三百二十一話
さて、此処からは魚面の捕縛だと皆が行動に移そうとするのだが、間が悪いと言うのはよくある話。
「陸側の奴等が来たか」
遠くから大きな土煙を上げながら、此方へと駆けてくる一団を目視。当然だけど、此処に騒々しく来る者なんて白装束達しかいない。
「あー……例の三人も居るか。っと、森側は……うん、視線を向けて来た正体不明の奴も移動して来ているか」
恐らくだけど、この視線の主は戦場を監視するための存在では? と、今は思っていたりする。
まぁ、ご主人様に何が有ったかを報告する為に一切戦闘には参加せず、情報を持ち帰る為の存在なのだから……対処が難しい。追いかければ、一定距離をキープしながら逃げるだろうからな。
「ただ、白装束達が来るのは少し遅かったとも言えるよな。魚面達は陸にあがってしまってるし」
作戦としては失敗だろう。海の中へと移動できない魚面達だからな。
それに、陸ではその能力も半減以下と言ってもいいだろう。足ひれが有る状態で陸を上手く走れるかって話だ。
そんなことを考えていると、猛ダッシュして来たのだろうウザ男君が戦場へ到着し、現状の光景を見て疑問を浮かべていた。
「あれあれあれ? お魚君達が陸地に全員上がってる? 何で? 何で?」
しかし、其れに答える者は居ない。いや、何せ彼がやり取りをしている相手は後方へと置き去りにしているからな。
そして、魚面達で思考が残っている者も、今は防戦一方で返事など出来る状態では無い。
「ムキッーー! 誰も答えてくれないよ! 許さないんだからね!」
一人で疑問を口にして、一人で勝手に切れる。その姿はまさにお子様と言える様子で、つい守口さんもウザ男君を見て口を開いてしまったようだ。
「……見た目と違ってお子様な奴が戦場に紛れて来たな」
「あー! 僕の事お子様って言ったな! 言ったな!! よーし、許さないぞ! ヤッちゃうんだからね!!」
その態度と物言いがどう考えても癇癪を起してるお子様なんだけどな。
とは言え、やはり速さは目を見張る物が有る。守口さんも、ウザ男君のスピードに一瞬吃驚とした表情を見せた。
ただなぁ……単独で突撃しても無謀だろう。
「はい、ガード入りますね」
「ナイスだ。それじゃ、叩いて気絶でもさせるか」
と、まぁ。守口さんのパーティーメンバーにしっかりと対処されてしまうウザ男君。単独で突っ込んでくるのが悪いのだよ。
とは言え、相手の方が多数だったんだけど結構苦労したはずなんだけどな。こうも簡単に対処しちゃうか。
「あ、あらぁ? あの子ったら……あんな簡単にやられちゃって、どうしましょぅ」
「…………」
と、此処で追いついてきた狂信者とお姉さん。ただ、お姉さんはかなり焦っている様子だが、狂信者に至っては……何の反応も見せない。
いや、多少変化が起き始めている様にも見える。
「……………………ぁ」
ぎょろりと動く目玉。ただ、その動きがどうも尋常では無い。……これは、完全にお薬が決まりましたみたいな雰囲気だ。
「…………あひゃ」
「あ……あらぁ? 如何したのぉ? 何も言わなくなったと思ったらぁ、奇声なんか上げちゃってぇ」
お姉さんが心配そうに狂信者に声を掛けるが、彼はそんな言葉など全く聞こえてない様で……。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突如大声で笑いだし、そして、守口さん達の方へと顔を向けた。……グリンって首が動いて凄く気持ち悪いです。
「……おいおい。アレ、完全に逝ってるぞ」
「こっちをロックオンしましたね。と言う事は……」
「ばぁぁぁぁぁぁぁ!!」
狂信者もまた、ウザ男君の様に守口さん達へと突撃を開始した。
ただ恐ろしい事に……スピードやらパワーやらはどうも格段に上昇しているのか、完全にウザ男君を上回っている。
「がっ! 一撃が重い!!」
「そりゃ!!! って、攻撃が通らんぞ!!」
「あ、あらぁ!? 勝手に突撃しないでぇ! えっと、援護するわよぉ!」
守口さんのパーティーメンバーである盾持ちが、狂信者の攻撃を受けきれずに押し切られそうになり、それに対処しようと狂信者を後ろから襲った前衛の刃は……狂信者の肌を傷つけることなく停止。
そこに、お姉さんの魔法による援護射撃が守口さん達を襲った。
「ちっ! 狂化してブーストが入るのか! 面倒な奴だな!」
「援護には援護で! 美咲さん俺達は後ろで援護している奴と後から来る白装束を狙おう」
「了解! 行って風ちゃん!!」
風が白装束へと空から奇襲を仕掛け……あ、グレネードを投げつけた。そして爆破と共に、吹き飛ばされていく地面と白装束達。
その後方で起きた爆音に気を取られたのか、お姉さんは一瞬だけ後ろを見ると言う愚行を犯してしまう。うん、チャンスだな。
「美咲さん今! 電撃付与! 飛んでけ!」
「行くよー。サンダーアロー!」
雷属性を付与した鉄串をお姉さんへと飛ばす。その横で美咲さんが魔法弓を使用した。……美咲さん、さりげなく新しい武器を使ってるな。
そして、飛んで行った鉄串とサンダーアローは、後ろを見てしまったお姉さんに見事命中し……その電撃により感電。ショック状態でばたりと倒れてしまう。
「後は、上から残った白装束が来れない様に攻撃をすればいいと思うけど」
「……あのバーサーカー状態は、かなり強いみたいだね。と言っても下手に援護をしたら巻き込んじゃうよね」
一応、魔法なら味方にダメージを与えない様にもできるんだけど、下手に魔法を打ち込むと魔法によって相手を見失うなんてパターンも起きかねない。
目の前に魔法が突如現れたら、目隠しになるし吃驚もするからな。
だから、直接ダメージは無いとはいえ、下手に乱戦している場所などには撃ち込めない訳だ。電撃なんて撃ち込んだら、ピカピカとした光で目をやられたりする可能性もあるし。
それなら、回復魔法や支援魔法は? と思うが、過剰な状態でペースが崩れたりする可能性もあるので、やはりやらない方が良い。
こういったのは、慣れた同じパーティーメンバーで調整するのが一番と言う訳だ。
「現状、狂信者君は守口さん達に任せるとして……海側は大丈夫そうかな?」
結構怪我人が出ている様にも見えるけど、魚面達との闘いはかなり有利に進んでいる様に見える。
ただ、まだ相手が踏ん張っているのは、恐らく背後の海に鮫が居て……自然と背水の陣になっているからだろう。
とは言え、こちらは時間の問題の様に見えるので大丈夫かな。
「白装束達は……最初の爆撃でビビったのかな? いや、奴等がビビるとかあるのか?」
「うーん……本能には抗えないとか? とりあえず私達が注意するのは白装束だよね」
流石に第三弾の部隊なんて無いと思う。陸・海と来てるから空が残ってるけど……流石にねぇ。
そんな訳で、今一番気になるのは白装束達と森の中に居る奴だろうな。
「と言っても、森の中の奴も動いているみたいだな……これは、イオに追い立てられてる?」
ガサガサと森が騒がしく動いているので魔力探査をしてみると、イオの魔力が猛スピードで移動しているのが解る。
そして、その動きはと言うと……狩りをする時の追い込みを行うイオの動きだ。と言う事は、森の外へと追い出そうとしているのだろう。
「何とか終わりそうだね。とは言ってもまだまだ気は抜けないけど」
防壁の上で指揮を執っている上野さんがそんな事を口にした。普通ならばフラグだよ! と思うんだけど、流石にもうおかわりは無いだろうと思いたい。
「守口達があのバーサーカーに遅れをとると思えないし、魚面達との闘いも収拾し始めた。白装束は間に合わないだろうな」
「どうやら、イオが隠れている奴を追いかけているみたいなので」
「なるほど。ではそちらの捕縛もやらないとな」
よく見ると、網に捕まりゴロゴロと転がる魚面さん達が沢山に居る。そして、今もまた網を投げ込む探索者達。ふむ、あの網本当に便利だな。
それにしても、思考能力が残っていたウザ男君もお姉さんも、今は既に縛り上げられている状況だ。……なんというか、質と数が揃うと随分と楽なんだなと実感するな。
そんな風に状況を分析し、皆で話し合っていると……。
「ひっひっひっ、いやいや! まさかまさか! 此処まで私の作品が負けてしまうとは!」
と、大きな声で〝空〟から、パチパチと拍手と共に声を掛けて来た者が居た。
……うわぁ。寄りにもよって空からかよ。これはまた面倒な雰囲気だな。
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