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好転の星  作者: ベン マウント
9/10

両親と祖母

今日は、少し気分がすぐれない、今夜麗子の両親と会うのだ、高卒を馬鹿にするな、という心意気で今までやって来たが、結婚を前提に、その相手が良家の子女、一流大学卒、一流企業の専務、それを妻にしようというのだ、気後れしてもしょうがないだろう、とても普通の男が相手では、許される筈がない、それを高卒、特に何もなし、の俺が認められるわけがない、反対されるのを覚悟で臨むのだ、落ち込んだ気分になるのも仕方ないだろう、誰にも相談できる問題ではないし、まあ、当たって砕けないように、麗子を幸せにするため、頑張るしかない、頭では分かっているが、何とも気が重い

社長の座に据えられて以来、数々の修羅場に遭遇してきたが、今夜が一番難関な気がする、待ち合わせのレストランに、向かう足が重い、もっと自分に自信を持て、人生学歴や生まれで決まるわけじゃない、今までそう思って生きてきたではないか、自分を叱咤激励しながらレストランに入った、こんな高級レストラン、社長という立場での付き合い以外、入る気にもならない所だ、こういう場所を当たり前のように指定して来る、その辺がもう苦手だ、ウェイターに案内された席に、両親らしい人と麗子はもう来ていたが、一人多い、初めて麗子に会った時のおばあちゃんがいた

「遅くなりまして、申し訳ありません」

「いや、こっちが早く来てしまったんだ、待ちきれなくてね」

いかにも上品そうなご両親が、にこやかに迎えてくれた

「父と母よ、それから初対面じゃないわよね、おばあちゃん、いわば私たちのキューピット、分かってるよね、おばあちゃんが居なければ、信也との縁はなかったかも」

「うん、そう言えば、そうだね」

「進藤君、そう言う訳で、こういう席におばあちゃんを、同席させるのは失礼かと思ったが」

「とんでもない、大歓迎です、ご両親だけより、助かります」

「私たちが怖いとでも」

思わず本音が漏れてしまった

「いえ、決してそういう意味では、すみません」

「信也、本音を言い過ぎ」

四人が大笑いしている、そして

「ごめん、進藤君、笑って悪かった、君とは初対面の気がしないんだ、麗子にいつも惚気られていてね、思った通りの人物で、思わず笑ってしまった、こんな家族だが、今後ともよろしく頼みます」

「はっ、えっ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」

今までの心配をよそに、簡単に受け入れて貰えて、返って戸惑ってしまった

「結婚を前提にお付き合いさせてください」

頭を下げる

「勿論、お付き合いだけでなく、貰ってもらうつもりですよ、こんな娘で良ければ」

「お父さん、こんな娘とは何よ」

「そんな、俺には過ぎた人だと思っていますから」

「進藤君、最初が大事なんだよ、今からそんな事じゃあ、尻に敷かれてしまうよ」

「いえ、本当にそう思ってます」

きっぱりそう言うと

「駄目だこりゃあ、男としての助言も効果なしか、もう、好きにしなさい」

両親とおばあちゃんがまた笑い出した

「すみません」

「進藤君、謝る事はないよ、そう硬くならないで、楽にしよう」

「そうよ、何時もの信也らしくないわ」

「すまん、こういうのは慣れなくて」

「もう、謝ってばっかり、違うでしょう、もっと堂々としてよ」

「そうは言っても、ああ、そうだな、分かった」

言われて、深呼吸をして、落ち着こうと思った、その時

「騒ぐな、静かにしろ」

声のする方を見ると、男が飛び込んで来た、手に拳銃を持っている、俺たちの席の近くで止り、威嚇するように拳銃を天井に向けて、仁王立ちしている、それを見て体が自然に反応していた、テーブルに会ったナイフを体掴むと、拳銃を持った男の手を目がけて投げつける

「痛いっ」

悲鳴を上げて拳銃を床に落とした、すかさず立ち上がり男に近寄ると、ナイフが当たって出血した手を、逆手に取って男を抑え込む、一瞬の出来事だった、客たちは何が起こったか、まだ理解出来ていないようだ

「警察を呼んでください」

そう大声で怒鳴った、そこへ殺気立った男たちが、何人も駆け込んで来た

「警察です」

先頭の男が叫んでいる、男を抑えた俺を見つけると駆け寄って来た、取り押さえていた男をその男に渡す

「二十時十三分、公務執行妨害及び銃刀法違反で逮捕」

手錠をかけた、流石慣れたものだ

「畜生」

呻くように言いながら、捕らえられた男は蹲ってしまった、後から来た刑事が其れを立たせ、入り口に向かって引き立てて行った、それを見送ってから声を掛けて来た

「ありがとうございました、けがはありませんか」

「ええ、何ともありませんよ」

「ご協力感謝します」

「此処は何も被害はありませんよ」

「お手数ですが、調書を取りたいので、署までご同行願えませんか」

「今は忙しいので、後日改めてでいいでしょう」

「はあ、できれば」

『今はだめです、せっかく協力してやったのに、そんな融通も利かせられないのですか」

そう強く言うと

「それではせめて、お名前を」

名刺を渡し、免許証を見せる

「これで良いでしょう、店にも迷惑だし、あんたたちのミスで大事になるところを、協力してやったんだ、早く撤退してくれ」

生意気な奴が、という顔をする刑事もいたが、結局しぶしぶと引き上げていった、するとすぐに男が傍に寄ってきて

「支配人の渋沢と申します、騒ぎを収めていただき、ありがとうございました」

深々と頭を下げる

「いや、居合わせてしまったから、当然のことを下までだよ」

「いえ、当然で出来る事ではありません、失礼とは思いますが、今日の料理は当店で出させていただきます、それと後日お礼をしたいと、オーナーが申しております、お名刺をいただけないでしょうか」

「いや、お礼は結構です、お言葉に甘えて、今日の料理だけはいただきます、後は気を使わないように、普通に扱ってください、お願いします」

客たちは最初のうちは物珍しそうに見ていたが、今は通常の店の雰囲気に戻っているようだ、洗面所で男の血で汚れた手を洗い、席に戻る

「すみません、余計な騒ぎにならないように、余計な事をしてしまいました」

「余計な事って、放って置いたら私たちの、命も危なかったんだ、よくやってくれた、凄いね、麗子に聞いていたが、目の前で見られるとは」

「ほんと、ドラマを見ているようだった」

「ドラマじゃ、こんなに早く解決しないよ」

お母さんとおばあちゃんの会話だ

「うん、見事だった、進藤君が居なければ、今頃私たちは人質に取られ、どうなっていたことやら、ありがとう、本当に助かった、このレストランだって、どんなに助かったか、それに、警察だよ助かったのは、恐らく犯人に逃げられて、追いかけていた、此処に逃げ込まれ、人質を取られ、大捕り物大事件に発展するところを、進藤君が防いでくれたんだ、刑事は七人いたよな、七人で手に負えない奴を、進藤君は一人で、しかも簡単に取り押さえた、凄いよ、此処の署長は運が良かった」

「お父さん、もう良いですよ、止めてください」

「おお、お父さんと呼んでくれるか、良い響きだ、うん、わかった息子よ、しかし良くやった、有村が見込んだ訳が分かったよ」

麗子、お義母さん、おばあちゃんが笑っている

「お父さん、馬鹿じゃない、何が息子よなの、未だ名前も信也に言ってないでしょう」

「おお、そうだった、進藤君失礼した、私は原元聡一」

「聡子です」

「祖母の芳江です」

「あらためまして、進藤信也です、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、でも、本当に凄かったわね、進藤さんて、何を習っていたの」

聡子が聞いてきた

「ええ、合気道をちょっと、齧っただけで後は自己流です」

「自己流でそんなに強いなんて、信じられないな」

「まぁ、今だってまぐれですよ」

「謙遜しなくても良いよ、大したものなんだから」

料理が運ばれてきた、ワインのボトルが一本

「これは店からです」

そう言われ聡一がボトルを手に取る

「おお、これは年代物だ、店のお礼だろうが、滅多に飲める代物ではないよ」

麗子が

「本当、凄い、いただきましょう」

「俺は、ワインの善し悪しが分からなくて、皆さんで味わってください」

「そんなこと言わないで、乾杯しよう」

そう言って全員のグラスに注いで

「進藤君との出会いに乾杯」

「乾杯」

料理は旨かった、難関を突破した気分は最高だ、両親は凄く良い人達だったし、楽しい夜となった、あの星の輝きは眩しいくらいだった

お読みいただきありがとうございました

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