三百二十二話
上空を見上げると、其処には羽根を生やした人型モンスターに抱きかかえられている……でっぷりとした初老の男性。
「白河アレは狙撃出来ると思うか?」
「……持っている装備ですと、ライフル系なら届くと思います。ですが……出した瞬間に反応されてしまうでしょうね」
それ以外の武器だと距離的に届かない。それに、あの鳥の羽を持つモノがどれだけのスペックを持っているのかが解らないのがな。
正直、銃を出した瞬間飛んで逃げていくのでは? と思う。
「ひっひっひ……と、おや? おやおや? 兵部君は居ないのかね?」
きょろきょろと周囲を見る男性。兵部支部長の名前を出すと言う事は……アイツがイーグル(笑)を名乗ったやつか。
しかし残念ながら、この場に兵部支部長は居ないのだよ。
「ふむ……居ないのでは仕方がない。それならば雑兵諸君、何処かに居る兵部君にも伝えてくれたまえ。「今回は君の勝ちだ。だが私の本拠地は別だ。そして、その場所である全ての始まりの地で待つ」とな。ひっひっひっひ!」
それだけ言うと、イーグル氏は抱えている鳥人間に何やら指示をだし、そのまま飛び去って行ってしまった。
「……追えるか?」
「いえ、風ならもしくはと思いますが、他にも空を飛べるモノが居る可能性や、奴の攻撃手段を見てないので下手に追うのは厳しいかと」
「陸から空を確認しながら追いかけるのも厳しいしな……此処は見逃すしかないか」
思わぬ相手の出現に場はいったん停止していたものの、イーグル氏が敗北宣言をした様に今回は此方が勝つ事が出来た訳だ。
随分と手札を隠しての勝ちだったけど、それは相手も同じなんだろうな。何せ最後の最後で空を飛べると言うモノを見せつけて来た訳だし。
「それにしても、陸と海に空同時に襲ってきたらどうなってたのやら」
「考えたくないけど……街に被害が出たんじゃないかなぁ?」
美咲さんが嫌な予想を口に出した。まぁ、被害が出なかったから良かったけど……あり得た話なんだよな。
確か、村とかだと対空装備を作っていたはずなんだけど、アレはどうなったんだろう? 今度聞いてみるとするか。
捕縛した白装束や魚面に……例の三名と森の中に居た奴等を一ヶ所に集めてから、彼らに色々と話を聞こうと守口さん達の部下が奮戦している。
「お前たちは何も知らないと言うんだな?」
「あらぁ……だってぇ、私達のお仕事は戦う事だけですものぉ」
「知らないんだな! 知らないんだよ! だからさ、さっさとこれ解けよ! 解いてよ!」
知らぬ存ぜんを突き通す二名。いや、本当に何も聞かされていないのかもしれない。
そして、もう一名はと言うと……少し離れた場所で、騒ぎ立てている。と言うか、吠えている。
「うがぁぁぁぁぁぁぁ! ヴァァァァァァァァァ!!」
と、どうやら合成による弊害が起きたままの様で、今のところ戻る見込みが無い。
因みに、魚人たちで思考能力が残っている者達はと言えば。
「鮫は嫌だ鮫は嫌だ鮫は嫌だ鮫は嫌だ鮫は嫌だ………………」
鮫に対する拒絶で今はいっぱいいっぱいの様だ。これは、あの鮫型モンスターに対してどんなトラウマがあるのやら……実験として鮫に突撃してかじられたりしたのだろうか?
それとは別に、イオに森から追い立てられていたモノはと言えば……。
「あーあーあーあーあーあーあーあー! ヤマネコメー!! ウチの隠密行動を邪魔してくれよってからに!!」
イオに対して、イオの目の前で文句を言っている。
そして、そんな文句を言われたイオはと言うと……。
「ミャン♪」
「な、舐めるなぁぁぁぁぁぁ! もう嫌やぁぁぁぁぁ!」
その相手を鳴きながら舐めたり肉球でふみふみしたりと……まぁ、遊んでいる。と言うか、ばっちぃから舐めない様に。
さて、こんなある意味カオスな状況ではあるけど、これだけの人数を収容できる場所など現状無い。
ロープは魔物素材製で頑丈と言えるのだが、何かの拍子で千切れたり解けたりする可能性も有る。なので、街の中へと彼らを入れる訳には行かない。
という訳で、急遽収容施設を増設しているんだけど……。
「おーい、そこ扉が付けれないぞ!」
「あ、窓大きすぎる! 空気の循環さえできれば良いから!! 下手に大きいと逃げ出されちゃうだろ!」
「食料はどうするんだ? 流石にこの人数を食わせるだけの物は無いぞ?」
何というか、戦闘が始まる前よりもかなり慌しい状況だ。
それに、彼らは捕虜だとしても……正直、交渉にすらならないだろう。何せ、相手はあのイーグル氏であり、そして彼らはイーグル氏にとってただの戦闘員。負けた戦闘員を取り戻す為に何かしらの行動をするだろうか?
とは言え……元が人なだけに処分する訳にも行かない。そんな事をすれば、色々と煩い人が出て来るだろうからな。
「何というか、とんでもない負債を抱えてしまったな」
「合成された体を元に戻し、思考能力を戻す事さえできれば」
「そこは……白河達が連れて来た男性の経過を見ての判断だろうな」
「しかし、その方法には上級ポーションが必要。数が足らないのが……」
守口さんと上野さん達がこの捕虜であふれた状況を解消する為に色々と話している。だけど、その内容はと言うと……現状はどうしようもないと言っている様なものだ。
桜井さんにしても……この戦闘中に目を覚ますことは無かった様で、今もまだすやすやと眠りについている。
「それにしても、始まりの場所か……一体何の事だろうな?」
「ダンジョン協会が最初に建設された場所? いや、それだと此処からは遠すぎるか」
何を始まりとするかで答えが幾つもある。例えば、最初にダンジョンを発見した場所なのか、それとも彼らが言う様にダンジョン協会を最初に建てた位置なのか。
それとも、兵部支部長とイーグル氏が初めて出会った場所なのか……。答えが多すぎて絞り込めないな。
ただ、今はそういった事よりも……急いで隔離施設を建設しないとな。
この後、鮫討伐も有る事だし、まだまだやる事が沢山ありすぎる。
━━研究所━━
「魔力消費量は基準値をクリアしたぞ!」
「ですが、これでは設計段階のスペックは出ないかと……」
「うーむ……魔力タンクを大きくするか、それとも始めから短期決戦用と割り切るか……」
今日も今日とて彼らはロマンを追い求める。
とは言っても、全く使えないロマンはただの夢物語でしかない。と言う事で、彼らが追い求めるのは実用性がある物だ。
「短期決戦兵器と言うのは確かに素晴らしいものですが、現状において必要なのは継戦能力ですよね」
「しかしだなぁ……こう、カッコいいじゃないか。短時間で無双する。うむ、実にロマンに溢れている」
「その結果、敵の真ん中で停止したらどうするんですか」
「……自爆だろ?」
「爆破はロマン! と言いたいのでしょうけど、これ、必要経費とんでもないんですからね! 一々自爆されたらたまったモノではありません!」
この様な調子で、彼らは総力を挙げ一つ物もを作ろうとしている。……まったく連携が取れているようには見えないが。
「あ、あの、切り替え式はどうでしょうか? こう、高出力版と低燃費版みたいな感じで」
「あ、良いね! 採用!」
「ああああ、設計すらしてないのに何で採用って言ってるんですか!」
「いやぁ、なんだか出来そうな気がしたもん」
「したもんでは無いでしょう! ほら、設計と計算を開始しますよ!」
かなり行き当たりばっかりな様に見えるが、これが彼らの日常だ。
良いなと思ったら、とりあえず採用してみる。出来ると思えば、とりあえず作ってみる。そして、何故かそれで成功していると言う変態達。全く理解が出来ない世界だ。
だが、こうして次々と新しい何かを作り出すものだから、彼らを止められる者は居ない。まぁ、止める必要性も無いのだが……。
「あ、誰ですか! 此処に予定してない物をつけようとしてるの!!」
ただ、突っ込みを入れる立場に居る人は……気が休まる日など全く無いとも言える。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
隠れてる人は何の良い処も無く終わってしまいました。
いや、イオの肉球アタックを喰らってるからある意味一番うらやまポジションか?




