ってきていなかった。ダンジョン探索では無かったからな……荷物を最低限にしてたのが徒となった。
それに、結果論だけど下手に縛り上げて運ぼうにもあの撤退状況を考えれば、下手に桜井さんが覚醒して暴れられたら逃げ切れる確率が一気に減っていただろう。
とは言え、此処まで起きないとなると不安にもなる。
「一度、村の研究所に連れて行って診て貰うのが良いと思うんだけど」
「そうだね。でも、そうなるとどうやって連れて行くの?」
そうなんだよな……背負っていくにしても結構な距離を移動する事になる。となると、大変な移動になるのは間違いない。何せ、点滴をしている相手を運ぶんだぞ? それも、モンスターが出没する中を。
なので背負って移動する案と言うのは却下と言いたいのだけど、他に方法が有るだろうか。
「とは言え、村に戻るにしても協会から受けてる仕事も有るから、色々と相談が必要だろうな」
「あぁ……お仕事も有ったね。うん、色々な事が起こりすぎて頭から抜けてたよ」
まぁ、衝撃的な事が立て続けに起きたからな。俺自身も何が必要で何をしなきゃいけないかを考えなかったら忘れてたからな。
とりあえず……協会へと向かうのが最初にやるべき事だろう。
そんな訳で、協会へと足を運び守口さん達へ相談ごとが有ると告げる。
すると、受付の人は俺達が来る事が解っていたのか、既に会議室にて準備済みですよと笑顔で受け答えてくれた。
「なんだか先読みされてる気がするな」
「案外そうかもね」
思わず顔を見合わせて苦笑してしまう。とは言え、俺の行動って協会の人達に読まれ過ぎてないか? 毎回、待ってましたと言わんばかりの対応をされるんだが。
そして会議室に入ると、案の定と言うべきか……守口さんが「やぁ、待っていたよ」と言わんばかりに片手を上げて来た。
「失礼します。……まるで予測してたみたいですね」
「あぁ、そうだな。お前たちが受け持っていた仕事が終了したと報告を受けたからな。あの男性の事もあるから、そろそろ来るのではないかと思ってたぞ」
そういう事か。そりゃ、予測できる材料が揃いすぎて居た訳だ。
「なるほど。で、その男性……桜井さんの事なのですけど、出来れば村の研究所に連れて行きたいのですが」
「そうか。まだ目を覚まさないそうだからな、原因を探りたいと言った処か。まぁ、協会としても意識が戻らない理由は解明したいのだが」
協会としても、理由が解らなければ治療の方針が決められないか……。
何せ、隔離施設を作ったとはいえ、モンスターの腕やら足を移植された人達を大量に抱えてる状態だからな。
そして、彼らの治療方法を探る……となると、現状桜井さんの経過観測が重要だ。何と言っても、桜井さんは起きないだけで、手足は人間のソレに戻っているのだから。
となると、現状は俺達と協会は利害が一致していると言う訳だ。
「では、村に戻る許可を頂けるので?」
「あぁ……そうだったな。白河達は塩探しの為に遠征をしていたな。よし、私が村に戻る許可を出そう。それに……塩の探索については捜索範囲的にそろそろ見つかるだろうし、此処に援軍として来た探索者も多いからな手はある」
なるほど。俺達が抜けても問題無い状況と言う訳か。
とは言え、復興やら施設の監視やらも有るだろうから、本当に手が足りているのかは謎ではある。あるのだが、此処は好意に甘えるとしよう。
「ありがとうございます。ただ、其処でなんですけど……桜井さんの状況的に背負って移動と言うのは結構厳しいモノが有るのですが、何か良い手段は無いでしょうか?」
「ん? あー、何だそんな事か。それならあの戦車を使えばいいだろう? どうせ何両かは村に戻す予定なんだ。それに乗って行けばいい」
「え! 良いんですか!?」
「良いに決まってるだろう。この事は藤野の嬢ちゃんが気にする事じゃない。眠っている彼の調査は此方にも必要な情報だからな」
思わぬところで足を確保する事が出来たな。確かに、あの戦車なら安全に桜井さんを村へと移す事が出来るだろう。
「それ以外に気になる事は有るか?」
「そうですね……では、彼らの状況はどんな感じですか? 何か話しましたか?」
「いや、相も変わらずと言った処だ。一人は発狂したままだし、二人は頑なに知らないを連呼している。魚面達は……飯に対して親の仇と言わんばかりの対応をしているけどな」
彼らに出している飯と言えば……実は鮫の肉を使っていたりする。
いやぁ……あのモンスターの鮫肉。鮮度が有っても物凄いアンモニア臭かったんだ。正直言って、食べられた物じゃないレベル。
あれ、ゴブリン肉とどっちがきつい臭さだろうな? 不味さと臭さの方向性が違うから何とも言えないのだけど。
ただ、折角回収した肉だ。処理しない訳にはいかない。……という訳で、最初は蒔餌やら肥料にするか? と言う案が出てたんだけど、蒔餌にしたらまた鮫が寄ってくる可能性が有る。そして、肥料にしたら……作った食物に臭さが移るのでは? と言う懸念。
それならば、少しでも美味しくする努力をしたものを……奴等に食べさせてみるか! と、誰かが勝手に行動したんだけど……それが割と好評だったのだから吃驚だ。
「思考低下しているおかげなのか解らんがな……鮫の肉だと告げると、喜々として食べているんだよ。正直、異常な光景だぞ?」
とは言え、狩った命を無駄にしないのだから丁度いいと言える。まぁ、それでも料理人たちは満足しないのだろう。きっと、そのうち、誰でも美味しく食べられる方法を見つけるに違い無い。
「となると、あの隠れてこそこそしていた人は?」
「あー……猫は嫌だを連呼しているな。そのくせ、肉球は良いモノだと言い出す始末……アレは恐怖と快楽が一緒になってしまってる状態なんだろうなぁ」
……イオに追いかけられた恐怖と、その後のプニプニ攻撃で猫は怖いけど、猫の肉球を求めていると言う訳か。……何ソレ、ジェットコースター的な物か? それとも変なお薬か? イオは気が付かないうちに変な中毒者を生み出してしまったようだ。
「と言うと、総じて話が出来る者が居ないと?」
「そうなるな……唯一会話が出来るだろう二人が知らぬ存ぜんだからな。ただ、それも片方は思考がお子様なのだが……」
あー、あの通称ウザ男君か。
確かに彼の相手をする人は色々と大変そうだ。後で担当している人には労って欲しい処である。……俺なら絶対対応なんてしたくないからな。
「進展は無しと言った感じですか……後は、彼らの拠点を探る事ぐらいなんでしょうけど」
「今は位置の割り出しだな。まぁ、前と比べて随分とは楽だから問題は無いだろう」
確かに、結構な割合で勘に頼った捜索だったからな。
それが今は、相手の大群と遭遇した場所が発覚している。なら、其処から調べて行けばすぐに見つかるだろう。
「という訳で、白河達は気兼ね無く村に戻っても大丈夫と言う訳だ」
「ありがとうございます」
「良かった……あ、ありがとうございます!」
そしたら、帰宅準備をしますかね。戦車での移動と言う事だから恐らく足で走るよりも時間が掛かるはず。
自分達の食料と桜井さんの点滴パックは十分な量を持って行かないとな。
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と言う事で、村へ一旦戻りますよー(*'▽')




