三百十九話
「ひゃっはー! 狩っちゃうよ! ヤっちゃうよ!!」
「先に出過ぎないでねぇ」
ウザ男君とお姉さんの突撃。……本当、戦力差を完全に無視しているな。先ほどよりも、目に知性が無くなっているし。
まぁ、だからこそ対処が楽だったりするのだけど。
「正面、ファイアボール!」
初級の火属性魔本を手に入れた時に、必ず覚えるファイアボール。これをこちらに突進してくるウザ男君に向かって、数人で乱射。
別に当てる必要は無い。奴の足元を狙って撃ち込み、移動に弊害を起こさせれば十分と言う事で、ファイアボールは地面にウザ男君の足に当たり、軽い爆発の様なものを起こしつつ燃え広がっていく。
「な、卑怯だぞ! 卑怯なんだぞ!! 魔法を使うとか!! ムキィー!!」
……むきーとか口で言う奴初めて見た。
と、それは置いておくとして、この魔法のお蔭で奴が自慢するスピードは出せない訳だ。少し横に動けば火の海だしな。
実は、予想の一つ程度だったのだけど、これが見事的中した。
それは何かと言うと、奴等はパーツで合成されているので、もしかしたら他の部分の弱点って人間と同じじゃないか? と言う事。
何せモンスターの特性が一番出てるのは、やはりその姿がモンスターと類似している部分だ。
それなら、人の姿のままな部分はどうなるのだろう? と考えた時、魔法に強いモンスターを合成したとはいえ、それが全てに適応されるのだろうか? って予想したんだ。
そして、案の定……人の身がベースの部分は多少強化されている様だけど、十全にモンスターの特性は機能していない。
現に……。
「熱い! 熱いよ!? 燃えちゃう! 助けて! 助けてよ!!」
水以外の魔法に強かったモンスターを素材としたウザ男君は、火に巻かれて大変な事になっている。
まぁ、あいつが言うとなんだか演技っぽく見えてしまうと言う残念さがあるんだけど。
「全く……考えも無しに突撃するからよ……ほら、ウォーターウォール」
「うぃ……助かったよぉ。ありがとう! ありがとぅぅ!!」
と、此処でお姉さんが水の壁を魔法で作り出して、ウザ男君をフォロー。……やっぱり魔法を使える奴も居たか。
とは言え、水で消火したところでダメージは負ったままだ。……しかし、本当に挙動の一つ一つが大げさだな。
「さて、これで速度を奪った訳だし予定通りに行くぞ」
守口さんが奴等に聞こえない声量で周囲に撤退すると伝える。とは言っても、此方のキルゾーンに彼らをお招きする為の撤退なんだけどな。
ただ、正直言って影山さんみたいに、上手く撤退戦が出来ると思えない。なので、やる事と言えばまっすぐ戻る。それだけだ。
「それじゃ、もう一発足にぶち込んでおきますかね」
念のためにと、鉄串を取り出して奴等の足に向かって投擲。……ただし、炸裂鉄串だ。
数本投げつけた鉄串の中には奴等に回避された物もあるが、それも織り込み済み。むしろ、その回避の仕方もただの鉄串を投擲したと思ったのか、至近距離で避けただけ。
結果は言うまでも無く……奴等の足及び足元で小規模ながらもファイアボールとは別の種類の爆発を起こした事で……。
「ぎゃぁぁぁぁぁ! また足がぁぁぁぁぁぁ」
「なによ! 何なの!?」
「…………クッ」
足に鉄串が刺さったウザ男君は追加で足にダメージ。他の二人は避けたモノの至近距離の爆発に対して、びっくりしていると言った状況。
「よし! 今だ!」
と、このタイミングで、すたこらさっさと俺達は撤退する事に成功した。
とは言え、森の中に居る奴は何なんだろうな? この状況において全く動く気配が無いのだけど。
海辺の街に用意された防衛ラインの近くまで戻ると……其処では実に可笑しい光景が。
「あれ? 守口さん、どうみても戦闘をしてませんか?」
「そうだな……一体何が有ったんだ? とりあえず急いで戻るぞ!」
俺のやった足止めを乗り越えて此処に辿り着くには……まだ早すぎる。何せ、撤退するまでにはまだあの足止めゾーンにその姿を見たからだ。
では、森の中を突っ切って来たのか? と言うと、それも難しいだろう。
少人数であれば、あの三人組の様に奇襲することぐらいは出来るだろうが、目の前に居るのは結構な大人数。だとすると、俺や美咲さんや守口さん達相手に気が付かれる事無く迂回するなんて無理だ。
「だとすると……最初から街の近くで潜んでいたか……もしくは」
「海だろうな。どうやって海を渡って来たかなんだが……あぁ、そういう事か」
はい。SANチェックのお時間です。と言いたくなるような見た目をした白いコートを着た奴等。
その顔が……サハギンとでも言えば良いのか? それとも、イン●マス面? まぁ、お魚さんという奴だ。
「凄い魚臭そうな……」
「……なんで人魚とかセイレーンじゃないんだよ」
「おいおい、そっちの趣味でもあるのか?」
守口さんが率いている人達が何やら面白おかしく話しをしている。とは言え、見た目って重要だよな。どう見ても悪そうな奴等だもの。
ただ、そんな魚面の奴等は、武器もトライデントと姿に合わせたのだろうかと思ってしまう物を使っているが、その練度はかなり高い。
もしかして、海の調査用に作られた存在だったりするのかもな。もしくは海ダンジョンを探索する為かもしれないけど。
「海側から来てるみたいだな。と言うよりも、あいつらの見た目からしたら海に入ったまま弓でも射る方が良いのではないか?」
「陸に上がってトライデントで戦ってますからねぇ……何か理由があるのかも?」
まぁ、その理由も思考能力の低下だと思われるけど。
「それにしても、予想以上に強いですね」
「そう……だな。これは出すしかないか?」
現状だと上野さんが率いてる人達が、トライデントを使う奴等に合わせて盾と槍で戦っている。
投網みたいな物を投げている場所もあるけど、あ、あれ便利そうだな。網にかかった魚面達がどういう訳か動きを止めてぐったりしている。
他にも、魔法を使って迎撃をしているみたいだけど……海に居る奴等から水魔法で上手い具合いに合わせられて相殺されているな。
ふむ。こう見ると、思考能力が残っている奴等は海に残って魔法を撃っていて、そうじゃない奴等は陸で接近戦をしているようだ。
ただ現状であればの話だ。
「これ、本当だったら陸と海両方から攻められていたんでしょうね」
「白河は唐突に嫌な事を言うな。だが、そうだったんだろうな……お前が足止めしてくれて助かった訳だ」
頑張る上野さん達に向かって、一気に走りながら状況を確認をしておく。うん、本当に同時進行だったら色々と面倒と言うか大変だったと思うよ。
そんなこんなで、戦場の横を駆け抜けて防衛本陣へとたどり着いた。
「無事に帰ったぞ!」
「戻りました!」
「良かった! 今大変なんだ……と言うのは帰還時に見てわかってるだろう。戻ってきてばかりで悪いんだが……」
「解っている。俺達の部隊は前線にでるから……事の内容は白河に聞いてくれ」
ふむ、では俺は先ず色々と報告と行きますか。と、報告もだけど、美咲さんや桜井さんはどうなったかも聞かないとな。
「……と言う感じでしたね。森の中に隠れていた奴は一向に姿を見せませんでしたが、それ以外の足止めは何とか出来たと言った処です」
「なるほど。因みに、此処に来るまでどれぐらい時間が掛かるか解るか?」
「三人組でしたら割と早く来れると思いますが、白装束の部隊ともなれば……今しばらく猶予は有るかと」
上野さんに陸側の状況と予想などを話していく。
足止めフィールドから抜け出した者はいるだろう。ただ、此処に戻るまでの間に凄く簡易なものだけど地面を弄って来ている。
何せ、予想以上に三人組が追いかけてこなかったからな。あれは……恐らくだけど、白装束達と合流するつもりなのだろう。
あれだけ足止めをされた上で、足にダメージを与えたんだ。流石に愚直なまでの突進はしないだろう。と言うかあのお姉さんがさせないだろうな。何というか、まだ思考能力を保っていた雰囲気だったし。
そんな訳で、陸側の状況はまだ余裕が有るだろうと言う事で、海からの襲撃者に対抗するのだけど……その前に。
「美咲さんと彼女が連れてきた男性はどうしてますか?」
「あぁ、彼女は今防壁の上だよ。そこから狙撃して貰っている。それと、男性は医務室で眠っているな」
「そうですか。起きる気配は?」
「今のところは無い。ぐっすりとしているよ」
まぁ、あれだけの戦闘をした後だからな。回復するのも時間が掛かって当然だ。
それにしても、美咲さんは桜井さんを見るのではなく防壁へと行ったのか。となると……イオ達はどうして居るんだろうか。
「それじゃ、イオ達は?」
「あぁ、彼らなら前回と同じだよ。風君が空から偵察、双葉君が通訳、イオ君は森側の警戒だ」
なるほど。それぞれ得意な位置に着いたのか。……言わなくても各自で行動するとか、成長してるなぁ。
「それじゃ、俺も美咲さんに合流して援護射撃に回りますね。陸側から来る警戒も上から見た方が解りやすいでしょうし」
「そうだね。そっちの警戒も必要になる訳だし……出来れば、合流される前に海側を叩きたいところだな」
ま、それはみんなの働き次第と言った処でしょうね。
兎に角、海のモンスターと合成した奴が相手だ……これは、雷でも使えば一網打尽に出来ないかな?
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