Road9 生き延びた後で増える疑問
「ーーう、ここは…?」
意識を取り戻したアルト。身体はまったく動かせないが、自分が死んだわけではないことは理解できた。 外からは月灯りが溢れ、今自分が横たわっているベッドを優しく照らしている。
自分が動かせる限りで辺りを見渡す…
ベッド以外に今見えるものは、石造りの壁と机と洗面台、そして大きな木製の扉だ。
窓を少しだけのぞいてみると向かいに山が見えている、どうやらここは山の中にある建物のようだ。
「まぁ、今の俺に何かできるわけでもねぇし…何処のどちらさんかは知らねぇけど、助けてくれたご厚意に甘えるとしますか…」
身体が動かない以上、どうすることもできないのでアルトは再び眠りについた。
ーーーーー
真っ白い空間。自分自身の認識も定かではない空間。
何処からともなく声が聞こえてくる…
【すでに、人でなくなりし[まがいもの]の身で…】
…人ではないまがいもの?何の話かさっぱりだな。
そもそも、アンタはいったい誰に話してんだ?
【まぁいい。お前はやがて、真実に向き合うことになる。】
あ〜、俺に言ってんのかコイツは?
第一、自分のことだけで手一杯だってのに…真実だなんだので、面倒なのに関わる気はないんだよ。
【長き旅路の果てに選ばねばなるまい。人間のために生きるか、その役割を断ち切るのかを…】
知るかよ、そんなこと。
俺は勇者になれるとか言われてもピンときてないし、役割がどうとか言われても何のことかさっぱりだからな。ーーってかアンタの頭ん中だけで語られてもこっちは訳が分からねぇ。
そもそも、アンタは誰で何者なんだよ?
【お前は分岐点。やがて現れるであろう[万物を導く者]の誕生を願いし者…】
だからその物言いが訳分かんねぇって言ってんだろ…
俺の名が〔分岐点〕ってどういうことだ。
オイ、答えろよ!テメェは何を知ってやがる!?
【語らずとも、いずれ理解できる時がくる。】
そんなんで納得できるか!お前マジで…
ーーーーー
「ふざけんな!」
怒号を叫びながら目を覚ました。
今までの内容は夢だったようだが、夢で起こったことが鮮明に頭に浮かんでいる。
「クソッ…何なんだよこの夢は…」
夢の内容を嘆いても仕方ないので、まずは身体を起こしてみた。…ここでアルトは疑問を感じた。
もう身体は起こすだけではなく、歩くことも可能なまでに回復していた。
流石に本調子とまではいかないが、一通りの行動は問題なくおこなえる。
疑問に感じたことは体の回復が早いことだった。
それもそのはず、どこまで時間がたったのかは定かではないが、一度意識が戻ってから数時間しか経っていないはずなのだ。
戻った時は目しか動かせないほどに疲弊していた身体がもう全身を動かせるまでに回復していることがおかしい。
仮に再び眠ってから数日経っているのだとしてもこの回復速度は常人では異常である。
身体の異変に怪しみながら原因を考えていると、大きく扉を開く音がした。
扉の方を向くと自分と同じ灰色ショートヘアの小柄な女性がこちらを見ていた。
「貴方、もうそこまで動けるの?」
女性から、やや驚かれた表情で尋ねられてしまった。
「そうですね。本調子とは言えませんが、ある程度ならもう問題なさそうです。介抱していただきありがとうございます。」
目上と初対面には礼儀正しく。
自分の恩人でもある方ならば尚更感謝の意を示さねばならないだろうと、微笑みを見せながら礼を述べる。
「山の下流の方に流れついてたから驚いたわ。息があったから治療はしたけど…いったい何であんなところに?」
問われた後、これまでの経緯を女性に話した。
ライフレッドの町から出かけ、屍人に戦いを挑んで無残に負けてしまったことから、呼び出された屍人達に追い詰められて捨て身の覚悟で橋を崩したところまでの全てを伝えた。
「屍人にしては動きがおかしすぎるわね。剣を扱うどころか握る知能も持ってない連中だし、攻撃も矢継ぎ早におこなえるほど素早くもない。出して来る手を読んで潰すなんて、魔物なら相当高い知能がないと出来ない芸当よ。」
そして最後に…と付け足し
「屍人が仲間を呼び出す手段なんて聞いたことないわ、貴方が戦ったのって、本当に屍人種なの?」
そのように女性に諭されてしまった、実際に戦ったアルトは耳を疑った。
「本当に俺が戦った奴は屍人種の姿をしてました。肌はただれてましたし、特有の腐敗臭も覚えていますので、間違いはないかと。」
見間違いはないはずだ。確かに自分が戦ったのは特に他の同種と変わらない屍人…しかし言われてみれば屍人にしては攻撃に理性があった。
こちらが怯んだ隙を狙って攻撃するだけでもありえない行動ではあるが、途中からこちらの攻撃は次第に避けられてしまい、最終的には屍人の手の内で踊らされているかの如く無様な戦いになってしまった。
(確かに、自分が知ってた屍人種の情報にも一致しないな…特徴の違いを差し置いても、虚偽者より下位の種族があそこまで強いものか?虚偽者の時は結晶を使ってたからといっても、あれじゃあ屍人の方がよっぽど強かったしな…)
後々になって、考えれば考えるほどに戦った屍人への疑問が増えていく。
だが、このまま考え続けても仕方ない。自分がいったいどれほど意識を失っていたかは定かではないが、サクロやネロは心配していることだろう。
「とりあえず、色々とありがとうございました。お礼は近いうちにお返ししたいのですが、待たせ人がいますので自分はこれにて失礼しますね。ところで、自分の持ち物ってどこにありますか?」
なるべく早く町へ戻るために、自分の所持品はどうなったかを尋ねた。
「貴方のズボン以外はボロボロになってたから一応は繕いはしたんだけど…持ってた銃に関してはもう使い物にならないわね。」
そう告げられると修繕されたジャケットと銃口が閉じられるようにへこんだ銃を手渡された。
「武器無しで下山かぁ、キッツいなぁ…」
銃はご覧の有り様、剣も屍人に奪われたっきりでアルトは現在、裸同然の状態である。
そして、少し落胆しきっているアルトに少女から追い討ちをくらう。
「そもそも、ライフレッドはここから2つ山を超えないといけないし、山の途中の橋は貴方が壊しちゃったから修理されるまでは帰れないよ?」
アルトは絶句してしまった。橋の下が大きい河だとは思っていたが渡ろうとしていた山の反対側まで流されているとは思いもしなかった。
「橋が治るまで、ここに住んでても大丈夫よ。それに、完治しきってない体で出られて、次は死んでましたなんてことになったら私も目覚め悪いし。」
そう軽く笑いながら言われた。
実際、体が動かせるといっても、完治していないことは本当なのでアルトは少女の厚意に甘えざるを得なかった。
ただ、やはり2人のことが気がかりであったので電話があるかを確認し、問題なく使えるようなので2人いる店に連絡をしに行こうとした。
「まだお名前を教えてませんでしたよね、俺はアルト・ファクティスっていいます。貴方のお名前を伺っても?」
しばらくは世話になる御仁。双方の名前を知らないままでは不便であるし、失礼に値するのではと思い、自分の(偽)名を教え、少女に名前を聞いた。
「別にそこまで堅苦しく名乗らなくていいわよ。
私は[シルク・ロード]。しばらくは宜しくね!」
偶然なのか。それとも同じ名の他人なのかは知らないが、自分の真名と同じ[ロード]の苗字であることに表情には出さないものの驚いてしまった。
9話目、投稿です。
最初は世界感を魔法や幻想溢れるファンタジー物にしたかったのですが、主人公の戦闘描写や所々に現実と近いものを取り入れていった結果、先の展開を想像するたびにダークファンタジー寄りになってました…
いや、処女作でダークファンタジーとか無理じゃね?
こうなるならもっと書く前に展開をしっかりメモしておけばよかった!
後悔しても遅いんすけどね、ハハハ