九十八話
イオとペアでオークの斥候狩りは問題が起きる事も無く、予定した時間稼ぎの役割をしっかりと全うした。
ただ、やはり不気味なのは一切の変化がなかった事だ。オーク達は帰ってこない斥候などどうでも良いと思っているのだろうか? それとも、最初からこちらの予測がちがったか? あれは斥候じゃなくてただの単独奇襲だったとか……しかし、成功の目がない行動を何故するのか疑問にもなるが。
こちらの斥候は、猟師さんや影山さんのお陰で予定していた人数が習得できた。影山さんを合わせて合計六名だ。
三人一組でチームを組ませて、交替制でオークの拠点を調べてもらっている。ただ入ってくる情報が、オーク達は特になにか行動をする事が無く、ただ日々を飲み食いしながら過ごしているらしい。
そう言う訳でお姉さんも拠点へと出向しているので、今まで集まった情報をもとにオーク攻略会議が開かれている。
「オークの行動が読めないわね。村に奇襲を仕掛けてきたのも最初の一度だけ。その後は単独でオークが集落からでてくるけど、それを狩っても反応がない……本当何なのかしら」
「……もしかして、挑発行為で集落に誘っている?」
「俺達と同じ作戦ってわけかい? おいおい……あいつ等ってそんなに頭が回るのか?」
「ありえなくは無いわね。一度目の襲撃に失敗してるもの、何か手を変えて行動しているのかもしれないわよ」
釣り作戦は俺達がやろうとしている事だ。それを相手も行なっているのならば、お互い動きがなくなる。しかし、オークが待ちの作戦を取るというのはどういう事だろうか? 俺達なら色々と武器の開発や拠点の整備をしたりしているので、時間が過ぎる事にメリットがある。
だが、オークの場合はどうだろうか。斥候の報告からみても、俺達みたいに何かを作ったり拠点を強化している訳じゃない。
裏で何かやっているとしても、一切外に其れを出さないのは難しいだろう。なにかしらの洩れがあるはずだ。
「オークの特性ってなんでしたっけ?」
「協会資料だと、筋力が高いとか防御が硬いとか……そんな物しかないわよ」
「まぁ、現実的にオークを外で見るなんて無かったからな。ここは……ゴブリンが良く出る話と同じと言う事をベースに考えてだ……繁殖力か?」
「……それって、現状あいつらは数を増やしてるって事?」
ゴブリンが他の種族を相手に、自分達のコピーを作るかのようにその数を増やしているのは、最近発覚した。
人間の女の人をみれば他を一切みずに特攻して来るから、もしやと思って調べてみれば……猿型のモンスター相手にその数を増やしたりしていたのを発見。この件に関しては、本当女性が捕まる状況になら無くて良かったって話なんだけど、オークも同じという事ならば恐らく、猿やゴブリン相手にその数を増やしているかも知れない。
「うげぇ……数が増えるとかやめて欲しいんだけど」
「どのぐらいの勢いで増えてるのかも解らないし、本当に増やしてるかも解らないからなんとも言えないわね」
「とはいえ、防衛策も相手の数を考えて作っているのだろう? 数が増えたら面倒だぞ」
さてさて、どうしたものか。相手の数にあわせて現状トラップの設置等をしている訳だし、そもそもオーク達を釣りだせなければ意味が無い。
挑発には挑発で返すべきか? ただ、難易度が高いクエストになりそうだよなぁ……挑発行為をするとなると、ばれながらもぎりぎりのラインで逃げろって事だしな。
まぁ、やるとすればだ……。
「お姉さん、朝駆けしましょう。オーク達も睡眠は夜とるみたいですし、それなら一番気が緩んでいる日が昇る少し前に、挑発しつつ数を減らすのが良いと思います」
「奇襲はいいけど……どうやるつもり?」
「そうですね……此処はいつもの冗談を実行しませんか?」
「お! 焼き討ちか? 焼き討ちだな!」
素材や魔石が少々勿体無い気もするが、相手の数を考えればそうも言っていられない。ただ、問題は燃やす為の燃料が余り無いという事になる訳だが。
「油は何とかできると思うわよ? 研究班が頑張ってくれたお陰で、植物や動物から結構な量の油を準備できてるから」
「研究班の仕事の速さに吃驚ですけど、今回使えば一気に減りそうですね」
「ま……オークからまた搾り取ればいいでしょ? 問題は……魔粉を混ぜる量よねぇ」
ダンジョンから出たお陰なのか、モンスター達は普通の武器でも多少通るようになったけど、やはり魔石や魔粉を混ぜたものは段違いの威力を誇っている。
例えば、ただの油で燃やしても夏場に太陽で日焼けした程度だが、魔粉を混ぜ込んだ油ならば魔粉の量や質で変化するが、火傷から火葬まで自由自在だ。
とはいえ、魔石は色々な場所で使う貴重な資源で現状安定供給されていない。当然、使う分量には頭を悩ませてしまう。
「まぁ、ケチって相手が怒っただけでした! では意味が無いわね……よし、予備在庫が減るけど火力を上げていきましょうか」
品川さんが魔石の消費について決定すると、周囲から歓声が上がった。其れほどまでに魔石の用途は全員が色々と考えている事だ。
そして、この判断が戦闘班の被害を減らす為だと理解していれば、歓声も上がるに決まっている。
「ま、それにここでオークの魔石を大量に入手できるわけだしね。皆にはきびきび働いてもらうわよ!」
上げて落とすとはこの事だろうか。ブーイングの嵐である。まぁ、全員が笑いながらブーブー言ってるだけなので、このブーイングが本気でないのは間違いない。
方針が決まったことにより、張っていた気を緩めるためにやった事だと皆が理解してるんだろうね。
「さて、それじゃ皆解散ね。私は村に戻ってから奇襲用のアイテムを準備させてくるわ。美咲ちゃん行くわよ」
「はい! それじゃ皆がんばってね!」
二人が村へと戻っていくために、拠点の会議室から出て行く。此処からは、戦闘班達での話し合いだ。
「さて、資材は協会長様に任せるとしてだ。誰が奇襲を仕掛けるかだな」
「相手の気が緩む時間帯とはいえ、警戒要員は居るだろうな」
「んー……当然だけど、隠密行動が出来ないと無理じゃない?」
隠密行動ができるとしても、破壊工作が出来るわけじゃない。ある程度遠くから相手を見るのと、相手の側まで行って色々仕掛けるのは違う。
影山さんのスキルアップがどれぐらいか解らないけど、成長速度を考えて彼がぎりぎり出来るぐらいじゃないだろうか。
「そうだな……影山。お前からみて、行けそうな奴はいるか?」
「……物見以外となるとまだ無理だ。当然だが俺も自信は無い」
「そうか。なら白河はどうだ?」
「一応ですが、ダンジョンで破壊工作ならした事は在ります。その時はソロだったので、イオが居る今なら成功率は上がるかと。あと、影山さんならあれ以降にもスキルアップしているのであれば、行けるのではないでしょうか?」
「お、俺か!? 確かに少しは腕が上がったと思うが、正直厳しいぞ!」
俺の発言を基に思考を始めるリーダー。しかし、その思考も数分で終わり俺は決めたぞ! という顔で周りの人達を見ながら口を開いた。
「そうだな、資材が来るまでの間に少し訓練してもらおうか。何時誰が何処で工作訓練をするかは俺が本人だけに言う。それで、周囲の人間に気がつかれるかどうかだな。ここは拠点だし丁度いいだろう」
相手の拠点を調べる仕事もあるというのに、何というスパルタだろう。とはいえ、人手が多ければ気配で気がつかれる可能性が上がるが、時間的に見ればリスクは下がる。
朝駆けによる工作活動ならば、気配に気がつく可能性は一気に落ちるはずだ。なら、時間的なリスクを取った方が良い方向に行く可能性は高い。
なるべく、リーダーの無茶振りを越えてくれる人が多い事を祈るか。
――瘴気調査班――
入谷達がシェルターから見える位置でどんちゃん騒ぎをしていると、シェルターから数名の男性が入谷達の元へと向かってきた。
入谷はその姿をみて口元を緩めたが、すぐさま表情と意識を交渉モードのソレへと変える。
「すまないが、少し良いだろうか?」
「ええ、勿論ですよ。手紙に記述した通り、此方は常に対話の準備をしてましたから」
「ソレに関しては、返答が出来ずすまないな。罠かどうか等の事も考えなければならなかった故な」
ちなみに、シェルターから交渉に出てきた男達の中で、リーダーと口論していた男は出てきて居ない。
彼は未だにリーダー達の判断を間違っていると決め付けているため、シェルターの中で他のメンバーに監視されながらのお留守番だ。
交渉の場に出して悪い空気にされたら、たまったものじゃないと判断した結果とは言え上手い事丸め込むべく、彼にはこれが罠だった時の為にシェルター内で待機してくれ! などと言っており、実は割りと良い気分でお留守番をしているので、監視されていることにも一切気がつかず、周囲との温度差が凄かったりする。
閑話休題
入谷は外に出てきた男達が、元々は自衛隊に所属していたメンバーだと見抜いていた。そして、その行動がシェルター内の人を守る為だけのものとも。
であれば入谷にとって彼等が出てきた理由を考えれば、やはり食料や周囲のモンスターについての情報欲しさだろう。そして、ソレはものの見事に的を射ている。
そして、それをベースに交渉すれば悪い事にはならない筈と言うのも、また正解だ。
「っと、先ずは自己紹介ですね。私はこの先にある村から来た、この調査班を率いている入谷と言います」
「これはすまない、本来なら話しかけた自分から言うべきだったな。自分は、ここでシェルターのリーダーをしている守口だ」
お互い自己紹介をしてから、本題へと入っていく。
まずは守口たちシェルター側からの話だ。彼等の食糧事情から周囲のモンスターの状況についての質問。および、この間あった大きな振動は何だったのか? といった事についてだ。
「まぁ、そう言う訳なんだが……できれば、食料が余っていれば分けて頂きたいのと、情報が欲しいと言ったところだろうか」
「なるほど……ただ、我々も何の見返りも無しにどうぞと渡せる訳じゃないのは解ってますよね?」
「当然だ。自分達も其処まで恥知らずではないさ。とはいえ、今すぐ何かを渡せるなんて無理だぞ?」
当然だが、此処に必要になる物があるなど入谷達も考えては居ない。どちらかと言うと、将来を見据えた交渉だ。
「我々が貴方達にお願いしたいのは数点です。先ずは、拠点が欲しいのです」
「拠点だと? どういう事だ?」
「この先にあるダンジョン。そこまでの道のりに安全に休める場所が幾つか欲しいのですよ」
電車や自動車が無い上に道も整備されて無い状況だ。安全の確保は前々から会議で上がってた通り必要なものである。
なので、先ずはこの街に安全となる場所が欲しい。入谷は先ずソレをを交渉のカードとしてだした。
「ふむ……しかし、街の整備をするにしても大変なのだが……」
「まずは壁の建築等でしょうね。その件は幾つか技術交換しましょう。という事でそれの変わりに出す要望が、この先にある森に立入らないで欲しいという事です」
次に〝神樹の森〟への立ち入り禁止を要求。技術を教える変わりに入るな! という訳だ。
まぁ、立入った所で迷わされ、彷徨ってる間に食料が尽き、行方不明となるのは間違いないだろう。ただし、森に立入った人を見捨てる。その為の大義名分が必要なので、こういった交渉をしておく。寧ろお前らも無断で入った奴は見捨てろ、という事を押し付けてるとも言える。
「ふむ、そんな森があるなら入らないほうが良いのは解るが……其処まで厳しくする必要があるのか?」
「何分、その神木を守るモノが居ますからね。彼等との約束は守らないといけませんから……下手に突いて、災厄を招くより良いでしょう?」
「……話を聞く分にはその通りだな。まぁ、入らない事を守れば色々と教えてもらえるなら問題は無いか」
こうして色々と約束事を決め、其れを明文化しお互いの状況を確認し合っていく。
入谷達の会合は、今後どうなって行くのか。色々と問題点は残って居そうだが、安全や人手の確保が出来た。
これにより、村の快進撃が更に進む事に……なるかもしれない。
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