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二百六十八話

 ワイバーンらしきモンスターの存在を認識してからというもの、街の中では不安を感じる人が増えている。

 そして、それの解消という訳でもないが、ほぼ毎日モンスターの奇襲に備えて避難訓練を行っていたりする。


「おかしだっけ? おかしもだっけ? まぁ、壁の中に住んでる人達が実際にモンスターなんて見たら、そんなの守れる訳が無いんだけどな」

「でも、やらないよりましだよね。モンスターの姿を見てしまうまでは上手く行くだろうし」


 避難訓練。まぁ、地震やら火事やらの為に行って来た訓練だけど、今や対モンスター用だ。

 とは言え、ダンジョンでモンスターに大怪我を負わされた人や、あの大崩壊時にモンスターの姿を見た人達は、モンスターが来ると言われ冷静になれるだろうか? トラウマがぶり返してパニックに陥るのではないだろうか。

 そのような不安要素が有るのは仕方ないだろう。しかも、パニックは感染する。

 一人がパニックに陥ったら、周囲に感染して暴走するなんて良くある話だ。


「それを少しでも防ぐ為なんだろうけどな」

「みたいだね。ほら、パニック講習もやってるよ? 訓練の列の中で態とパニックを演技してる人がいる」


 ワーギャーと集団の中で叫ぶ男を、周囲の人が必死に抑える……なんて訓練だ。

 ただ、その演技が実に迫真だったのだろう。近くに居る子供達は泣き叫んでいる……うん、こうやってパニックは移ってい行くんだよな。


「あ、保護者の人が必死にあやしてる。これも、早くやらないといけないから大変だよね」

「子供の号泣は他の子達も巻き込むからなぁ……」


 ガン泣き感染とでも言うべきだろうか。不安の感染とでも言えばいいのだろうか。子供の感性はかなり鋭いからな。

 しかも、一度発症? してしまえば、長い事続いてしまう。これはこれで他の人の精神も一気に擦り減らして行くので、防ぐ事が出来ると一番良いのだが……。


「相手は子供だからなぁ。防ぐとか十割と言っていいレベルで無理だろうな」

「対処を考える方が必要だよね。飴でも準備しておく?」

「飴で泣き止むか? ……まぁ、数名は行けるかもしれんが」


 因みに、俺と美咲さんが他人事の様に話をしているけど、それは当然で……俺達探索者側はモンスターと戦う側であり、避難する人達に着くとしてもそれは護衛だ。

 彼らと行く行動が違いすぎる。

 なので、俺達以外にも他の探索者や協会員の人達は、訓練を見学し何か不具合が無いか、改良すべき点は何処かなどを話し合っている。


「問題と言えば、今回のモンスターは空中から来るって事だからな」

「迎撃するにしても、壁が役に立たないからね……避難も大変だ」


 下手をすれば、避難中の人達が狙われるなんて事も有るだろう。

 最早お祈りレベルで狙われる側が俺達である事を祈るしかない。後は護衛に就いた人が上手く撃退させてくれる事もか。


「少しでも早くシェルターに行ってくれるのが良いんだけどな」

「たしか、一家に一つ地下通路案が出てたよね。あれ、なんで却下されたの?」

「あー……アレは、泥棒が悪用する可能性と、誰かが戸締り? いや、道の閉鎖か。それを忘れたら、通路に入れるサイズのモンスターが相手だと、シェルター内に雪崩れ込まれるからだな」

「コンピューター制御とかで一気に封鎖出来ればいいのに……」

「まだ其処まで街が復興してないからなぁ。まぁ、その内考えるんじゃないか?」


 確かに、家の中から直接地下へと移動出来れば、それが一番安全ではあるからな。

 足らないのはモラルと技術と言った所で、廃案となった訳だけど……何時かは出来る様になるだろう。


「しかし、村と比べて人が多いからか、避難するにしても時間が掛かるもんだな」

「シェルターへの入り口は増やしたみたいだけど……それでもって感じだね」

「……前までは一つだけだったみたいだからなぁ」


 実は、シェルターが一つしかなかったという事で、助からなかった人も出たって話がある。

 家や居た場所がシェルターから遠かったり、溢れかえる人達で中々シェルター内に入れなかったりとしたらしい。

 まぁ、俺達の村はそんな事など起こらなかったので、全く解らない話なんだけどな。


 ただ、そういう事も有り、シェルターの入り口自体は地下鉄の入り口みたいに、復興作業の際に増やして行ったそうだ。

 最初から複数入り口を用意しておけよ……と思わなくもないが、シェルター自体を造れる場所が無かったし、崩壊前だと地下も地上もなんらかの施設で空間が埋まっていたからな。


「そういえば、調味料とか毒とか通用するのかな?」

「……どうだろうなぁ。ただ、やるなら手榴弾とかを食わせた方が良いんじゃないか? 腹の中まで鍛える事は出来ないし、内臓に鱗なんて無いだろうからな」


 まぁ、どこぞのゲームやお話みたいに、爆発する物を平気で食べるモンスターでもない限りだが。

 いや、そういったモンスターが居る可能性はあると思うけど、相手はワイバーンみたいな奴だろう? なら、恐らく大丈夫だと思う。まぁ、ワイバーンじゃくてドラゴンだったらあり得る気がするけど。


 そんな話を美咲さんとしていると、避難訓練内で態と起こされたパニック訓練は、上手い事収束し始めた。

 ただ、これも先ほど美咲さんと話したように、モンスターの姿を見ていないからと言える。


「やっぱりモンスターの姿が無いと、簡単に収まるか」

「うーん。結弥君はさ、どうするのが一番良いと思う?」

「そうだなぁ……人道的とかそういうのを無視する話になるけど、パニックを起こした奴はさっさと眠らせる。眠った後は運ぶだけだからな」

「わぉ、過激だね。納得は出来るけどね」

「だから人道的なのを無視って言ったろう? だけど、一番効率は良いはずだよ。パニックが感染する前に対処するならって話だし」


 実際、命の危機といった場面だ。人権がなどと言っている余裕は無い。そして、美咲さんが納得できるのも、実際にモンスターと戦っているから感じる事だ。

 もし、モンスターを見た事が無く、前回の崩壊時も安全に避難出来た人がいたとすれば……割とそういう事を気にする人も出てくるかもしれない。

 ここら辺は、色々と難しい判断を迫られるのだけど、それを判断するのは上の人達だ。


「それこそ、子供は全員眠らせて、足腰が弱い人と一緒に、荷台にでも載せて運ぶのが一番楽だと思うよ」

「それはまた……極論だねぇ」

「平和な世の中という訳じゃないからな。寧ろ極論が正解なんてパターンも時にはあるだろうね」


 目の前の訓練を見ていていそう思う。何せ、足が遅い人に合わせて移動するものだから、実にその速度が遅い。

 しかも、この状態でモンスターの姿を見て駆け出す人が出れば、間違いなくドミノ倒しで大怪我必須だ。


 そして、周囲では同じ事を感じている人が居て、こちらの会話が聞こえていたのだろうか、何やら俺達を見てうんうんと頷いている。

 まぁ、彼らもモンスターと戦ってるからな。その危険性など嫌と言うほど理解している。

 それ故に、この避難訓練が必要だと解っていても、見ていてもどかしい気分になるのは当然なのかもしれない。


「ま、このままだと本当にお祈りコースだな。狙われるのが彼らだと間違いなく被害者が出るよ」

「かといって、全員を護衛に回すなんて出来ないよね」

「それをやれば……間違いなく避難している人達にも戦闘の余波が行くだろうからなぁ」


 護衛なんてのは最悪、死なない様にする為に用意するようなもの。

 避難している近くで戦闘が起きたのならば、怪我人は多数出るだろうからな。

 だからこそ、ターゲットが探索者側に向くように壁の外で待ち受ける訳なんだけど。


「相手に思考能力があったら、弱いところから狙うだろうしなぁ」

「どちらにしても、賭けに近いって事かぁ……やっぱり、避難する速度を上げるしかない?」

「そういう事……だけど、現状だと無理があるんだよなぁ」


 こればっかりは本当、上の人達に英断して貰いたい処だ。

 荷物の様に運ぶ。それが一番命を守るという事に繋がるのだから。

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訓練は大事! でも、皆さん昔の意識に引っ張られていたりします。

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