反逆
「きゃー」
悲鳴が聞こえた、聞こえた方法を見ると、男が女性に切りかかろうとしている
「やめろ」
思わず女性をかばって、男の振り下ろした刃物を、無意識に左手拳で受けた、右手はこれも無意識に男を殴っていた、見事拳が顎にヒットして、男は倒れアスファルトに転がった、そこをすかさずとびかかると、カッターを持った腕を踏みつけ、放したところを取り上げる、近くで様子を見ていた男達が、手伝ってくれて男を取り押さえた、三人の警官が駆けつけてきた、さすがに訓練している人たちだ、素早く男に錠をかけ、近くまで来たパトカーに乗せてしまった、それこそ見ていた人たちには、あっという間の出来事だったろう
「進藤さん、大丈夫」
麗子が駆け寄ってきた
「大丈夫、のようです、それより彼女は」
襲われた女性はまだ蹲ったままだ、傍に行き
「大丈夫ですか」
声をかけると小さな声で
「ありがとうございました」
そう涙声で答えた、麗子が屈むと女性の傍に寄り、肩を抱きながら
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
優しくそう声をかけると、女性は突然麗子にしがみつき、わーと声を上げて泣き出した、麗子はその背中を優しくなでている、警官が傍に来て
「貴方が犯人を」
そう尋ねられた
「ええ、なんとか防ぐことができて、良かった」
「けがはありませんか」
「ええ、大丈夫だと思います、夢中でしたから」
そう言いながら、自分の体を見回す
「大丈夫のようですね」
そう言ったが、左手がチクリと痛かったので見ると、中指にはめた賞品の指輪の前後に、切り傷があり血が滲んでいた
「此処に当たったんだ、カッターの刃が」
そう呟くと警官は近づいてきて
「どれ、ちょっと見せてください」
そう言って、俺の手を取るとマジマジと見ている
「凄いですね、確かに、その様ですね、指輪に当たって、前後が少し切れている、運が良かったですね、指輪に当たらなければ大怪我どころか、殺されていたかもしれませんよ、まさに奇跡の指輪ですね」
「その様です、良かった、助かった」
指輪さんありがとう
「進藤さんは割と無茶なことをやるのですね」
「いえ、普段はとても、咄嗟に体が動いて、冷静なときだったら多分、逃げ出したでしょうね」
「どうだか、まあ、そう言う事にしておきましょう」
そんな会話をしていると警官が
「すみません、調書を取りたいので、署まで来ていただけないでしょうか」
「私もですか」
麗子が聞いている
「できましたら」
「そう、しょうがないわね、貴方は、もう大丈夫かしら」
そう尋ねると
「はい、もう大丈夫です」
はっきり答えた
「じゃあ、行きましょうか」
結局、被害女性と三人警察にご招待された、他にやじ馬や手伝ってくれた男たちも、招待されたようだった
翌日、通り魔事件として新聞に載ったが、一面というほど大々的ではなかったが人が出なかったからだろう、それより、ネットにやじ馬の誰かが、流したらしく、奇跡の指輪の見出しで、大騒ぎだったらしい
さっそく課長に辞表を提出した
「辞めるのですか」
「だから辞表を出すんです」
「何か、不都合な事でもありましたか」
「いえ、ヘッドハンティングですよ」
「ほう、それは凄い、うちより条件が良かったんですね」
「ええ、比べ物になりません」
「気を付けてくださいよ、そんな甘い話は危険ですよ、大丈夫ですか」
「大丈夫、課長もご存知の会社ですよ」
「そうですか、仕方がありませんね、一応お預かりします」
自分の席に行くと荒木が、聞こえたらしく
「辞めるのか」
「ああ」
「その年で、また新人からじゃ大変だぞ」
「まあね」
「どこへ行っても、出世は無理だもんな、高卒じゃあ」
その言い方にムッと来た
「いや、能なしの大卒より、能ある高卒が良いんだってさ」
「何い」
無視してかたづけを始める
「もう一ぢ言ってみろ」
荒木が胸ぐらを掴んで来た
「だから、能なしの大卒より、能ある高卒の方が良いといったんだ」
「誰がだ、俺を誘ってくれた人さ」
「高卒風情が生意気に」
前から気になっていた分析を、パソコンに操作する、驚いた、十人近く営業部員がいるが、俺が最古参になっている、そして顧客リストを分類して、俺の開拓した顧客を出すと、売り上げの三割を超えていた、これだけ人が入れ替わっているのだ、人材が定着しないのだ、辞めた人間は顧客もつれて行っているようだ、そうでなければおかしい、今気が付いたが知っている顧客の名前が、いくつも消えている、この会社マジで大丈夫か、時代の流れか顧客の注文額が増えているから、売上額は落ちていないが、顧客数は減っている
「おい、無視するな、偉そうに」
「まだいたのか、仕事しろ、うるさい」
「貴様」
「よし、決めた、相手をしてやる、ただし、仕事でな、辞めるにつけて、俺の開拓した顧客も全部、この会社と取引を止めてもらう、顧客が自主的に辞める形で、お前はそれを止めてみろ、高卒後時にやる事を、大卒のお前が止められないとは言わないよな」
「何を言い出すんだ、そんな事出来るもんか」
「俺は本気だぜ、お互い頑張ろうな、もうあっちへいけ」
無視して片づけをつづける、課長がやってきた
「進藤君、先程の話は冗談だろうね」
「いえ、本気です、大卒がそんなに偉いのなら、高卒のやる事なんて相手じゃないでしょう」
「俺は本気でやりますから、そっちは片手間でも構いません」
「いい加減にしてくれないか、何様のつもりだ」
「ただの高卒の人間です」
「会社に喧嘩を売る気かね」
「良いですね、大卒で優秀な人間ばかりの会社、相手にとって不足はないですね」
「やれるもんならやってみなさい、世の中そんな甘いものじゃない」
「ええ、やってみましょう、企画会議に出てくれと言われても、大卒のメンツの方が大事だと、断った会社を取るか、これからは、毎月俺が企画会議に出席するから、こことの取引を止めろという、俺を取るか、今までの経過を知っている課長さんには、分かると思いますが、侮れないですよ、三割以上の取引先がなくなる可能性があります、頑張ってください」
「止めてくれ、本気でやる気か」
「だから、最初から本気と言っているでしょう、高卒の実力をおもいしらせてあげなすよ」
机周りの整理はついた
「それでは、お世話になりました、失礼します」
荒木は青くなって机に座ったまま、一言も言わなかった
「待ってくれ、進藤君、話し合おう」
「話し合った結果でしょう、課長も頑張ってください、俺ごときじゃあ物足りないかもしれませんが、さようなら」
三分の一の顧客が辞めたら、残った顧客もおかしいと思い、去っていく客が続出するだろう、あの会社はもうおしまいだ、俺にそんな力があるとは思わなかった、散々馬鹿にされながら耐えてきた、結果の力だ、サンセの専務が目を覚めさせてくれなければ、まだ社畜のままだったろう、感謝しなくては、帰り道十数年通ったこの道、明日からは違う道を通うのだ、そうおもうと景色までがいとおしく思えた、駅までの道を味わうようにして歩く、駅からアパートまでの道も、じっくり味わうようにして歩いた、アパートに着くとベットに倒れこんだ、今日は今までの人生で一番疲れた
翌朝、目を覚ますと
「今日は出勤しなく良いのか」
寝直す気もないので起き上がり、支度をする、サンセに顔を出すか、その時ドアをノックする悪露がした
「誰だろう」
ドアを開けると、男が立っていた
「進藤信也さん」
「はい、そうですが」
「私、ジョウヨウの有村と申します」
「有村って、社長」
「社長が何の用」
「顧客の事について、貴方がしようとしている事を、止めてもらいたくてお願いに上がりました」
「こんなところですが、とにかく上がってください」
靴を脱ぎ上がってきた、俺では見たこともない、高そうな靴だ何万円もするだろうな、下手をすると何十万、そんなことを考える
「社長ともあろう人が、みっともない、こんなボロアパートに来る事が出来るなら、何故もっと社員を教育しないんですか、大卒ばっかり優遇する会社にして、だいたい、十七年務めた俺が、社長の顔も知らない会社なんて、潰れてしまえばいいんですよ」
「申し訳ない、貴方にはつらい思いをさせたようですね」
「今更何をしに来たんですか、言ったことは絶対実行しますよ」
「そこを何とか」
「だいたい、俺一人でやる事に、何を怯えているのか、そちらは何人もいるんだから」
『そう言う事が行われるだけで、信用はがた落ちになります」
「元々信用なんて、あまりないんじゃないの」
「いや、今はそれなりにあるはず、銀行なども認めてくれている」
「いずれにしろ、俺に潰されるような会社、長くはないよ」
「いや、貴方以外なら守る事は出来る」
「俺はそんなに大物じゃないよ、俺以外でもあんたの会社を、潰すのは簡単という事だ」
「いや、貴方は自分の実力を分かっていない」
「どういう意味です」
「もう、ややこしい、単刀直入に言います、貴方が社長になってください」
「はあー」
何を言い出すかと思えば、大丈夫かこの人
「これは、今回の事があったからではなく、来季から社長になってもらうべく、準備は出来ています」
「益々わからない、言っている事が」
「一年前から決めていたのです、準備をしていました」
「係長とか、課長っというなら、まだ分かるけど、社長って」
「貴方が腹を立てた、その事が原因です、役員はじめ奢り過ぎなんです、考えがおかしい、学歴だけで会社が、やっていけるわけがない、確かに今の世の中、学歴の必要な場合はありますが、現場サイドであそこまでは、やりすぎです、貴方を馬鹿にした連中は、実力もないのに、学力ばかりひけらかして、社員のやる気を削いでいる、貴方を辞める気にさせてしまった、もう限界です」
まだ、納得いかない、何の冗談だ
「なんで俺なんです、一介の平社員を社長になんておかしい、何か魂胆があるに違いない」
馬鹿にされていると思うと、余計腹が立った
「工場部門も併せて、従業員三百人足らずの会社とは言え、営業全体の三分の一を、左右できる社員が平では、逆におかしいでしょう、私は準備のため顧客を、全て回りました、進藤さんの人気は凄いですよ、進藤さんが良いといった商品は、必ず当たるそうです、貴方との関係を切りたくなくて、他の担当でも我慢して取引を続けている、そういう会社もありました」
「そこまで言うと嘘だとわかってしまう、俺はそこまでの影響力は無い、会社で言ったのはあまりに腹が立つから、ハッタリで言ったんですよ」
「イヤ、事実です、貴方でジョウヨウは成り立っていたのです、私は幾つもの会社をやっているものですから、目が届かなくて、私にも勿論責任があります、ですから、こうしてお願いに上がりました」
「突然そんな現実離れした話、まだ信じられない、第一社員が納得しますか、役員は」
「役員は私の一存でどうにでもなります、社員に文句は言わせません、念のため、私の持ち株を全部貴方に委任します、ですからお願いします」
「その話が本当だとしても、もうサンセに行くと約束してしまいましたから」
「その点は大丈夫です、原元さんはサンセの役員と、兼任で良いそうです」
「どうして、いつの間にどこでそんな話を」
「実は私はサンセの社長とは知り合いなんです、麗子さんは子供のころから知ってます、貴方の事は相談されていたんです」
「俺の知らない、遥か上の方は繋がっているのですね」
「でも、貴方を社長にという話は、私しか知りませんから、麗子さんの話を聞いたとき、急がなくてはと思いました、まさかこんなに早く会社を去るとは、思わなかったので、内々でお話ししようと思った矢先、こんな事になってしまって」
何となく、本当の話のような気がしてきた
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