三百二十話
防壁の上から戦場を眺める。……いや、まったく支援をしていない訳じゃないよ? ただ、FFを避ける為と情報を収集する為の行動で、どうしてもチャンスが少ないと手を出すタイミングが無いだけだ。
「此処に来るまでは電撃系の魔法を使えばと思ったけど……ちょっと無理そうだな」
「そうだね。前衛の方で海に足を入れてる人が結構居るし」
戦っている時に、相手をどんどん押し込んでいったのか、それともあの魚面達が上手い事引いて行ったのか……どちらかは解らないけど、どう考えても魚面達に取って得意なフィールドに深入りしてしまった様子。
後から増援に行った守口さん達も、それに気が付いて少し下がるように言ってるけど……此処は魚面達が一枚上手と言った処だろう。入り込んだ探索者達を上手い事海から出さない様に動いている。
「まぁ、海中からの攻撃をして来る奴らが実にイヤらしい攻撃を仕掛けて来てると言った感じだけど」
「上手だよねぇ……退路を防ぐように魔法を使ったり、海の満ち引きを操作してるのか、波に足を取られてるよ」
とまぁ、戦場は相手がペースを支配している状態だ。なので、防壁の上から海中の魚面達に向かって攻撃を仕掛けているんだけど。
「本当上手いなぁ……危険となればすぐに海の中にエスケープ。矢だと勢いが一気に奪われるし、魔法も……まぁ、相手の姿が見えないから厳しすぎる」
「爆発系の魔法も試したんだけどね……彼らもガードはしっかりとしてるみたいで通用しなかったよ」
水が伝える衝撃によってダメージを与えると言う手段はとれないって事か。
相手の姿すら確認するのが難しいと言うのに……一体どうしたもんかね。とは言え、痺れを切らして海に突撃! なんて手段は取れる訳が無い。海は相手のフィールドだからな。
「全く、手が無さ過ぎて困るよ……本当、このままだとジョーカーを切らないといけないかもな」
と、そう口にしたのは上野さん。
しかし、海に向かって使えるジョーカーとは何ぞや? 相手は海に入っている訳だからな、銃弾は通用しないだろう。たとえそれがモンスター素材で強化された物であったとしてもだ。
そして、美咲さんの発言が有った様に爆破系も通用しない。それこそ、至近距離で爆発でもしない限り無意味だ。だから、グレネードやらを投げ込んでも意味が無い可能性の方が高い。
それとも、新しい武器でも開発されたのだろうか? まぁ、聞いてみないと解らないな。
「上野さん。そのジョーカーってなんですか?」
「あぁ……それはだな。おーいアレの準備をしてくれ」
上野さんがアレと言うと、防壁の内側で何人かの人が動き出し始めた。……なんで内側なんだ? そう考えていると、素早く準備され始めたソレは、みるみる内に大きな物となって行き……。
「って、これ投石機じゃないですか!?」
「うむ。投石機だな。ただ、モンスターの素材を使ったことにより……その飛距離が格段に上がった代物だ」
よく見ると、確かにモンスターの素材が使われているのが解る。解るが何でこんなものを作ったんだ? 石を投げ込んだところで意味が無いだろう。どちらかと言えば、カノン砲の方が良いと思うんだけど。
「なんで投石機なんです?」
「投げ込む物が物だからな! さて、玉を準備しろ!」
そう上野さんが言うと……何やら柔らかそうでぶよぶよとした球体が投石機に乗せられていく。
ん? 柔らかそうでブヨブヨ? そんな物投げ込んでも意味が無いと思うんだけど。
「よーし……目標は海中に居る魚面が居る付近! 撃ち込め!!」
号令と共に投石機が動き始め、ブヨブヨとした物体が空を飛ぶ。……どうやら自壊はしなかったようだ。
そして、弧を描いて飛んで行ったソレは、遂に海へと着弾し……弾けた。……って、此処で崩壊するんかい!
「って、あのブヨブヨしたのって肉ですか!? 勿体ない!!」
「肉だな。それも食えたものじゃないゴブリン系の肉だ」
なるほど、それなら有りだな。俺もゴブリンの肉はモンスターに対しての蒔餌やらなんやらで使ったりしてたこともあるし。
とは言え、幾つか気になる事が有る。それは、あの肉は何で空中でバラバラにならなかったのか? とか、何故このタイミングで肉を投げ入れたんだ? という事。
もちろん、上野さんにその事を質問してみる。
「空中で自壊しなかったのは、アレモンスターの薄皮で包んでいたからな。後、何故このタイミングかと言われたらだが、直ぐに理解出来るぞ」
なるほどね……モンスターの薄皮で包んでやれば、水面に衝突するまでは問題無かったって事か。
それにしても、直ぐに解かるか……まぁ、予想は出来るけどさ。いわゆるアレだよね? 目には目をじゃないけど……。
「お、来たようだな。相手が海の中を得意としているのであれば、こちらも海を利用するしかないよな?」
そう言う上野さんは少し黒い雰囲気。まぁ、モンスターを利用する相手にはモンスターを利用しようって事だもんな。
うん。どこに居たのか、海からいくつもの背ビレが見え始めて来た……と言う事は鮫かな。
「……と言うか、あの鮫って通常の鮫ですか? モンスターの鮫ですか?」
「確かにホホジロザメも生息していて過去に腕を食われたなんて人も居たが……あのサイズの鮫がモンスターで無い訳が無いだろう?」
確かに、魚影から確認できるサイズって、その一匹一匹が全て十メートルオーバーしている雰囲気。
こんなサイズの鮫が群れで居るとか、悪夢だろう! と言いたいけど、ホホジロザメで無くモンスターの鮫ならなぜか納得出来てしまう。
……とは言え。
「これ、危険じゃないですか?」
「危険だろうな。だが、別に魚面達を鮫で殲滅しようと言う訳じゃない。これは、あいつらを陸地に上げる為だ」
上野さんは何やら確信でもしているかのように笑っている。
そして、それが正しいとでも言うかの様に、海の中にいる魚面達が焦りだしているのが目視出来た。
「言った通りだろう? 恐らく魚面達はあのモンスターを相手にする為に合成させられたんだろうな。だけど、まだまだあの鮫を相手に出来る戦力は無いと言う訳だ」
まぁ、一匹相手に対処出来る力が有ったとしても、あれだけの群れで来られたらなぁ。じわじわとやられてしまう可能性の方が高いか。何せあの鮫の方が水中では機動力が高いのだから。
バシャバシャと必死に泳いで陸を目指す魚面達。そして鮫達はと言うと……ばら撒いた肉に食らいついているモノも居れば、陸に向かって泳ぐ魚面達を追いかけてくるモノも居る。
……まて、アレは通常の鮫じゃなくてモンスターだ。鮫と違って陸に上がってくるなんて事は……無いよな?
と、そんな事を考えたのが悪かったのか……鮫達は一目散に陸へと向かって泳いでくる。
「映画みたいな事をあいつらやらないですよね?」
「映画って言うと何だ? 陸地で歩いたり、飛んだりか? そんな馬鹿な話があってたまるか……無いよな?」
上野さんも何やら不安を覚えたようだ。だってモンスターが相手だもんな。どんな性質を持っているのか解ったもんじゃない。それこそ、サメに足が生えてました! なんて言われても驚かないぞ。
そんな事を話している内に魚面達は陸へと上がり、海に足を入れていた探索者達もまた上手く下がることが出来た。
ただ、鮫が海の中で此方が海へと入るのをウロウロと待っている。これは、かなりホラーな光景だ。
「この鮫達はこの後どうするつもりなんです? このまま居つかれたら色々不味いような気もしますけど」
「陸から攻撃すれば何とかなるだろう。魚面達と違って面倒な行動はしないだろうしな」
どうやら戦後は鮫狩りのお仕事がはじまりそうだな。……味はどんなモノなんだろう。
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と言う事で、海にもモンスターが居る事が発覚しました。……と、まぁ、居ない訳ないですよね。




